Community Energy Toolkit

コミュニティエネルギー・ツールキット

再生可能エネルギーの多様なオーナーシップのベストプラクティス

IRENA Coalition for Action Community Energy Working Group

このレポートは、IRENA Coalition for Action のコミュニティエネルギーに関するワーキンググループのメンバーが共同で作成したものです。ケーススタディのアプローチを用いて、世界中のコミュニティがエネルギーの意思決定に積極的に参加し、公正な移行に向けて経済・社会・環境に利益をもたらす再生可能エネルギーの潜在能力を活用するさまざまな方法を紹介しています。

Community Energy Toolkit

Best Practices for Broadening The Ownership of Renewables

IRENA Coalition for Action

元レポート 2021年

日本語翻訳 2022年

寄稿者

Krisztina André (German Citizen Energy Alliance, BBEn); Benjamin Lehner (Dutch Marine Energy Centre); Davina Ngei and Christine Lins (Global Women’s Network for the Energy Transition); Shota Furuya (Institute for Sustainable Energy Policies); Samuel Law and Olivia McCue (International Hydropower Association); Monica Oliphant (International Solar Energy Society); Anna Skowron (World Future Council); Stefan Gsänger (World Wind Energy Association); Kelly Tai (former IRENA); and Stephanie Weckend, Anindya Bhagirath, Ranya Oualid and Giedre Viskantaite under the guidance of Rabia Ferroukhi (IRENA).

謝辞

Rohit Sen (ICLEI – Local Governments for Sustainability), Namiz Musafer (IDEA, Kandy), Lea Ranalder (REN21), Aidan Cronin (Siemens Gamesa), Anna Skowron and Naemie Dubbels (World Future Council) から貴重なレビューとフィードバックをいただきました。

また、IRENA Coalition for Action は、ケーススタディでインタビューした個人に特別な感謝とお礼を申し上げます: Ibrahim Togola (ACCESS), Sister Yoela Luambano (Benedictine Sisters of St Agnes), Margaret Hender (Citizens Own Renewable Energy Network Australia), Walther Sanné (Community Entrance Hinterland), Dolf Pasman (Deepwater Energy), Maëlle Guillou and Eugénie Bardin (Enercoop), Micha Jost (Energiegenossenschaft Starkenburg eG), Harry Andrews (Renew), Masahiko Shizawa (Hotoku Energy / Shonan Power), Yushi Doi (Shonan Power), Nuri Palmada (Som Energia), Habiba Ali (Sosai Renewable Energies), Calvin Waquan (former Three Nations Energy) and Annette Breuel (UrStrom BürgerEnergieGenossenschaft Mainz eG Citizen Energy Co-operative).

This report was edited by Stefanie Durbin and designed by Myrto Petrou.

日本語翻訳

古屋将太(監修)

IRENA Coalition for Action (2021), Community Energy Toolkit: Best practices for broadening the ownership of renewables, International Renewable Energy Agency, Abu Dhabi.

本レポートは “Community Energy Toolkit: Best practices for broadening the ownership of renewables” ISBN:978-92-9260-366-3 (2021) の非公式な日本語翻訳版です。英語オリジナル版と日本語版で相違がある場合は、英語版の記述が優先されます。

1. イントロダクション

再生可能エネルギーの導入量は過去最高を記録していますが、世界の気温上昇を1.5℃に抑えるために必要なエネルギー転換の実現には、まだ道半ばです。再生可能エネルギーへの移行を加速させ、それを公正かつ公平におこなうためには、より多様な主体が関与する新しいアプローチが必要です。

コミュニティエネルギー(再生可能エネルギープロジェクトにおける市民または定義されたコミュニティのメンバーによる経済的および運営上の参加と所有)は、公正かつ包括的なエネルギー転換の重要な実現手段となりえます(IRENA Coalition for Action, 2018)。コミュニティエネルギーは、地域の社会経済的価値を生み出すだけでなく、エネルギー民主化への道筋において、コミュニティが資金やエネルギー資源を直接管理することで、より大きな自律性を実現することができます。これは、再生可能エネルギーに対するより前向きな姿勢を育み、エネルギー転換に対する市民の支持と参加を高めるのに役立ちます(IRENA Coalition for Action, 2020)。

コミュニティエネルギー開発には、世界各地でさまざまなアプローチが見られます。再生可能エネルギーの生産を地域経済発展のために活用するエネルギーアクセスの取り組み、再生可能エネルギーを系統に供給しエネルギーサービスを提供するコミュニティ主導のプロジェクト、コミュニティと地方自治体、電力会社、民間事業者などの従来のエネルギー関係者とのパートナーシップなどがその例として挙げられます。

このような多様性は、コミュニティエネルギーの取り組みが展開されている地域のさまざまな状況を反映しており、ひとつのベストプラクティスを特定することは困難です。そのため、コミュニティエネルギーのベストプラクティスを示すケーススタディの普及は、依然として不可欠です。知識の交換により、コミュニティは、同様の取り組みを展開している他のコミュニティから学んだり、コミュニティと協力して再生可能エネルギーによる共有価値の創造に取り組む経験豊富な第三者とのパートナーシップの可能性を見出したりすることができます。

このレポートでは、コミュニティがエネルギーの意思決定に積極的に参加するためのさまざまな方法を、ケーススタディ方式で紹介しています。次の章では、コミュニティが再生可能エネルギーの取り組みを進める際に考慮すべき7つの側面と重要な問いを明らかにしています。第3章では、世界各地のコミュニティエネルギーに関する11のケーススタディから示唆されるコミュニティのためのキーポイントを述べています。第4章では、主要なステークホルダーへのインタビューを含むケーススタディが紹介されています。最後に、付録として、コミュニティのための追加的なリソースをリスト化しています。

コラム1

IRENA Coalition for Action コミュニティエネルギーワーキンググループ

2017年に設立されたIRENA Coalition for Actionコミュニティエネルギーワーキンググループは、コミュニティエネルギーを通じて再生可能エネルギーの地域所有を広げるためのケーススタディやベストプラクティスを記録した一連のレポートと分析を作成してきました。

このワーキンググループの最初のレポートは、コミュニティエネルギーのコンセプトを紹介し、そのメリットと導入の課題を論じています。第2版では、コミュニティエネルギーのベストプラクティスを反映した政策手段や融資メカニズムを紹介し、政府や金融機関に対し、その発展を加速させるための提言をおこないました。第3版の本書では、前2作を補完するかたちで、再生可能エネルギー事業を展開するコミュニティの現場からコミュニティエネルギーについて考察しています。

Coalition for Action レポートシリーズ – 再生可能エネルギーの地域所有を拡大する

2. コミュニティエネルギーの分析枠組み

規模の大小にかかわらず導入されるコミュニティエネルギーの取り組みは、以下の要素のうち少なくとも2つを組み込んでいます(IRENA Coalition for Action, 2018)。

図1. コミュニティエネルギー・イニシアティブの要素

コミュニティエネルギーのベストプラクティスを導き出すため、Coalition for Actionは上記の定義を適用し、50以上の注目すべき再生可能エネルギーの取り組みを特定し、分析しました。これらの取り組みから、当グループは11のケーススタディを作成し、コミュニティエネルギーに関する7つの共通点(図2)として、コミュニティが再生可能エネルギーに取り組む際に考慮すべき点をまとめて紹介しました。

図2. コミュニティエネルギーの次元

地域条件と政策環境

コミュニティエネルギーの取り組みを立ち上げ、実施するための政策環境は、地域によって異なります。ある行政区域でコミュニティエネルギーを可能にする政策手段には、コミュニティエネルギー・プロジェクトの市場参入を促進する規制措置、その資金調達を支援する財政措置、コミュニティが再生可能エネルギーに取り組む上で必要なスキルや知識の習得を支援する行政措置などがあります(IRENA Coalition for Action, 2020)。

コミュニティチェックリスト

どのような規制要件を満たす必要がありますか? 例えば、再生可能エネルギープロジェクトの立ち上げを希望するコミュニティは、再生可能エネルギープロジェクト開発に関する要件を遵守する必要があります。また、エネルギー供給会社として設立する場合は、許認可やその他の規制の手続きをおこなう必要があります。

コミュニティエネルギーを支援する政府の政策や制度はありますか? コミュニティは、基礎自治体、広域自治体、国の政策やプログラム(例:気候変動対策計画、コミュニティエネルギーの取り組みに対する資金援助、ジェンダー行動計画)から支援を得ることができるかもしれません。

地元での再生可能エネルギー事業に対して、コミュニティは前向きに捉えていますか? 持続可能性や環境保全に関心を持ち、知識を得ているコミュニティは、コミュニティエネルギーへの投資に対して強い動機付けをもつことがあります。地域住民の参加と関与を求めることで、コミュニティは再生可能エネルギー事業への賛同をより促進することができます。

コミュニティはネットワークにつながることを望んでいますか、それとも独立して運営することを望んでいますか? 地域によって、系統に接続できる場合とそうでない場合があります。また、地域によっては、分散型コミュニティエネルギーを選択する場合もあります。

テクノロジー

コミュニティエネルギーの取り組みでは、さまざまな再生可能エネルギー技術が活用されています。それぞれの技術には利点と欠点がありますが、コミュニティエネルギーの取り組みにどの技術を選択するかは、最終的には地域の状況によって決まります。再生可能エネルギー技術に対する政策的支援の有無に加え、コミュニティが検討すべきその他の要因としては、取り組みの目的と規模、地域における再生可能エネルギー資源の可能性、再生可能エネルギー設備を導入するための土地の確保、地元での部品や労働力の入手のしやすさなどがあります。

コミュニティチェックリスト

取り組みの目的・規模は? 例えば、主に自分たちのエネルギー需要を満たすためにエネルギーを生産したい地域と、独立した発電事業者になりたい地域は、異なる規模のプロジェクトを追求する可能性が高いです。また、コミュニティは、発電や供給以外の目的(例えば、配電、熱、自家消費、貯蔵、輸送など)にも目を向けるかもしれません。

コミュニティの再生可能エネルギー資源ポテンシャルと、プロジェクトの立地・設置場所は? 再生可能エネルギー資源(風速、日射量など)と立地の条件によって、コミュニティで利用可能な技術の選択肢が決まります。例えば、太陽光発電は建物の屋根に設置することができるため、都市部での利用に適しています。

現地の部品や人材に容易にアクセスできますか? 現地で部品や労働力を入手することができる場合、再生可能エネルギー設備の運用・保守に関連する課題を軽減することができます。

どの再生可能エネルギー資源が、もっとも幅広い参加を促しますか? 技術によっては、女性や若者を含む幅広いコミュニティのメンバーが、資金調達や運用・保守の面でよりアクセスしやすいものがあります。

コミュニティには、技術を構築し、運用し、維持するためのスキルがありますか? プロジェクトの建設や運用・保守に積極的な役割を果たしたいコミュニティは、コミュニティ内の既存のスキルセットを評価し、能力を高めるためのトレーニングへの投資が必要かどうかを判断するとよいでしょう。

オーナーシップとガバナンス

コミュニティが再生可能エネルギー事業の過半数または全部の所有権を獲得できるかどうかは、土地、労働力、金融資本などの知識と資源を利用できるかどうかにかかっています。オーナーシップの有無にかかわらず、コミュニティは、意思決定の中心にコミュニティのメンバーを置き、自治体、非政府組織(NGO)、民間セクター、他のコミュニティなど、さまざまなパートナーとの協働を可能にするガバナンスの枠組みの導入に努めなければなりません。

コミュニティチェックリスト

プロジェクトの発案者は誰ですか? 外発的な取り組みなのか、地域の内部から立ち上がった取り組みなのでしょうか? プロジェクト/コミュニティエネルギー事業体の設立には、既存のコミュニティ組織が関与していますか? 全く新しい組織を立ち上げるのでしょうか?

オーナーシップはどの程度が望ましいのでしょうか? 取り組みを立ち上げるために、どのような法人格が利用可能でしょうか? コミュニティが希望するエネルギー自治のレベルは、オーナーシップモデルの選択に影響します。どのような法人格が利用可能かは、その地域の法律によって異なります。

コミュニティはどのような責任を持ち、どのように取り組みを管理しますか? コミュニティのメンバーは、明確な責任を定義することに加えて、ガバナンス構造と意思決定プロセスを決定する必要があります(例:合意ベースの意思決定は、コミュニティメンバー全員からの賛同を容易にします)。

地域住民を巻き込むためのプロセスは確立されていますか? コミュニティのメンバーからの支持を得るためには、メンバーの関心、性別、参加の度合いに応じて、さまざまなアプローチで参加を模索する必要があります。プロジェクトの構想段階での情報共有や協議から、プロジェクトの建設・運営段階での協力やエンパワーメントといった積極的な参加の促進まで、さまざまなアプローチが考えられます。プロジェクトのパフォーマンスやメンテナンスコストに関する情報を定期的かつ透明性をもって共有することで、コミュニティとの継続的なかかわりを促進することができます。

ファイナンス

コミュニティエネルギーの資金調達と所有権は密接に関連しています。コミュニティは、メンバーからの拠出に加えて、外部の公的機関や民間企業からの助成、借入、株式による資金調達を組み合わせて、再生可能エネルギーの取り組みをおこなうことができます(IRENA Coalition for Action, 2020)。また、コミュニティは、クラウドファンディングのようなオルタナティブな資金調達メカニズムを利用することもできます。

コミュニティチェックリスト

コミュニティは、取り組みに財政的に貢献する能力がありますか? コミュニティは、現金または現物(自発的な労働力、土地の使用、資材、サービスの無償提供など)で貢献することができます。

コミュニティが利用できる外部資金源にはどのようなものがありますか? 例えば、政府からの補助金や融資、金融機関からの融資、地域によっては第三者からの投資(コミュニティに利益をもたらす金融制度、女性の参加を可能にする特定のプログラム、民間企業との連携など)などが考えられます。

社会経済的インパクト

コミュニティエネルギーの取り組みは、コミュニティにとってクリーンで安価な信頼できるエネルギーへのアクセスを拡大するだけでなく、地域の雇用、地域住民のスキルアップ、健康へのプラスの影響、公共の福祉などの社会経済的利益を生み出すことができます。このような地域的な利益を増幅するために、エネルギー生産は、コミュニティが再生可能エネルギーを生産的に利用する経済活動を支援するために、直接的、間接的に活用することもできます(例えば、エネルギーをグリッドに販売することによる収益化など)。

コミュニティチェックリスト

コミュニティはどのような恩恵を受けるのでしょうか? コミュニティエネルギーの取り組みをはじめる前に、コミュニティは取り組みを通じて達成したい成果と、そのメンバーにとってもっとも重要な社会経済的利益について明確に理解する必要があります。

地域住民にどのように利益を配分しますか? コストや利益は公平に配分されていますか? 例えば、地域エネルギー事業で得られた収益は、所有割合に応じて地域住民に分配したり、弱者のエネルギー料金を軽減したり、ジェンダーエクイティのための予算に計上したり、地域住民全員に利益をもたらす地域事業に割り当てることができます。また、地域の雇用機会の創出や、特に女性や若者に対する教育や技術訓練の提供のような利益分配も考慮される場合があります。

再生可能エネルギーを生産的に利用する、あるいは他の持続可能なプロジェクトを開始する機会はありますか? 家庭を対象としたプログラム(例:エネルギー効率化プログラム)から、輸送(例:e-モビリティ)、冷暖房(例:化石燃料をヒートポンプに置き換える)、農業(例:再生可能エネルギーによる灌漑)などの分野における電化による脱炭素化に至るまで、幅広い分野で活動の対象となり得る機会があります。

文化的配慮

コミュニティは、再生可能エネルギー構想に基づく重要な決定がコミュニティの中心的価値観や信念と一致するよう、その文化的慣習を構想の構造やガバナンスに統合することを検討すべきです。相互依存が進む世界では、異文化間の協力がより一般的になりつつあり、文化の違いによる誤解が生じる可能性がより大きくなっています。取り組みのパートナーたちは、地域社会の意思決定プロセスに影響を与える可能性のある文化的価値観、信念、慣習を認識する必要があります。

コミュニティチェックリスト

コミュニティの核となる価値観や慣習は何ですか? 社会的、経済的、環境的、制度的に異なる状況で開発された他のコミュニティエネルギープロジェクトのベストプラクティスを採用する場合、中心的価値観と実践を強く意識することが特に重要です。

コミュニティがパートナー候補に求めるものは何ですか? コミュニティの望ましい意思決定方法、中心的価値観や慣習をパートナーが理解すれば、パートナーシップはより成功します。

ジェンダー配慮

多くの社会で、意思決定プロセスにおける女性の割合は依然として低くなっています。コミュニティは、再生可能エネルギーへの取り組みを、女性を指導的立場に置くことによって、伝統的な男女の役割分担意識に挑戦する手段として利用することができます。コミュニティはまた、例えば、再生可能エネルギー部門での仕事に必要なスキルを身につけたり、再生可能エネルギーを生産的に利用するビジネスを立ち上げる機会を提供することで、女性が再生可能エネルギーの社会経済的利益を十分に享受できるようにすることができます。

コミュニティチェックリスト

女性の参加はどのように奨励・支援されるのでしょうか? これは、指導の機会、研修へのアクセス、技術的・非技術的分野のスキル開発(例:学生向け研修、ビジネス・リーダーシップ・プログラム)により達成できる可能性があります。

コミュニティやプロジェクトにおける男女間の不均衡や、その解決策について十分に認識されていますか? 特にコミュニティエネルギー事業の運営組織に対するジェンダーエクイティの目標を設定することで、女性の参加を可能にすることができます。

プロジェクトにおける女性の役割に十分な注意が払われていますか? 女性のロールモデルを強調し、女性の貢献を紹介することは、コミュニティエネルギープロジェクトに女性がさらに参加する動機付けになります。

以上のチェックリストを通じて、コミュニティはニーズを特定し、その中心的価値観にそったビジョンを策定し、さらにその環境を考慮した上で、最初のステップを踏み出すことができます。これにより、コミュニティは、そのエネルギーの将来についてオーナーシップを持つことができる再生可能エネルギー、エネルギー効率化などの技術の道筋を特定し、雇用創出などの社会経済的価値を最大化するために必要な行動を決定することができます。コミュニティのメンバー、政府機関、金融パートナーとの対話を通じて、コミュニティはボトムアップで構造変革を推進し、エネルギー転換を加速させることができます。

3. キーポイント

再生可能エネルギーのコミュニティは、強力にエネルギー転換を促進します。社会的、公正かつ公平なエネルギー転換を実現するために、政府、金融機関、その他のパートナーは、コミュニティエネルギープロジェクトの促進において重要な役割を担っています(IRENA Coalition for Action, 2020)。安定した、予測可能な、非差別かつ促進的な政策環境は、コミュニティエネルギーを展開する上で極めて重要です。また、パートナーたちは、再生可能エネルギーの取り組みを立ち上げた経験が乏しいコミュニティに対して、資金、技術、知識の支援を提供することができます。

再生可能エネルギーの取り組みを成功させる上で、コミュニティは次のようなことを考えることが重要です。

  • コミュニティは、再生可能エネルギーを生産的に利用する機会を特定し、その利益を増幅させるべきですSosai Renewable Energiesが設置したミニグリッドは、ナイジェリアの2つの村の家庭や企業にエネルギーへのアクセスを提供しただけでなく、農家が保存する農産物の種類を増やし、割高な価格で販売することを可能にしました。カナダでは、Three Nations Energy(3NE)が、最初の太陽光発電所の成功を基盤として、食料安全保障とエネルギー主権をターゲットとした持続可能なイニシアティブに投資しています。また、Citizens Own Renewable Energy Network Australia (CORENA) の事例では、再生可能エネルギーやエネルギー効率化プロジェクトへの資金提供に留まらず、化石ガス代替や電気自動車(EV)プロジェクトへと拡大しており、利益の拡大を実証しています。同様に、ドイツでは、UrStrom市民エネルギー協同組合マインツeG(UrStrom)が、輸送など他の部門の脱炭素化において再生可能エネルギーの利用を実施しはじめています。
  • コミュニティは、共通の目的を育むために、コミュニティメンバー間の対話を醸成し、グループからの知識や経験を活用して、取り組みを進める必要があります。欧州の多くの地域では、共同所有と民主的な意思決定を重視することから、協同組合がコミュニティエネルギーの所有と管理のための一般的なモデルとして浮上しています。市民エネルギー協同組合であるUrStromとSom Energiaは、それぞれ、コミュニティのメンバーが専門知識の源となり、さらに独自の補完的な取り組みを開始できることを紹介しています。また、ほうとくエネルギーと湘南電力の事例では、地域内の対話によって、エネルギー関連の新たなビジネスチャンスが生まれ、地域の再生可能エネルギーに関する共通のビジョンが形成されることを明らかにしています。
  • コミュニティは、再生可能エネルギーに関する技術トレーニング、規制要件や政府政策の理解、コミュニティエネルギーの事業計画を策定するために必要な財務ノウハウの習得などを通じて、能力開発に時間を費やすべきです。タンザニアの聖アグネス・ベネディクト会修道院は、Tulila水力発電所の建設時に重要な決定を下すだけでなく、プロジェクトの運営と維持管理の主要な責任者となるための訓練も受けています。
  • コミュニティエネルギーは、包摂に加え、ジェンダーや若者の公平性のための手段となり得ます。Tulila水力発電所のケーススタディにあるように、コミュニティエネルギーの取り組みは、指導的地位に女性が平等に就くことを義務づけるガバナンス構造を確立し、コミュニティの女性メンバーが再生可能エネルギー関連の仕事に就くことによって、ジェンダー格差を解消することができます。Sosai Renewable Energyは、コミュニティの女性にスキルを身につけさせ、コミュニティエネルギーによって可能になった派生事業の運営を任せることで、パートナーがいかに女性を支援できるかを明らかにしています。さらに、一般的に社会的弱者とされる人々も、コミュニティエネルギーに参加することで、積極的にコミュニティの一員となることができます。
  • コミュニティエネルギーに関する取り組みの多くは、パートナーシップの産物です。多くの場合、これらのコミュニティは、新しいパートナーとの関係を培い、既存のパートナーとの関係を深めるために時間をかけて努力してきました。日本では、ほうとくエネルギーと箱根小田原エネルギーコンソーシアム(ECHO)の設立に際して、地域の経済リーダーのネットワークが重要な役割を果たしました。フランスのエネルギー供給会社Enercoop、ベルギーのエネルギー協同組合Ecopower、協同組合やエシカル銀行が、従来の融資先が消極的な場合に金融保証を提供するために歩み寄った事例があります。
  • パートナー組織と協働する場合、コミュニティは、パートナーが地域の状況や価値観、ニーズを理解することを支援する必要があります。こうした理解をもつことで、東ティモールの3NE、RenewのVillage Lighting Scheme(VLS)、スリナムの水力発電所Bëkyooköndë & Duwataのケーススタディで見たように、コミュニティの文化的価値と適合する意思決定プロセスの実施を支援することができます。後者の事例では、地元の慣習をガバナンス構造に組み込むこと、地元のインフラの課題に財務慣習を適応させること、再生可能エネルギーソリューションのための地元部品の利用可能性を検討することの重要性を示しており、この点で学んだ教訓を明らかにしています。
  • コミュニティは、他のコミュニティからインスピレーションやガイダンスを得ることができます。成功した取り組みは、再生可能エネルギーをサポートするために独自の回転基金を設立するグループに助言をおこなった CORENA の経験で強調されたように、しばしば進んでその知識や経験を共有しようとします。また、コミュニティは、より正式なパートナーシップを結び、相互に有益な交流をおこなうことができます。AfrikaSTARK1 イニシアティブでは、ドイツの協同組合である Energiegenossenschaft Starkenburg がマリのシカソ地域の太陽光発電による水灌漑プロジェクトへの資金提供を支援しました。この交流は、マリのコミュニティに多くの社会経済的利益をもたらし、協同組合にも具体的な財政的利益をもたらしました。

4. ケーススタディ

市民やコミュニティのインスピレーションとなるように、11のコミュニティエネルギーの取り組みが、Coalition for Actionのメンバーによる実際の経験をもとに選ばれています。ここで紹介するケーススタディは、主要なステークホルダーとのインタビューを通じて得られた知見をもとに構成されています。図3は、それぞれのケーススタディがどのような点に着目しているかを示しています。

図3. ケーススタディの概要

3NE Solar Farm(カナダ)

オーナーシップとガバナンス – 3NEは、先住民が所有・運営するグリーンエネルギーソリューションのために、3つの先住民族の間で形成されたパートナーシップです。

社会経済的インパクト – 最初の太陽光発電所の成功を基盤として、3NEはエネルギー主権と食糧安全保障をターゲットとした他のイニシアティブも開発しています。

AfrikaSTARK 1(マリ・ドイツ)

ファイナンス – ドイツの協同組合 Energiegenossenschaft Starkenburg からの融資により、マリ南部のブレンディオの自治体での太陽光発電による灌漑プロジェクトの設置が促進されました。

社会経済的インパクト – 水へのアクセスにより農業生産性が向上したことに加え、ブレンディオの COVID-19 への対応を支援しました。

CORENA(オーストラリア)

テクノロジー – CORENA の回転資金は、再生可能エネルギーやエネルギー効率化プロジェクトへの支援にとどまらず、化石ガスの代替エネルギーや電気自動車プロジェクトにも拡大しています。

ファイナンス – 個人や企業からの寄付金により、温室効果ガス(GHG)排出量を削減するためにコミュニティ団体に無利子で融資する回転資金を調達しています。

Enercoop(フランス)

地域条件・政策環境 – 電力に占める再生可能エネルギーの割合が10%のフランスで、Enercoop は100%再生可能エネルギーの電力供給事業者です。

オーナーシップとガバナンス – Enercoop の組織は分散型であるため、地域レベルでエネルギー問題に取り組むことができます。現在、フランス全土で活動する11の協同組合に55,000人以上の組合員を擁しています

ほうとくエネルギー & 湘南電力(日本)

オーナーシップとガバナンス – 小田原箱根エネルギーコンソーシアム(ECHO)の設立にともない、地域新電力である湘南電力のオーナーシップと経営が地元企業に移管された。

ファイナンス – 地元企業によるエクイティファイナンス、地元金融機関による融資、市民によるメザニンファイナンスにより、小田原市内に1MWの太陽光発電を導入しました。

Som Energia(スペイン)

地域条件と政策環境 – ジェネレーションkWhのようなイニシアチブは、Som Energia が再生可能エネルギープロジェクトに資金を提供する革新的な方法を開発し、 政策の障壁を克服したことを浮き彫りにします。

オーナーシップとガバナンス – スペイン最大の非営利の再生可能エネルギー協同組合である Som Energia は、現在12万5千人の顧客に再生可能エネルギーによる電力を供給しています。

Sosai Renewable Energies(ナイジェリア)

社会経済的インパクト – ナイジェリア北部の2つの村に設置された太陽光発電のミニグリッドにより、地元の農家が生産物を加工するためのソーラー乾燥機が設置されました。

文化・ジェンダー配慮 – 地元の女性たちがソーラー乾燥機を管理し、毎月の収入と技術習得の機会を提供しています。

Tulila 水力発電所(タンザニア)

社会経済的インパクト – Tulila 水力発電所からの電力は、各家庭に照明や水へのアクセスを提供し、必要不可欠な医療サービスを支え、食用作物を加工するための粉砕機にも電力を供給しています。

文化・ジェンダー配慮 – ベネディクト会聖アグネス修道院は、27,000世帯にクリーンな電気を供給する水力発電プロジェクトを開発し、現在運営・管理しています。

UrStrom(ドイツ)

地域条件と政策環境 – UrStrom は、民主的に計画・所有される太陽光発電プロジェクトを通じて、ドイツのマインツにおける地域のエネルギー転換を推進しています。

社会経済的インパクト – 交通革命をリードする UrStrom は、電気自動車サービスを開始し、電動モビリティに焦点を当てた国内および欧州の組織の設立を支援しました。

Village Lighting Scheme(東ティモール・オーストラリア)

地域条件・政策環境 – オーストラリアの非営利団体 Renew は、地元の組織や東ティモール政府と協力し、コミュニティが管理するエネルギープログラムを開発しました。

テクノロジー – コミュニティのメンバーは、プログラムの技術者として指名され、全国的に認定された太陽光発電の認定コースを修了しました。

ファイナンス – プログラムは、Pay-as-you-go 方式による太陽光発電のレンタル・モデルへと発展しました。

Bëkyooköndë & Duwata 水力発電所(スリナム)

テクノロジー – 革新的な電化ソリューションが、コミュニティの具体的なニーズに適応しました。コミュニティのメンバーは、プロジェクトの運営と維持のための訓練を受けています。

文化・ジェンダー配慮 – コミュニティとプロジェクトにかかわるさまざまなステークホルダーの間に信頼関係が構築されました。

3NE Solar Farm

カナダの遠隔地におけるディーゼル燃料への依存を軽減

主な特徴

  • 運用開始時期:2020年~現在
  • テクノロジー:太陽光発電
  • 設備容量:2.35MW
  • ファイナンス:配電事業者とのオフテイカー契約、連邦政府および州政府の補助金(合計 780万カナダドル = 630万米ドル)

フォート・チペワヤンは、カナダの多くの遠隔地と同様、これまでディーゼル燃料に頼ってきました。フォート・チペワヤンは、カナダ・アルバータ州の北東部に位置し、1,000人以上の人々が暮らしています。この集落には四季を通じて道路が通っておらず、夏には飛行機と船、冬には飛行機と氷上道路でしかアクセスできません(Regional Municipality of Wood Buffalo, n.d., 2006)。

フォート・チペワヤンの住民の多くは、アサバスカ・チペワヤン先住民族、ミキセウ・クリー先住民族、メティス民族のいずれかの民族であることを認識しています。2018年、この3つのグループは、グリーンエネルギーソリューションの先住民所有・運営のための手段である Three Nations Energy(3NE)を設立しました。

3NE は、2020年2月に同社初の再生可能エネルギープロジェクトの建設に着手しました。2.35メガワット(MW)の太陽光発電所は、配電事業者 ATCO Electric が所有する1.5MWの蓄電システムに接続されています。このプロジェクトで生産された電気は、ATCO Electric が購入し、フォート・チペワヤン全域に配電される予定です。また、このプロジェクトは、カナダ政府(450万カナダドル = 360万米ドル)とアルバータ州政府(330万カナダドル = 260万米ドル)から補助金を得ています。注目すべきは、この太陽光発電所がアルバータ州で初めて、同州の公益事業規制当局から「コミュニティ発電ユニット」としての規制認可を受けたことです(Three Nations Energy, 2020)[1]

太陽光と蓄電を組み合わせたソリューションにより、フォート・チペワヤンのエネルギー需要の25%を満たし、年間のディーゼル消費量を80万〜90万リットル削減することが期待されています。2020年11月現在、3NE太陽光発電所は、カナダの遠隔地のコミュニティで最大の太陽光発電システムとなっています。

インタビュー

  • カルバン・ワクアン氏(ミキセウ・クリー先住民族 3NE創立者兼ディレクター)

Q1. 地域の再生可能エネルギーにかかわろうと思ったのはなぜですか? プロジェクトに参加したきっかけは?

私のコミュニティでは、エネルギー需要を満たすために、冬のアイスロードを通るディーゼルのトラック輸送に頼っています。アルバータ州のロッキー山脈の積雪量が多いため、ピースアサバスカデルタの河川横断の雪解け量が多く、流量も多くなっています。その上、冬のはじまりが暖かくなり、道路にアクセスできる期間が短くなることは一般的な傾向であるため、ある日突然、道路が使えなくなるかもしれません。

私は2018年、パートナーであるアサバスカ・チペワヤンのメンバーから、ICE 20/20 カタリストプログラム[2]に参加することを勧められ、再生可能エネルギーの道を歩みはじめました。プログラムを修了してからは、プログラムのコーチ/コミュニティメンターとなり、現在は ICE のアドバイザリーカウンシルのメンバーとして活動しています。自分のコミュニティに恩返しをし、次世代のエネルギーチャンピオンに知識を伝えることは、とても光栄なことです。

コミュニティでリーダーとしての能力を高めることは重要であり、私たちの国がより伝統的で持続可能な生活へと向かうことができ、すべての人に利益をもたらす気候に優しい未来になることを願っているのです。長老や若者たちとの会話の中心は、大地に根ざした伝統的な生活と、人間の経済と母なる環境との間で均衡を保ちながら生きる未来でした。多くの点で、コミュニティが所有するクリーンエネルギーへの移行は、過去に私たちが行ってきた方法への回帰であり、周囲の環境とバランスを取りながら生活することなのです。

太陽光発電所にかかわる機会が訪れたとき、ミキセウ・クリーは独自に再生可能エネルギープロジェクトの開発を検討していました。プロジェクトを評価し、州政府や連邦政府の資金を確保した後、ATCO、アサバスカ・チペワヤン先住民族、フォート・チペワヤン・メティス協会と提携することは、ビジネス的にも地域的にも理にかなっていると考えました。このパートナーシップは、3つの先住民族の関係を構築するチャンスでもあるのです。

Q2. プロジェクトで確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割は何ですか?

3NE は、対等なパートナーシップとして設立されました。それぞれの先住民族が3分の1を所有し、取締役会の2つの議席を持ち、社長は交代で務めます。

また、政治とビジネスを切り離すことを選択しました。チーフ[3]や評議員には、3NE に関する意思決定権はありません。理事は、知識と経験に基づいて選出され、各民族から任命されたメンバーであれば、誰でもなることができます。

取締役会の決定は、先住民の伝統的な慣行と一致するコンセンサスによっておこなわれます。集団の最善の利益を念頭に置いて決定されるため、対立はありません。まれに意見の相違がある場合は、「同意しないことに合意」して次に進みます。

Q3. プロジェクトに初めて参加したとき、地域社会にどのような利益をもたらすとお考えでしたか? また、その考えは時間とともに変化しましたか?

私たち(3NE)が太陽光発電所に取り組みはじめたとき、このプロジェクトの可能性を完全に理解していたわけではありません。しかし、時間が経つにつれて、当初は気づかなかったような可能性がどんどん見えてきました。

太陽光発電所の調達プロセスがうまく管理され、予算内で収まったため、プロジェクトに発電容量を追加することができ(当初は2.2MWの予定)、食糧安全保障とエネルギー主権をターゲットとした他の持続可能なイニシアティブに投資することができました。

例えば、太陽光発電所の敷地から引き上げた木材をストックに変換するための木材加工機を購入し、木質燃料のビジネスを立ち上げました。また、ファイヤースマートプログラム(山火事のリスクを軽減するためにコミュニティ周辺の木を間引くこと)のための林業契約を結び、将来のストック用にできる限り引き揚げました。現在、このビジネスは、それぞれの民族のスタッフを雇用して本格的に始動しています。

また、次の世代に変化をもたらすための土台づくりとして、エネルギーリテラシーの向上にも力を注いでいます。

3つの先住民族は現在、ピース・アサバスカ・デルタとウッド・バッファロー国立公園地域の小屋のオーナーを対象に、統合型太陽光発電パッケージの試験運用を開始しました。発電した電力のうち、キャビンへの電力供給に使用されなかった余剰電力は、バッテリーバンクに蓄えられます。キャビンのオーナーは、燃料節約に関するデータを追跡し、能力を高めるためのトレーニングを受けています。家庭でのエネルギー転換がこれほど早く、これほど大規模におこなわれるとは驚きです。

最後に、フォート・チペワヤンの住民(非先住民)は、温室効果ガス排出量の削減や、私たちが設立したオフショア・イニシアティブやプログラムに参加することで利益を得ることができます。

Q4. 開発・運営に当たっての大きな課題は何でしたか?

時間と遠隔地であることが主な課題でしたが、それ以外は楽しかったです。コミュニティへの参画やプロジェクトの計画には時間がかかり、正しくおこなうためには他者を尊重する必要があります。冬期以外は道路が使えないため、私たちの輸送・出荷シーズンも課題となった要因のひとつです。

もうひとつの課題は、私たちの取り組みに適したスキルを持つ人材を見つけることです。私たちは、エネルギーリテラシーのための予算や、後継者育成のためのコミュニティ専属のポジションを割り当てました。

COVID-19 では、太陽光発電所の建設過程でいくつかの課題が生じました。しかし、作業員を事前に隔離し、現地に滞在させることで、パンデミックの影響を軽減することができました。これは、建設労働者のほとんどが地元出身者であったこと(3NE は、プロジェクトの全段階において、可能な限り先住民の割合を60%にするよう交渉していた)により、容易に実現できたのです。私たちのパートナーである配電会社 ATCO と建設会社 Clark Builders の協力は素晴らしく、私たちのプロジェクトに対する彼らの献身的な努力に感謝しています。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

民族やリーダーは、自分自身、スタッフ、コミュニティの能力を高めるために時間と労力を費やす必要があります。エネルギー問題について、人々の関心、経験、理解度に関連したかたちで話をすることが大事です。

プロジェクトを急がないこと。旅先の景色を眺め、周りのものを観察し、自分の成果を祝う時間を持ちましょう。

電力会社、産業界、政府、その他の民族と有意義な関係を築き、能力を高め、プロジェクトを開発し、旅路を支援する。それぞれの交流がフォート・チペワヤンを前向きに前進させ、その過程でみなさんと共有したすべての時間とエネルギーに感謝しています。このような関係を築かなければ、プロジェクトを軌道に乗せることはできません。

政府は、エネルギーや天然資源のプロジェクトについて、先住民族や先住者と協議する義務があります。私たちに平等な席を与えることで、私たちは共有の土地で公平性と真の経済的和解を達成するために互いに助け合うことができるのです。

Hiy Hiy ありがとうございました。

[1] アルバータ州の2018年小規模発電規制では、コミュニティ発電ユニットとして認定されるには、プロジェクトがコミュニティグループにどのように社会・環境・経済的便益を与えるかを定めたコミュニティ便益協定もしくは合意を組み込む必要があります。
[2] 20/20 Catalysts は、Indigenous Clean Energy Social Enterprise が運営するカナダ全体のプログラムで、クリーンエネルギー開発における先住民の能力を高め、クリーンエネルギー構想を通じて得られる社会・経済的便益を先住民コミュニティが最大化できるよう支援するもの。
[3] カナダの多くの先住民族の文化では、バンド、氏族および/またはファースト・ネーションのリーダーをチーフ(Chief)と呼びます。チーフは、選挙で選ばれることも世襲されることもありますが、コミュニティで高い権威を持ち、しばしばその人々と自治体、州、連邦政府との間の橋渡し役を務めます。メティス族は一般的に自分たちの指導者をチーフと呼びません(Gadacz, 2018)。

AfrikaSTARK 1

マリ共和国とドイツのパートナーシップによる太陽光発電を利用したコミュニティ灌漑事業

主な特徴

  • 運用開始時期:2018年~現在
  • テクノロジー:太陽光発電
  • プロジェクト概要:太陽光発電ミニグリッドを利用したソーラー灌漑システム
  • ファイナンス:ブレンディオの地域住民からの寄付金、ドイツ市民エネルギー協同組合からの貸付金

ブレンディオは、マリ共和国南部のシカソ地方に位置する農村自治体です。スダノ・サヘリア気候に属し、農牧業が主な経済活動となっています。人口6,000人のブレンディオには、経済・文化活動を支える基本的なインフラが整っていますが、信頼できるエネルギー源と清潔な水の供給へのアクセスに対するニーズは高まっています。同自治体の保健所と給水設備は太陽光発電設備でまかなわれていますが、発電されたエネルギーは住民の残りのエネルギー需要をまかなうには十分ではありません。

ブレンディオの電力アクセスを向上させるため、マリの農村電化に積極的に取り組むマリの若手企業 ACCESS SA(アクセス)は、ブレンディオの自治体および国内エネルギー・農村電化開発庁(AMADER)を通じてマリ政府と協力し、2018年にハイブリッドミニグリッドシステムを設置しました。このシステムは、56 kWの太陽光発電システム、400 kWhの蓄電池、85 kVAのバックアップ発電機セットで構成されています。このミニグリッド・システムから供給される電力により、太陽光発電による水灌漑プロジェクトも設置され、特に8ヵ月続く乾季に長距離を歩いて水を得る必要があった地元女性の主な活動である家庭菜園が支援されました。灌漑システムは、電動ポンプを備えた深さ80mのドリル穴と、土壌から10mの高さにある25立方メートルの水タンクで構成されています。このプロジェクトを通じて、女性たちは家庭菜園のための水を1日あたり30〜45㎥手に入れることができるようになりました。

このプロジェクトは、ブレンディオ村とそこに住む人々との密接な協力のもとで実施されました。ブレンディオが適切な土地スペースの確保に協力した後、ACCESS は最適な水源地を決定するための調査をおこない、井戸の掘削システムを設置、ガーデニングスペースをつくり、新しい灌漑システムを使った野菜栽培について地元の女性たちにトレーニングを実施しました。ACCESS はプロジェクト実施中、村人たちを平等に雇用しました。若者、女性、自治体、生産者などの代表で構成される地元のエネルギー委員会が設立され、基本的な意思決定がおこなわれるようになりました。委員会は、村の電力供給に関するすべての事項、月々の料金徴収の円滑化、ACCESS への技術的な要請などを取りまとめています。

灌漑プロジェクトの資金は、コミュニティエネルギーに関する世界会議で ACCESS の活動を知った市民エネルギー協同組合(Energiegenossenschaft Starkenburg eG)から10,000ユーロ(約12,000米ドル)の融資を受けたものです。この資金は、プロジェクト総費用21,000ユーロ(24,000米ドル)の一部に充当されました。残りの金額は ACCESS が出資しています。

インタビュー

  • イブラヒム・トゴラ博士(ACCESS CEO)
  • ミハ・ヨスト氏(Energiegenossenschaft Starkenburg 理事)

Q1. ブレンディオが再生可能エネルギーに取り組もうと思ったのはなぜですか?

トゴラ博士 マリ全体で一般的に電化率が低いのですが、ブレンディオの住民たちは、自分たちの村の電化率が非常に低いことから、再生可能エネルギーに関わりたいと考えていました。

ブレンディオのコミュニティは、2018年にミニグリッドの設置により ACCESS がもたらした電気を喜んでいました。電気アクセスのインパクトを調査していたところ、地元の婦人会から、水がなく、乾季にガーデニングをおこなうことが困難であるという懸念が出されました。女性たちは水を汲むために何キロも歩かなければならないのです。

Q2. Energiegenossenschaft Starkenburg が、ソーラー灌漑プロジェクトに参加したきっかけは?

ヨースト氏 ACCESS とは、2018年11月にバマコで開催された「第2回世界コミュニティパワー会議」でコンタクトを取りました。会議では、イブラヒム・トゴラがバンコマナでのミニグリッドプロジェクトについて発表しました。そのプロジェクトがとても印象的で、「生協のお金でプロジェクトを支援できないか」というアイデアが生まれました。また、他のエネルギー協同組合がより大規模に実施する際のお手本となるような、一種の「モデルプロジェクト」を立ち上げようという意図もありました。

Q3. プロジェクトで確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割はどのようなものでしたか?

ヨースト氏 このプロジェクトは、協同組合の理事会で審議され承認された後、AfrikaSTARK 1 として会員に提示されました。協同組合のメンバーは、出資額にかかわらず、それぞれ1票の投票権を持っています。つまり、共同決定には民主主義の基本的なルールが適用されるのです。

AfrikaSTARK 1 への資金参加に対するメンバーの関心は非常に高く、目標額の1万ユーロに達したため、参加者を制限することになりました。最終的には、20人のメンバーのうち5人が、それぞれ2,000ユーロのデットファイナンスを供出しました。

トゴラ博士 ACCESS は、2009年からマリ南部のシカソ地方で活動しています。ブレンディオの自治体と村のリーダーが ACCESS にコンタクトをとってきたのは、純粋な商業主義ではなく、地元の代表者で構成されるエネルギー委員会とともに共同体の開発を統合し、すべての意思決定をおこなうという私たちのアプローチを気に入ったからです。さらに、ブレンディオは、持続可能なエネルギーと他の開発目標、例えば女性に恩恵をもたらす水灌漑プログラムとの組み合わせに関心を持っていました。

Q4. これまでのプロジェクトを通じて、どのような効果があったのでしょうか?

トゴラ博士 灌漑システムによって、地域の人々は雨季がうまくいくかどうかを気にすることなく収穫できるようになります。灌漑システムによって、野菜や果物の収穫をより計画的に、確実におこなえるようになり、自給自足が加速され、さらなる収入源となるでしょう。また、村の女性たちが水を求めて長い距離を歩くことも防げます。

AfrikaSTARK 1 プロジェクトは成功を収めました。村での収穫や経済活動が増え、生活も改善されました。COVID-19 の文脈では、水にアクセスできるようになったことで、ブレンディオの住民がバリア対策(衛生管理など)を導入することにもつながっています。

ヨースト氏 私たちは固定金利でローンを組んでいます。これによって、このプロジェクトが具体的な経済的利益をもたらすことになるのです。金利は、ドイツ国内のプロジェクトとほぼ同等です。

Q5. プロジェクトの開発・運営において、大きな課題は何でしたか?

トゴラ博士 開発・運営に際して大きな問題はありませんでした。コミュニティはこのプロジェクトに全面的に賛同し、ACCESS の技術者によるイニシアティブの実行を助けてくれました。

ヨースト氏 プロジェクトの実施に際して、私たちは何の影響力も持っていません。マリ共和国とドイツの間には大きな距離があるため、日常的な関わりは困難です。また、信頼できる法的枠組みがないため、保証も確約もありません。基本的に、このプロジェクトは関係者の信頼に支えられているのです。そのため、融資の金銭的なリスクも考慮しなければなりませんでした。プロジェクトに参加したメンバーは、こうしたリスクを承知の上で、世界の気候変動対策協力の推進に貢献する機会を得たことに動機をもっていました。

Q6. COVID-19 の影響は、生活のほぼすべての場面で現れています。パンデミックはプロジェクトに影響を与えていますか、もしそうならどのように?

トゴラ博士 パンデミックは、今のところこの取り組みに影響を及ぼしていません。それどころか、灌漑プロジェクトによって水にアクセスできるようになり、衛生環境が改善されたおかげで、ブレンディオの住民は病気と闘うことができるようになったのです。

ヨースト氏 COVID-19 の発生は、今のところプロジェクトに影響を及ぼしていません。しかし、直接的な人的交流は当面困難な状況が続くでしょう。今後のプロジェクトを実現するためにバーチャルな方法を改善し、既存のプロジェクトとの関係も維持していかなければならないでしょう。

Q7. 重要な教訓は何ですか?

トゴラ博士 再生可能エネルギーは、地方に住む人々の生活環境を改善するのに役立ちます。太陽エネルギーのおかげで、これらの人々は電気だけでなく水も利用できるようになり、地域社会の幸福のためにいくつかの収入を得る活動を展開することができるようになりました。

ヨースト氏 プロジェクトは、関係者の信頼関係があれば、悪条件でも成功するものです。そのためには、現地の企業がプロジェクトをおこなうことが重要です。持続可能なプロジェクトにするためには、小規模で管理しやすく、最終的には地元の人たちの手に委ねられる必要があります。この小さなプロジェクトが、他の協同組合が同じような行動を起こすきっかけになればと願っています。

CORENA

気候変動対策のための資金調達に回転資金を活用

主な特徴

  • 活動期間:2013年~現在
  • 主な活動内容:非営利団体への無利子融資事業
  • テクノロジー:太陽光発電、エネルギー効率化
  • プロジェクト数・容量:44件(太陽光発電設備容量:773kW)
  • ファイナンス:寄付型クラウドファンディングによる回転基金

Citizens Own Renewable Energy Network Australia(CORENA)は、GHG排出量を削減するための事業体(通常、非営利団体やコミュニティサービスを提供するその他の事業体)に無利子の融資をおこなうために設立された回転基金です。融資は通常、再生可能エネルギーやエネルギー効率の高い設備に関連する排出削減対策が対象です。融資を受けた企業は、電力料金や燃料代などの節約分を返済します(CORENA, 2020)。

CORENA は、メンバーやサポーターを含む、オーストラリア国内のあらゆる個人からの寄付によって支えられています。回転資金は、特定のプロジェクトに寄付されたものが、ローンの返済を通じてプロジェクトからプロジェクトへと回り続け、乗数効果を生み出します。2021年9月現在、プロジェクトに寄付された512,000豪ドル(383,000米ドル)により、CORENA は合計894,000豪ドル(668,000米ドル)のプロジェクトローンを提供することができました。設立から8年、CORENA はオーストラリア全土で44の太陽光発電およびエネルギー効率化プロジェクトに資金を提供し、2021年9月現在、773 kWおよび2,441 MWhの省エネに相当しています。

インタビュー

  • マーガレット・ヘンダー氏(CORENA創設者兼会長)

Q1. あなたの地域が再生可能エネルギーに関わりたいと思った理由は何ですか? CORENA に参加したきっかけは何ですか?

CORENA の場合、オーストラリア全土に散らばるメンバー、サポーター、寄付者からなる「コミュニティ」は、気候変動という緊急事態に対処するために、温室効果ガスの排出を具体的かつ迅速に削減するという共通の関心によって結ばれています。再生可能エネルギープロジェクトがある地域に住む人だけでなく、多くの人々が、みんなで気候変動対策の便益を得ることができるように、オーストラリアの誰もが利用しやすいシステムを構築しています。

私が CORENA を設立したのは、気候変動に対する行動の欠如に苛立ちを感じ、同じように感じている人がいることに気づいたからです。一人の人間がインパクトを与えることは難しいですが、私たちの寄付を集めることで、集団的な変化をもたらすことができるのです。CORENA は、ファンドの設立にともなう法的な複雑さが少ないことから、寄付をベースに設立されましたが、私が観察している範囲では、寄付に興味を持つ人の多くは、必ずしも投資に対するリターンを求めてはいないような気がしています。

Q2. CORENA に設けられたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるメンバーの役割は何ですか?

CORENA は、寄付金控除が可能な非営利団体として法人化されています。ボランティア委員会によって運営され、最終的には会則によって規定されています。会員やサポーターの方々は、将来のプロジェクトについて意見を述べたり、提案したり、時には地元でのプロジェクトの発展に積極的な役割を担っています。

寄付者は、一般的な寄付をするか、特定のプロジェクトに貢献するかを選択することができます。多くの人は単に排出量を減らすために寄付をしますが、中には特定の団体を支援するために寄付をする人もいます。例えば、キャンベラにある地元で有名な非営利団体(Pegasus Riding for the Disabled)の太陽光発電設備は、わずか11日間で目標資金を達成しました。

Q3. はじめて CORENA に参加されたとき、地域社会にどのような利益をもたらすとお考えでしたか? また、その考えは時間とともに変わりましたか?

CORENA プロジェクトが完了すると同時に、私たち全員が直接的にGHG排出量減少という利益を得ます。また、会員やサポーターは、回転資金を通じて寄付の効果が時間とともに高まることに加え、回転資金への寄付が地域社会の排出量を削減する力を与えるという考え方を広めることで、間接的な利益も得ています。私たちのプロジェクトのひとつであるターレマ・シュタイナー学校は、エネルギーリテラシーを高め、他の学校にもゼロカーボンを目指すよう働きかけたいと考えた生徒たちによってはじめられました。また、8年間の活動の中で、約半数の地域グループが、独自の回転基金を開発するためのアドバイスや支援を求めて CORENA にアプローチしてきました。

CORENA の融資を受けた組織は、短期的には、地域社会に対して排出削減対策を示すことができるというメリットがあります。また、融資を返済した後は、運営コストの大幅な削減というメリットがあります。これは、これらの団体がより多くの再生可能エネルギーソリューションを追求する動機付けとなるだけでなく、地域社会にサービスを提供するための余分な資金を確保することにもつながります。CORENA プロジェクトは、平均して5年で融資を返済しています。

Q4. CORENA を設立・運営する上で、大きな課題は何でしたか?

最初の大きな課題は、無利子融資の利用を希望する団体を見つけることでした。自分たちに負担をかけずに太陽光発電を設置できるなんて、あまりに話がうますぎるということで、私たちが一連のプロジェクトを成功させてコンセプトを証明するまでは、少し疑心暗鬼になりがちでした。しかし、時間とともに地域内の口コミが広がり、それが後押しとなりました。また、C4CE [4]やビクトリア州政府が発行するガイドブックにも紹介されました。

また、人材確保も課題です。プロジェクトの開発、資金調達のマッチング、管理業務など、すべてボランタリーでおこなうため、仕事量の管理が継続的な課題となっています。時折、私たちの活動を知って、ボランティアで手伝ってくれる人もいます。しかし最近、持続可能なプロジェクトを支援したいという慈善家の方がインターネットで検索していて CORENA を見つけ、感銘を受け、私たちの活動を拡大するためにスタッフのための資金を提供したいと申し出てくれました。

また、再生可能エネルギーによる電力供給が100%に近づいているオーストラリアの地域(オーストラリア首都特別地域、南オーストラリア州、タスマニア州など)では、化石燃料の代替や電気自動車プロジェクトなど、排出削減をもたらす他のタイプのプロジェクトにも資金を提供しはじめています。今、私たちは、地元のプールのガス暖房システムをヒートポンプに置き換えるという最初のプロジェクトに取り組んでいます。これからの課題は、賢く資金を投入し続け、投資額あたりの温室効果ガス排出削減量を最大化することです。電気自動車は、使っても使わなくてもコストが同じですからね。

Q5. COVID-19 の影響は、生活のほぼすべての場面で感じられます。CORENA にも影響があるとすれば、それはどのようなものでしょうか?

CORENA の運営に関しては、COVID-19 の影響はほとんどありません。COVID-19 以前はアデレードで直接委員会を開いていましたが、今は Zoom で会議をしています。これは、アデレードの地元の人だけでなく、全国から委員を集められるということです。

COVID-19 は寄付金に大きな影響を与えませんでしたが、現在進行中のプロジェクトのひとつ(City of Geelong Bowls Club)が政府の封鎖措置により一時的に延期されました。一般的に、パンデミックは私たちが支援している多くの団体にさらなるプレッシャーを与えています。いくつかの団体は、ローンの返済を一時的に遅らせなければなりませんでした。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

気候変動に関心のある人々は、温室効果ガス排出を削減する実用的なプロジェクトに対して、非常に寛大な寄付をすることを望んでいるということが、重要な教訓となりました。また、CORENA ローンを通じて金銭的な利益を受ける団体が、他のコミュニティにも利益をもたらす「価値ある活動(worthy causes)」であるということを知ることも重要です。

また、私たちのように何年にもわたって継続的にプロジェクトをおこなう場合、ボランティアをコーディネートするスタッフを少なくとも1人雇用するための資金を確保するためのビジネスプランが大きな助けとなることも学びました。最近、ソーシャルメディアを担当するパートタイムのスタッフを雇用しました。また、2021年10月、CORENA はフィランソロピストの資金を利用して、COO(最高執行責任者)とデジタルマーケティング担当者を雇用するための広告を出しました。

[4] 2020年時点で、Coalition for Community Energy は、オーストラリアのコミュニティエネルギー分野で活動する105以上のメンバーグループを代表しています。

Enercoop

フランス最大の再生可能エネルギー事業協同組合の歩み

主な特徴

  • 活動期間:2005年~ 現在
  • 主な事業内容:協同組合による再生可能エネルギー供給
  • テクノロジー:太陽光発電、水力発電、風力発電、バイオマス
  • 発電設備容量:355MWの再生可能エネルギー発電設備から電力を購入
  • ファイナンス:売電収入

Enercoop は、2005年にフランスのエコロジーとエシカルビジネスの団体によって設立された、100%グリーン電力を供給する協同組合です。2021年初頭、この協同組合は、個人、企業、地方自治体など、101,000件の消費者に電力を供給しています。2021年4月時点で、Enercoop はフランス国内の354の独立した地域エネルギー生産者から再生可能な電力を購入しており、その発電設備容量は355MWに達しています。

Enercoop は、集団利益協同組合(société coopérative d’intérêt collectif, SCIC)として、エネルギーシステムのさまざまなステークホルダーを代表する5万5,000人以上の会員が所有する有限責任会社です。Enercoop は、電力生産者と電力消費者に加え、地域の公共団体、欧州の他の再生可能エネルギー協同組合、エシカルな企業や金融機関などの主要なパートナーも会員として名を連ねています。

Enercoop の目的は、顧客に100%グリーンな電力を提供するだけでなく、顧客のエネルギー消費量の削減を直接サポートすることです。Enercoop は、グリーン電力の供給やアグリゲーターとしての活動に加え、省エネサービスの開発や、分散型エネルギー生産を支援するイニシアティブも展開しています。2009年からは、地域の新しいエネルギー協同組合の設立を支援することで、市民一人ひとりが出資・参加できる協同組合のネットワークも育てています。Enercoop は、全国規模の1つの協同組合としてスタートしましたが、現在では11の地域協同組合からなるネットワークとなり、市民が地域レベルでエネルギー転換の課題に取り組むことができるようになりました。

インタビュー

  • マエル・ギユ氏(Enercoop 欧州協働マネージャー)

Q1. あなたの地域が再生可能エネルギーに関わろうと思った理由は何ですか?

Enercoop は、2005年にフランスの環境NGOと社会的経済活動家によって設立されました。当時、フランスのエネルギー市場は大きく変化していました。EUの電力市場が自由化されたにもかかわらず(European Parliament, 1996)、フランスは依然として非常に独占的でトップダウンのエネルギーシステムで凝り固まっていました。さらに、フランスの電力ミックスは、圧倒的に原子力発電が多く、本質的に中央集権的な構造で設定・管理されていました(現在もそうです)。このような状況の中、電力市場が競争に開放されたことを契機に、あるアクターのグループがエネルギーに対する新しいアプローチを形成するために飛びつきました。私たちの目標は、市民が意思決定に参加するだけでなく、協同組合で供給事業を所有し、エネルギー転換に積極的に参加する、分散型かつ100%再生可能なエネルギーモデルを構築することです。Enercoop はこうして生まれました。

Q2. Enercoop のガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定における会員の役割は何ですか?

Enercoop は、集団利益協同組合(SCIC)として設立されました。これは、フランス特有の協同組合法であり、マルチステークホルダーの所有権とガバナンスを可能にするものです。Enercoop には、協同組合の活動に関わるステークホルダーを代表するさまざまなアクターが所属しています。消費者、従業員、再生可能エネルギー生産者、地域社会、主要なパートナーが含まれます。Enercoop の組合員は、総会(年1回開催)で代表者を選出し、理事会を構成して協同組合のすべての戦略的問題について討議・決定し、Enercoop のジェネラルマネージャーを任命します。Enercoop の組合員数は2万4千人を超え、現在フランス最大の SCIC となっています。

Enercoop のもうひとつの特徴は、市民を中心に地域レベルでエネルギー問題に取り組むために、組織をできるだけ分散化させているということです。そこで Enercoop では、2009年から地域レベルの新しい協同組合の誕生を促進しています。エネルギー効率化やエネルギー生産活動を支援し、地域の主体とともに地域のエネルギー問題に取り組むために、ボトムアップ方式で徐々に新しいエネルギー協同組合が誕生していきました。このネットワークが発展し、現在ではフランス全土で活動する11の地域協同組合が Enercoop を構成しています。

Q3. Enercoop の会員になると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

地域社会と組合員にとって直接的なメリットは、協同組合の戦略的方向付けのための、より民主的なプロセスに参加できることです。組合員は、協同組合と分散型アプローチによって、100%再生可能なエネルギー供給へのアクセスを得ることができます。Enercoop の活動には、市民主導のエネルギー転換を支援する取り組みも加えられています。これらのタスクは以下の通りです。

  • 消費者のエネルギー使用量削減を支援する新しいサービスの開発
  • 市民主導の新しいエネルギー生産プロジェクトの開発支援
  • エネルギー貧困削減プロジェクトに資金を提供するための連帯基金設立への貢献
  • 組合員が日々の活動に参加することを促進するためのトレーニング、情報提供、新製品のベータテスト、討論会など

私たちのモデルとミッションの成長は、協同組合の経済的成長と密接に関係していました。私が入社した当時、私たちはごく少数の従業員しかいませんでした。現在では、Enercoop のネットワーク全体で235人の従業員と55,700人の組合員がおり、活動を多様化し、地域により多くの利益をもたらすことができるようになりました。

Q4. Enercoop の設立・運営で苦労した点は?

Enercoop が設立された当初は、消費者が協同組合方式で再生可能エネルギーによる電力を購入できるようにするための供給事業体をつくることが目的でした。フランスの消費者は、市民が意思決定に関与できない EDF [5]の中央集権的な独占体制に代わるものを提供しなければならないという強い信念が、設立メンバーにはありました。

しかし、エネルギー供給会社の設立が困難だっただけでなく、再生可能エネルギーの協同供給会社の設立はさらに困難な課題でした。当時、市場で競争し、Enercoop が再生可能エネルギーの供給を確保するためには、規制の状況が大きな障害となりました。再生可能エネルギー事業者が公的支援制度を利用するためには、EDF にエネルギーを販売しなければなりませんでした。そのため、Enercoop のプロジェクトに参加したのは、市場変革の必要性を確信した少数の独立系事業者だけでした。

やがて、Enercoop は公営の水力発電所から発電された電力を購入するために入札をおこなうことになりました。しかし、金融機関は若い協同組合に懐疑的で、なかなか保証を引き受けてくれませんでした。ベルギーの協同組合 Ecopower、倫理的な銀行であるトリオドス、フランスの銀行クレディ・コープラティフの協力を得て、Enercoop が保証を得ることができたのです。この支援は、Enercoop の歴史におけるターニングポイントとなりました。その後、フランスでも規制環境が整備され、Enercoop は、再生可能エネルギー生産に対する公的支援制度を利用できる生産者から直接電気を購入できるようになりました。

Enercoop がスタートした10〜15年前と今では、フランスのエネルギー事情はかなり違ってきています。しかし、課題はまだ残っています。再生可能エネルギーの開発を支援するために加入する消費者が増えている現在、Enercoop が直面している重要な問題のひとつは、市場で消費者に提供されている「グリーン電力」の多様性に関連しています。いわゆる「グリーン電力」は、エネルギー転換に同じレベルで貢献するわけではありません。他社の商品では、原子力エネルギー(ARENH [6])と再生可能エネルギー設備からの原産地保証を完全に別々に購入しているものもあり、この点では異常と言えるでしょう。Enercoop は、電力と原産地証明をあわせて購入したものをグリーンオファーとして定義するように提唱しています。

Q5. COVID-19 の影響は、生活のほぼすべての場面で感じられます。また、その影響はどのようなものですか?

COVID-19 は、私たちの仕事のやり方に影響を与え、多くのツールに適応することを余儀なくされました。例えば、総会をはじめとするイベントのほとんどは、オンラインでおこなわなければなりませんでした。そこで、自宅待機を余儀なくされているメンバーでも、より簡単に情報を入手し、意見交換ができるように、独自のソーシャルメディアプラットフォームを立ち上げることにしました。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

Enercoop の設立以来、重要な教訓と基本原則は、おそらく「協力」という一言に集約されるでしょう。協同組合が協力を主張するのは余計なお世話かもしれませんが、これは長年にわたって私たちの中心的な原動力であり、羅針盤でもありました。Enercoop は、市民主導のエネルギー転換のために複数のステークホルダーが協力するという考えに基づき、さまざまなアクター間の協力から生まれ、フランスおよびヨーロッパ全域の協同組合パートナーに常に支えられて、そのコアバリューに忠実でありながら変化を実現してきました。しかし、Enercoop の経験は、協力は押し付けるものではなく、組織の内外で育まれ、維持されなければならないことを示しています。

[5] ÉlectricitédeFrance(EDF)はフランス最大の電力会社であり、2005年まで100%国営でした。2020年12月の時点で、フランス政府はEDFグループの総株式の80%以上を保有していました(EDF, 2021)。
[6] ARENH(Accès Régulé à l’Electricité Nucléaire Historique)メカニズムは、EDFに対して、その原子力発電の一定量をフランス市場の競合他社に規制価格で販売することを要求しています。

ほうとくエネルギー&湘南電力

日本で進化するコミュニティエネルギーのパートナーシップ

主なイベント

  • 2012年12月:地元経済界のリーダーたちが小田原市の支援を受けて「ほうとくエネルギー」を設立
  • 2014年:ほうとくエネルギーが最初の太陽光発電プロジェクト(地上設置型1MW、公共施設屋上設置型3件)を実現
  • 2015年:小田原市、2050年までに再生可能エネルギー50%を長期目標とする「小田原市エネルギー計画」を策定
  • 2016年春:ほうとくエネルギーと湘南電力が協業を開始
  • 2016年夏:ほうとくエネルギー、湘南電力、小田原ガス、古川の4社が「小田原箱根エネルギーコンソーシアム(ECHO)」を設立
  • 2017年:湘南電力の所有権が ENERES から小田原の主要なステークホルダーに移譲される
  • 2019年:小田原市、湘南電力、REXEV が EV カーシェアリングスキームの実証事業を開始

2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故後、日本各地で地域に根ざした再生可能エネルギー開発への取り組みが活発になりました。神奈川県小田原市は、その先駆け的存在です。

小田原市と地元経済界のリーダーたちは、環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」への申請に成功したことを受けて、1MWのメガソーラーと公共施設の屋根上に太陽光発電を導入する計画を立てました。このプロジェクトの資金調達のために、関係者は地域エネルギー会社「ほうとくエネルギー」を設立し、地元企業24社から3,400万円の資本金を調達しました。地元信用金庫からの融資(2億5,400万円)と、自然エネルギー市民ファンドと共同で開発した市民ファンドによるメザニンファイナンス(1億円)が残りの資金となりました[7]。 このプロジェクトは、2014年に無事実現しました。

小田原市では、再生可能エネルギーの生産・消費に関する短期・長期の目標を定めたエネルギー計画の策定に着手しました。ステークホルダーとの協議を重ね、2015年10月に「小田原市エネルギー計画」が策定されました(小田原市, 2015)。その延長線上に、2016年、ほうとくエネルギーは、地元の電力小売業者である湘南電力、ガス小売業者である小田原ガス、古川とコンソーシアム契約を締結しました。「小田原箱根エネルギーコンソーシアム(ECHO)」のもと、ほうとくエネルギーは地元で生産した太陽光発電を湘南電力に販売。湘南電力は、小田原ガスと古川の支援を受けながら、できるだけ地元で生産された再生可能な電力を使って顧客に電気を供給しています。

ECHO のビジネスモデルの開発を通じて、湘南電力の大株主であるエネルギーサービス会社の ENERES も、株式の大半をコンソーシアムパートナーやその他の地元企業に譲渡するという異例の決断を下しました(ENERES, 2017)。ENERES の決断は、地元の主要なビジネスプレイヤーたちのつながりと交流のもと、地域の再生可能エネルギー生産と消費に関する共通のビジョンが生まれたことで、実現しました。その後、湘南電力は、消費者の電気料金の一定割合を地域活動の支援に拠出する新しい小売電気料金プランを開発しました。また、湘南電力の役員のひとりが設立したスタートアップ企業 REXEV が、小田原市内で EV カーシェアリングサービスを開始しました。

インタビュー

  • 山口一哉氏(小田原市エネルギー政策推進課 課長)
  • 志澤昌彦氏(ほうとくエネルギー株式会社 代表取締役副社長/湘南電力株式 取締役)

Q1. 小田原市が再生可能エネルギーに取り組んだきっかけは?

山口氏 福島第一原子力発電所の事故は、原発から約360km離れた小田原での経済活動にも影響を与えました。事故による計画停電や、地元で生産された足柄茶から放射性セシウムが検出されたことをきっかけに、地元の政治リーダーが行動を起こしました。

環境エネルギー政策研究所(ISEP)の支援を受けて、小田原市は2011年7月に公開イベントを開催しました。このイベントで、小田原市独自の地域エネルギー会社を設立するというアイディアが生まれました。当時、日本では先駆的な地域エネルギープロジェクトはわずかしかなく、市民は既存の電力会社以外の電力会社を想像したこともありませんでした。

その後、市が ISEP の協力のもと、地域に根ざした再生可能エネルギーに関する公開講座を開催したところ、多くの地域住民が活動への参加を希望しました。そこから、市のスタッフが次のステップに向けて、リーダーやコーディネーターの候補を見つけ出しました。

小田原市は、このような経緯を踏まえて、環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に応募しました。このプログラムを活用した活動が、「ほうとくエネルギー」[8]をはじめとするすべての活動の基盤となりました。

Q2. ほうとくエネルギー、湘南電力、小田原ガス、古川の4社で ECHO を立ち上げることになった経緯を教えてください。

志澤氏 2016年に日本の電力小売市場が全面自由化された後、多くの新電力事業者がさまざまな小売電気料金の選択肢を提供し始めました。その中で、湘南電力は神奈川県内の法人・個人のお客さまに電気を供給していました。同社は地元で発電された再生可能エネルギーを優先的に調達し、利益の一部をスポーツ振興などの地域活動に還元してきました。

地域に根ざしたエネルギー事業者であることから、ほうとくエネルギーが湘南電力と提携することは自然な流れでした。最初のコミュニケーションは、ほうとくエネルギーの関係者が進めました。湘南電力は当初、地元で生産された太陽光発電の電力をほうとくエネルギーから購入することを提案し、実際にそれが実現しました。この経験をもとに、ほうとくエネルギーは松田町、湘南電力、ENERES(当時の湘南電力の主要株主)と協力協定を結び、経済産業省の補助金を活用して太陽光発電+蓄電池のプロジェクトを実施しました。

この頃、歴史的に競合関係にあった小田原ガスと古川も、リーダーが代替わりしました。両社の新社長は、協力して地域の電力・ガス事業を担っていくことを決めたのです。

このようなやりとりをもとに、地元のビジネスリーダーたちは、正式なマルチステークホルダーの対話とコラボレーションを促進しました。その結果、多くのシナジー効果が生まれました。湘南電力は、一般家庭に広く販売する仕組みがなく、苦労していました。一方、小田原ガスや古川は、そのような家庭部門の顧客を担当して、地域のガス供給事業をおこなっていました。そして、すべてのステークホルダーが、地域に根ざした再生可能エネルギーの生産と消費という共通のビジョンを持ち、そのビジョンを具体的なビジネスモデルに落とし込むための議論をはじめたのです。こうして生まれたのが「小田原箱根エネルギーコンソーシアム(ECHO)」です。

Q3. 小田原市は ECHO からどのような恩恵を受けていますか?

山口氏 まず、再生可能エネルギーの利用が可能になったことが挙げられます。ECHO では、ほうとくエネルギーが地元で生産した太陽光発電を湘南電力に販売しています。湘南電力は、できるだけ地元で生産された再生可能な電力を使って、顧客(家庭、企業、地方自治体)に電気を供給します。

また、湘南電力では、電気料金の1%を寄付することで、地域の産業活性化、環境・防災、文化・芸術、子ども食堂など、地域の取り組みを支援する小売電気料金プランを提供しています。このプランの一部は、小田原市と湘南電力が緊密にコミュニケーションをとりながら作成したもので、「地域循環共生圏」[9]を実現するための具体的な実践のひとつとして公式に位置づけられています(小田原市 2020)。

志澤氏 また、2019年1月には、湘南電力の役員のひとりが設立した電動モビリティサービスのスタートアップ「REXEV」とタッグを組みました。小田原市では、環境省の補助金[10]を活用して、EV カーシェアリングサービスとバッテリー充放電遠隔制御技術の実証実験がおこなわれました。2020年6月より商用サービスが開始されています。

ほうとくエネルギー & 湘南電力 のコミュニティエネルギーパートナーシップ

Q4. 小田原市がこの取り組みを開発・実施する上で、直面した大きな課題は何ですか?

山口氏 市のエネルギー計画で基本的な方向性は決まっていますが、地域内の再生可能エネルギー資源が限られていること(ほとんどが太陽光のみ)、FIT(固定価格買取制度)価格の低下、電力市場の規制の変化など、多くの課題がありました。

志澤氏 エネルギーを取り巻く環境の変化や、技術開発の進歩に応じた適切な方策を常に模索し、実効性のある取組として実施していくことは、全国的な事例がない中での手探り状態で進めなければならないという困難がありました。

Q5. COVID-19の影響は、生活のほぼすべての場面で現れています。パンデミックはこの活動に影響を与えていますか? 与えているとしたらどのような影響がありましたか?

志澤氏 EV カーシェアリングは、2020年に COVID-19 による非常事態宣言が発令される最中にサービススタートしたこともあり、利用者がなかなか増えないという状況でした。それでも、2021年初頭にはユーザー数1,000人を突破することができました。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

山口氏 ほうとくエネルギーと ECHO の設立には、断固としたリーダーシップとオープンなコミュニケーションが欠かせませんでした。福島第一原子力発電所の事故が発生したとき、当時の小田原市長である加藤憲一氏は迅速に行動し、地域に根ざした再生可能エネルギーの計画と開発に関心を持つさまざまな関係者との対話を開始しました。

また、地域に根ざした活動を支援する地域アクター、特に中小企業からの支援も重要でした。ほうとくエネルギーは、地域に根ざした活動をおこなうことを理由に出資した地元企業からの出資によって運営されています。また、ECHO が設立された直後、ENERES は湘南電力のオーナーシップの大半を地元企業に譲渡しましたが、これは地元の関係者が会社の経営に関与してこそ、地域志向のエネルギーサービスが強化されると考えたからです。

これらは、コンソーシアムパートナーの代表者たちをはじめ、小田原箱根商工会議所会頭など地域のリーダーたちの努力なしには実現できなかったでしょう。彼らが積極的に議論を進め、協力してくれたおかげで、さまざまな関係者が集まってプロジェクトに取り組み、エネルギー関連のビジネス経験を積み、地域での再生可能エネルギー生産と消費に関する共通のビジョンをつくることができたのです。

[7] 信用金庫は、一般的に中小企業や地域住民を対象とした日本の協同組合型地域金融機関の一種。自然エネルギー市民ファンドは、環境エネルギー政策研究所(ISEP)と北海道グリーンファンドが設立した地域電力事業のための資金調達会社です。自然エネルギー市民ファンドの詳細については、Furuya(2016)を参照。
[8] ほうとくエネルギーは、19世紀の農業経済思想家である二宮尊徳の報徳思想にちなんで命名されており、その思想は4つの柱で構成されています。至誠(しせい)― 誠実に心を尽くすこと、勤労(きんろう)― 地域資源を地域住民の手で育てること、文度(ぶんど)― 必要な資源の量を知り、その範囲内で生活を営むこと、推譲(すいじょう)― 収穫の一部を隣人や次世代のために残し、地域の生活や経済を維持すること。
[9] 地域循環共生圏は、環境省が第5次環境基本計画で提唱した概念。低炭素社会、資源循環、自然との共生に向けた総合的な政策的アプローチが盛り込まれている(小田原市 2020)。
[10] 環境省は、地域循環共生圏に関連して、脱炭素型の地域交通モデルの提案を募集し、REXEV、湘南電力、小田原市が共同でこれに応募し、2019年9月に採択されている。

Som Energia

分散型再生可能エネルギーによるスペインのエネルギーシステム変革

主な特徴

  • 活動期間:2010年 ~ 現在
  • 主な活動内容:再生可能エネルギープロジェクトの建設および再生可能エネルギーの供給をおこなう市民エネルギー事業協同組合
  • テクノロジー:太陽光発電、バイオガス、水力発電
  • プロジェクト数 / 容量:16(合計 1MWの設備容量)
  • ファイナンス:組合員からの出資

2010年にカタルーニャ州ジローナで設立された Som Energia は、現在、スペイン最大の非営利の再生可能エネルギー協同組合として、13万3,000世帯の顧客に再生可能エネルギーによる電力を供給しています。設立以来、同協同組合はスペイン全土に75,000人以上の組合員を抱えるまでに成長しました。

2021年6月現在、Som Energia は、太陽光発電所14基、バイオガス発電所1基、小水力発電所1基、合計14.1MWの発電能力を保有しています(年平均発電量は24.6GWhで、会員のエネルギー消費の約5%に相当)。残りの電力需要を再生可能エネルギーで満たすため、同協同組合は、原産地証明書(再生可能エネルギー生産に付随する証明書)[11]を通じて、卸売市場から電力を調達しています。

Som Energiaのプロジェクトは、100%会員によって運営されています。生活協同組合として、Som Energiaの各会員は100ユーロ(120米ドル)の入会費を支払い、さらに任意で拠出金を出すことができます。任意拠出金には、会員が合意した利率(2021年6月時点では1%に設定)で年間配当金が支払われます。Som Energiaは、協同組合やエシカルバンクを通じて株式を提供するアイデアも検討しています。同協同組合の2020年の売上高は7,000万ユーロ(8,000万米ドル)でした。

Som Energiaの「ジェネレーションkWh」プロジェクトでは、株式資本への出資に加え、年間エネルギー消費量を相殺するエネルギーシェアの購入も選択できます[12]。ジェネレーションkWhを通じて、4,600人以上の会員が450万ユーロ(520万米ドル)の無利子ローンを提供し、3つの太陽光発電所の資金を調達しています。スペイン政府が自家消費に有利な規制の枠組みを変更した後、Som Energia は、会員のために個々の太陽光発電システムの共同購入を企画し、プロシューマーのコミュニティづくりを始めました。現在までに26件の共同購入がおこなわれ、1,300件の住宅設備が建設されています。2021年6月現在、Som Energia のプロシューマーは3,000人を超え、2021年末には4,500人以上に達する見込みです。

インタビュー

  • ヌリ・パルマダ氏(Som Energia協同組合 理事)

Q1. なぜ、あなたの地域は再生可能エネルギーに関わりたいと思ったのですか? Som Energia に参加したきっかけは?

Som Energia に関わった当時、私はエンジニアとして再生可能エネルギーの分野で長年働いていました。同僚と私はドイツでエネルギー協同組合を視察し、ジローナでも同じようなものをつくりたいと思うようになったのです。そして、再生可能エネルギーへの投資に関心のある起業家と連絡を取り合い、Som Energia の実現に協力したのです。

Som Energia がスタートした2010年は、350.orgなど、気候変動に対するもっとも重要な国際キャンペーンがはじまった時期でもありました。協同組合の立ち上げに関わった私たちの多くは、気候変動や原子力といった環境問題への関心が動機となっていました。ちょうどその頃、福島原発の事故がありました。

もうひとつの重要な理由は、スペインでは、エネルギー寡占の存在と政治との関係があまりにも明白だったことです。現在でも、スペインの電力部門は少数の大企業によって支配されています。

Q2. Som Energia に設けられたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。主要な意思決定におけるメンバーの役割は何ですか?

協同組合として、総会はもっとも重要な意思決定機関です。各メンバーは、どれだけ貢献したかにかかわらず、1票の投票権を持っています。すべての主要な決定、特に政治的な決定は、総会でおこなわれます。また、総会では自分たちの利益を代表する役員を選出します。日々の運営は、経営陣とサポートスタッフが担当し、現在では100名の従業員が働いています。

Som Energia は、セクションと地域グループからなる分散型モデルとして運営されています。地域グループは、新規組合員の獲得、情報キャンペーンや人材育成などを目的として、独自に活動しています。バルセロナの地域グループは組合員の研修に重点を置いていますが、他のグループはエネルギー供給の拡大や、エネルギー部門以外の他の協同組合との連携に重点を置いています。

地域のグループが協同組合を構成しているので、中央で決められたルールを実行することは期待されていません。時には、地域のグループが自分たちの目的を達成するために、独立した協同組合を設立することもあります。例えば、あるグループはカーシェアリングの協同組合をつくり、今では私たちはその協同組合と協力しています。

Q3. Som Energia に加入することで、会員はどのようなメリットがありますか?

会員は、Som Energia の発電所から再生可能エネルギーを消費できるようになることを期待しています。そのためには、まず供給者となる必要があり、技術的・経済的に難しいため、設立に時間がかかりました。Som Energia の設立後、会員に再生可能エネルギーの電力を供給できるようになるまでには、1年の月日がかかりました。

Som Energia は現在、スペイン各地に小さな再生可能エネルギー発電所をいくつか持っています。私たちは真の分散型発電モデルを信じているので、私たちが自治体域内で発電した電力から、その場所に住む人たちが利益を得られるようにしたいと考えています。Som Energia の会員になることで、地域のエネルギーコミュニティや協同組合の設立に貢献することができます。

スペインは非常に多様な地域です。協同組合や結社の文化が強い地域がある一方で、これが課題となる地域もあります。そのような地域では、地域のグループが本当に重要で難しい仕事をしています。そのような地域では、協同組合文化をゆっくりと醸成しています。

Som Energia では、男女平等を推進しています。これは、理事会の正式なコミットメントに従った横断的な方針です。Som Energia の過去4人の社長のうち、2人が女性です。

Q4. Som Energia を設立・運営する上で、大きな課題は何だったのでしょうか?

スペインのエネルギー分野の規制枠組みは、現在、協同組合やコミュニティエネルギーによるプロジェクトを促進するものではありません。現在はまだ、クリーンエネルギーパッケージ[13]の国内法への移管を待っている段階ですが、この点については改善されるかもしれません。

私たちは、政府の政策変更に対応したイノベーションを実現することができました。例えば、2012年に政府が FIT を停止した後、プロジェクトの資金調達の代替方法としてジェネレーション kWh を開発しました。最近では、太陽光発電の屋上設置型システムだけでなく、集団的な自家消費のためのオプションにも着手しています。スペインではバーチャルネットメータリングの導入が可能ですが、プロジェクトの規模(最大100kW)や参加できる人(プロジェクトの500m以内に住む顧客のみ対象)に大きな制限があります。

最大の難点は、多くの人がいまだに再生可能エネルギーをコスト面からしか見ておらず、再生可能エネルギーがもたらす多くの恩恵に価値を見出せていないことです。現在でも、再生可能エネルギーの入札は、もっとも低いコストで再生可能エネルギーを調達することが目的であるため、非常に大きなプレーヤーしか参加しません。また、スペインの多くの地域では、NIMBY による再生可能エネルギー事業への反対運動が続いています。そのため、分散型の再生可能エネルギーのプロジェクトをより多くの会員がいる地域[14]で展開することが困難になっています。現在、私たちは電力需要の約5%を自社プロジェクトでまかなっています。

このような課題にもかかわらず、Som Energia は、別の方法で物事を進めることが可能であること、エネルギー転換の中心に市民を据えることが可能であることを示しました。Som Energia の発電所は100%組合員が所有しており、組合員はエネルギー供給における主権者なのです。この共通善は、大きなファンドや投機的な資本家の手に委ねられるものではありません。

Q5. COVID-19 の影響は、世界中で、生活のほぼすべての場面で感じられます。パンデミックはイニシアティブに影響を及ぼしましたか?

パンデミックの最初の数ヵ月は、加入する会員が少なくなりました。今は、状況はそれほど悪くありません。パンデミック前の料金に近づいています。しかし、電気代が払えない会員が増えています。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

まず、地域エネルギー(local energy)と市民エネルギー(citizen energy)の違いを考慮した政策が必要です。コミュニティエネルギーというと、スペイン政府は地域エネルギーに焦点を当てることが多いです。しかし、Som Energia はスペイン全土に会員がいます。この差別化を法律で行っている国もあります。

スペインは、必要以上の再生可能エネルギー容量を持つことになります。再生可能エネルギーに移行するかどうかという問題ではなく、この資源をコミュニティと人々を支えるかたちでいかに責任を持って開発するかということが重要なのです。私たちは、同じ企業が所有する集中型プロジェクトという、古い化石燃料モデルを模倣する未来を危惧します。

NGOや協同組合、コミュニティエネルギーなどが、エネルギーシステムを変えるのは非常に難しいことです。Som Energia のようなプロジェクトをおこなうことはできますが、実際、私たちのようなプロジェクトが広い世界に与える影響は限られているので、グローバルな経済モデルを変えることに力を入れるべきです。

Som Energia のような協同組合は、社会関係資本の重要性を強調し、社会的経済が可能であることを示しています。今後予定されているコミュニティエネルギー法の改正により、より多くの市民エネルギー協同組合が誕生することを期待しています。

Som Energia projects
[11] すべてのEU加盟国は、再生可能エネルギー源から生成されたエネルギーが、発電事業者からエンドユーザーまでのサプライチェーンを通じて追跡できることを保証するために、原産地証明制度を導入しなければなりません。
[12] ジェネレーション kWh の詳細については generationkwh.org を参照
[13] 欧州委員会の2019年クリーンエネルギーパッケージは、EU加盟国に対し、コミュニティエネルギーの開発を促進し、容易にするための法的枠組みの構築を義務付けています。「エネルギーコミュニティ」は、「市民エネルギーコミュニティ」(改正域内電力市場指令[EU]2019/944)および「再生可能エネルギーコミュニティ」(改正再生可能エネルギー指令[EU]2018/2001)の正式定義のもと、2つのEU立法文書で認識されています。IRENA Coalition for Action (2020)を参照。
[14] 本稿執筆時点で、Som Energiaの組合員の約70%はカタルーニャ州に所属していますが、同組合の再生可能エネルギープロジェクトのほとんどは、スペイン南部に位置しています。
Sosai Renewable Energies

Sosai Renewable Energies

ナイジェリアにおける再生可能エネルギーによる女性のエンパワーメント

主な特徴

  • 運営期間:2017年 ~ 現在
  • テクノロジー:太陽光発電
  • プロジェクト数/容量:太陽光発電ミニグリッド2件(合計20kWの設置容量)
  • ファイナンス:米国アフリカ開発財団(USADF)によるオフグリッド・エネルギー・チャレンジ助成金、オランダのグッドグロースファンドによる輸出信用保険

ナイジェリア北西部に位置するカドゥナ州は、国土面積で同国第4位、人口で第3位の州です(National Population Commission of Nigeria, 2021; National Bureau of Statistics, 2021)。

カドゥナ配電会社は州内の家庭や企業に電力を供給していますが、多くの地方コミュニティは疎外されたままになっていることが多いのが実情です。このような背景から、2016年に米国アフリカ開発財団(USADF)は「オフグリッド・エネルギー・チャレンジ」プログラムを立ち上げ、再生可能エネルギーを導入し、地域の経済活動に電力を供給し、持続可能で拡張性のあるビジネスモデルを実証するオフグリッド・ソリューションを提供するアフリカ企業に補助金を授与しました(USADF, 2021)。

再生可能エネルギーの供給とコンサルティングをおこなう Sosai Renewable Energies は、2016年にカドナ州における2つのコミュニティソーラーミニグリッドプロジェクトに対して100,000米ドルの助成金を獲得しています。また、オランダのグッドグロースファンドから25,000米ドルの融資を受け、プロジェクトのための追加資金を調達しています。

2017年にマカルフィ地方行政区、具体的にはバアワとカダボのコミュニティに10kWのミニグリッドがそれぞれ導入されました。現在、このミニグリッドから79世帯と12企業にエネルギーが供給されています。ミニグリッドからのエネルギーは、一般家庭は月3,000 NGN(ナイジェリア・ネーラ、7米ドル)、企業は月6,000 NGN(15米ドル)の従量課金モデルでコミュニティに販売されています。コミュニティの現地スタッフがミニグリッドをモニタリングし、家庭や企業が期限内にエネルギーサービスの料金を支払っていることを確認します。

注目すべきは、ミニグリッドがコミュニティの女性たちにもポジティブな影響を与えていることです。各コミュニティには、18mのソーラートンネル乾燥機とソーラーキオスクが1台ずつあり、地元の女性たちが管理しています。女性たちは、乾燥機を農家に貸し出したり、携帯電話を充電したり、キオスクで商品を販売したりして収入を得ています。ソーラー乾燥機のおかげで、地元の農民(その多くは女性)は生産物をすばやく効率的に乾燥させることができます。また、男性に頼る収入が減ったことで、女性たちは家族を養いながら、経済的・社会的地位も向上させています。

インタビュー

  • ハビバ・アリ氏(Sosai Renewable Energies創設者)

Q1. なぜ、コミュニティは再生可能エネルギーにかかわりたいと思ったのでしょうか? Sosai Renewable Energies はどのようにしてこの取り組みに参加するようになったのですか?

Sosai Renewable Energies を立ち上げたとき、私の目標はナイジェリア北部のコミュニティでクリーンな調理器具やソーラーランプの普及を促進することでした。非効率な調理や照明の技術や燃料による大気汚染は、健康に悪影響を及ぼし、主に利用者である女性や少女がその問題を感じていました。

2013年、ナイジェリアの農村部における調理用ストーブ改善プロジェクト(UNFCCC, n.d.)でクリーン開発メカニズム[15]の立ち上げと実施を支援していた際、照明用エネルギーに関心のあるカダボコミュニティに出会いました。コミュニティとの話し合いにより、メンバーは家庭用のソーラーランプだけでなく、コミュニティ全体(カダボは約250世帯)に電力を供給できるミニグリッドにも関心を示しました。

その直後に USADF の公募がはじまり、私たちはそれに応募して採択されました。この公募で得た資金は、複数のコミュニティにミニグリッドを設置するのに十分なものだとすぐにわかりました。

調理用コンロの普及で培ったネットワークから、バアワはミニグリッドを設置できる可能性のある地域であると判断しました。各家庭でソーラーランタンを購入するのではなく、誰もが使える電力を提供する可能性について、コミュニティと話し合いました。バアワは、度重なる洪水で土地を追われた再定住民のコミュニティです。まさか自分たちが電気を使えるようになるとは思ってもいなかったようで、自分たちのコミュニティにミニグリッドを設置する機会に圧倒的な関心を示してくれました。

Q2. このイニシアティブで確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割は何ですか?

この取り組みがはじまった当初、私たち(Sosai Renewable Energies)は、コミュニティのニーズをよりよく理解し、この取り組みの成功確率を高める上で不可欠なコミュニティの賛同を得るために、年長者やコミュニティのリーダー、若者のリーダーを巻き込みました。何か問題があったときも、これらの方々と相談します。

両コミュニティは、ミニグリッドのための土地を提供し、土地の開拓、建築に必要な地元のレンガの製造、バッテリールームの建設にボランティアとして時間を割いてくれました。

各コミュニティの農家は、ミニグリッド設立の声を上げるとともに、農産物の加工に太陽光発電による乾燥機を導入することを決定しました。これまで使っていた露地乾燥は、手間と時間がかかるうえに天候に左右され、ホコリやゴミ、虫の被害も受けやすいものでした。また、紫外線に長時間さらされることで、商品の品質に悪影響を及ぼす可能性もありました。

Q3. 地域住民は、この取り組みからどのような恩恵を受けているのでしょうか?

地方自治体の議長が支援するこの取り組みの目的は、コミュニティの経済状況を改善し、コミュニティの収入に付加価値をつけることでした。

バアワとカダボにミニグリッドが設置される前は、この2つのコミュニティには定期的な電力供給がありませんでした。当初は各コミュニティの25軒に電力を供給することを目標としていましたが、現在では両コミュニティで79軒と12社の企業がミニグリッドから電力の供給を受けています。圧倒的なエネルギー需要があるのです。

もうひとつのメリットは、雇用の創出です。ミニグリッドをモニタリングし、家庭や企業が期限内にエネルギーサービスの料金を支払っていることを確認するために、現地にスタッフを配置しています。このスタッフには、記録や基本的なトラブルシューティングのトレーニングをおこない、毎月の基本給と、徴収したエネルギーサービスの収益から一定割合を支給しています。

また、カダボではピーマン、バアワではトマトの栽培に収入を頼っていたことから、収穫後のロスが大きくなっていました。さらに、道端で農産物を乾燥させると30%のロスが発生し、家計の大きな収入源として貴重な換金作物であるにもかかわらず、大きな無駄が生じていました。農民の生産性を上げるために重要な農業技術を紹介することは、大きなモチベーションにつながりました。

現在、両地域の約30人の女性農家に毎月ソーラー乾燥機のサービスが提供されています。そのうちの何人かは、自給自足農業から脱却し、拡張性のあるビジネスへと移行することができました。さらに、両コミュニティから集まった12人の女性が乾燥機を管理しており、毎月定期的な収入を得ています。彼女たちは、乾燥機のメンテナンス、簿記、記録の取り方などの研修を受けています。また、食品栄養の専門家を招き、農産物の取り扱いや乾燥、衛生基準、パッケージングなどのトレーニングもおこないました。これらのスキルはすべて、他の職業に就く際にも応用できます。

私は女性として、農村地域の女性を支援する理念を持っています。ナイジェリア北部の保守的なコミュニティでは、プルダ(イスラム教やヒンドゥー教の一部で普及している、女性を隔離する宗教的・社会的慣習)が一般的であることを考えると、この取り組みのジェンダー的側面は非常に重要だと思います。

Q4. この取り組みを展開・運営する上で、大きな課題となったことは何ですか?

両地域で経験した課題には、次のようなものがあります。

  • 地域住民の支払い不履行により、私たち(Sosai Renewable Energies)がミニグリッドを維持する責任を果たせないこと
  • コミュニティの一部の人々によるエネルギーサービスの窃盗(メーターの迂回)
  • ミュニティの一部の人々が、これは政府の取り組みであると信じており、提供されたエネルギーに対してお金を払いたくないという誤解があること
  • コミュニティ内に十分なスキルとモチベーションがないため、ミニグリッドの運営を完全に引き継ぐことができないこと。今後もミニグリッドの運営を続け、コミュニティと協力しながら継続的に電力を供給していきます。
  • ジェンダーに関する保守的な文化的信念のため、女性がソーラーキオスクを運営することが許されず、代わりに兄弟や息子がその役割を担っているケースがあること

このような問題に対しては、コミュニティの長老やリーダーと直接コミュニケーションをとり、ミニグリッドの運用について注意を喚起することで、対処しています。また、低所得者層にも効率的に対応できるよう、価格モデルも調整しました。

また、電力需要の増加に伴い、10kWのミニグリッドではコミュニティ内のすべての人にサービスを提供することができないという問題もあります。両コミュニティともミニグリッドを拡大したいと考えていますが、資金調達が引き続き課題となっています。

Q5. 重要な教訓は何ですか?

この経験を通じて、必要な技術や能力など、ミニグリッドを運営する方法について理解を深めることができました。

また、照明用のエネルギーへのアクセスは、冷蔵庫やテレビなどの家電製品の導入を促進することも明らかです。太陽光発電による乾燥機を利用できるようになったことで、農家はどんな農産物を保存し、割高な値段で売ることができるのか、革新的なアイデアを持つようになりました。また、ソーラー灌漑ポンプや冷蔵庫を導入することで、ビジネスの規模を拡大することにも関心を持っています。将来的には、ソーラーホームキットを追加して、コミュニティのニーズに応えていく予定です。

今後は、ミニグリッドを拡大し、新しいコミュニティにミニグリッドを導入していく予定です。この国を照らしたいという思いが、私たちの原動力です。

Solar power dryers and improved cookstoves
[15] クリーン開発メカニズムでは、京都議定書で排出削減を約束した国が、途上国で排出削減プロジェクトを実施することができます(The Clean Development Mechanism, 2021)。
Tulila 水力発電所

Tulila 水力発電所

タンザニアの農村での信頼性の高い水力発電供給

主な特徴

  • 運営期間:2016年~現在
  • テクノロジー:水力発電
  • プロジェクト数/容量:5 MW (7.5MWまで拡張可能)
  • ファイナンス:銀行ローン、劣後ローン、資本金、グリーン電力パフォーマンス助成(合計2,830万米ドル)

Tulila 水力発電所は、タンザニアのルヴマ川に位置する5MWの流水式ダムです。2013年から2016年にかけて建設されたこのプロジェクトは、ミニグリッドを通じて農村部や地域の活動に電力を提供しており、最終的には国の系統に接続して地域の電力需要に応え、接続性を高めることを目的としています。

Tulila は、スイスの企業家アルバート・コッホが2009年に設立した「アフリカのための水力発電」イニシアティブのもと、聖アグネス・ベネディクト会修道院の協力を得て建設されたものです。シスターたちは、400kWの Lupilo 水力発電所を運営・管理していた経験から、このプロジェクトの建設・運営に関心を持ちました。

このイニシアティブの支援を受けて、プロジェクトオーナー兼借り手として Tulila 水力発電所株式会社が設立されました。シスターたちはこれまでの経験を通じて、水力発電プロジェクトの運営に高い評価を得ており、Tulila のプロジェクト費用の65%をカバーする銀行融資を受けることができました。劣後ローンおよび資本金が総事業費の32%を占め、最後の3%はタンザニア地方エネルギー庁を通じたグリーン発電パフォーマンス助成金で賄われました(IHA, 2017a)。

Tulila は建設以来、ルヴマ地域のディーゼル発電機への依存度を下げ、地域に信頼できる電源を提供し、ムビンガ地区とソンゲア地区の27,000世帯にエネルギーを供給しています(IHA, 2017b)。また、このプロジェクトは、地域社会にも重要な社会経済的利益をもたらしています。国営電力会社であるタンザニア・エレクトリック・サプライ・カンパニー(TANESCO)への電力販売で得た収入の一部は、シスターのサービスや慈善活動を支えています。これらの重要なサービスには、2,000人の生徒への教育、栄養、孤児院サービス、チポール地区唯一の医療施設の運営などが含まれます。

インタビュー

  • ヨエラ・ルアンバノ氏(Tulila水力発電所 ディレクター / ベネディクト会聖アグネス修道院 シスター)

Q1. あなたの地域が再生可能エネルギーに関わろうと思ったのはなぜですか? プロジェクトに参加したきっかけは?

私たちの地域ではエネルギーが不足し、農村部では電気を利用することができませんでした。幸運なことに、スイスのロバート・フックス氏という恩人がいて、2000年にルヴマ川上流に Lupilo 発電所をスタートさせました。しかし、このプロジェクトの規模(400kW)では、この地域のすべてのエネルギー需要を満たすことはできません。

この問題は、プロジェクトのスポンサーであるアルバート・コッホ氏も認識していました。その結果、2010年に Tulila 水力発電プロジェクトをスタートさせることになりました。主な目的は、ディーゼル発電機を使っていた村やソンゲアという町の人たちに電気を供給することでした。現在、Tulila からソンゲアまでのすべての村に電気が供給されています。

また、政府は、このプロジェクトからソンゲアまでの送電線を建設し、人々に電気を届けるための支援をしてくれました。

Q2. プロジェクトのために確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割は何ですか?

Tulila プロジェクトを建設するためにコッホ氏から資金援助を受けた修道院は、重要な決定を下す責任を負うことになりました。私たちはプロジェクトに適した場所を特定し、そのプロセスを通じて政府と密接に協力しました(環境認可の確保など)。現在は、メンテナンス作業などをおこなう地元の人たちのサポートを受けながら、主に自分たちでプロジェクトを運営しています。

Q3. 最初にプロジェクトに参加したとき、地域社会にどのような利益をもたらすとお考えでしたか? また、その考えは時間とともに変化しましたか?

Lupilo 発電所は、修道院、病院、孤児院、学校、発電所周辺の小さな活動を支えるのに十分な電力を生産していましたが、村人全員に供給するには十分ではありませんでした。

Tulila プロジェクトは、100kmに渡って電気を供給しています。Tulila からソンゲアまで行くと、小さな機械が電気を使っているのを見ることができます。お店や学校、裁縫や小型のフライス盤など、すべて Tulila プロジェクトの電気を使っているのです。

このプロジェクトは、教育にも良い影響を与えています。電気がない時代には、照明がないため、生徒たちは夕方になると勉強ができませんでした。今では、夜でも自宅や学校で学習することができます。

薬は冷蔵庫に保管する必要があるため、電気がなければ病院は成り立ちません。5〜6台の冷蔵庫を動かすのに十分な電力が必要なのです。それを支えているのが、Tulila プロジェクトでつくられた電気です。

また、このプロジェクトは地元の女性たちにも多くの良い影響を与えました。以前は、女性は水を汲むために川へ行ったり、長い距離を移動したりしなければなりませんでした。今は電気が使えるようになったので、多くの人が家の近くのポンプで水を汲めるようになりました。また、病院の診療所から薬を入手できるようになったことも、女性や子どもたちの健康に大きな影響を及ぼしています。また、女性たちは食用作物を加工するための粉砕機も簡単に手に入れることができるようになりました。電気が使えるようになったことで、村はより多くの機械を購入するようになりました。

地域の雇用開発という点では、工場のメンテナンスとオペレーションを担当する社員が2名います。何人かのシスターを学校に通わせ、プラントの操作方法についてトレーニングを受けてもらっています。現在、7人のシスターが工場を運営しています。その他にも、管理部門をサポートするシスターが働いています。

Tulila プロジェクトで借りた銀行ローンを完済した後は、製粉用トウモロコシの加工など、売電収入をさまざまな取り組みに使うことができるようになる予定です。

Q4. 開発・運営に当たっての大きな課題は何でしたか?

課題のひとつは交通手段です。発電所は遠隔地にあるため、何か技術的な問題(送電線が動かなくなるなど)が発生すると、自家用車で町まで駆けつけなければなりません。町までの道路は100kmもあり、修理に何時間もかかるので、政府に何度も手紙を書きました。今のところ、メンテナンスは自分たちで何とかしています。この問題は、水力発電用ダムの建設に必要な丸太の調達にも影響します。私たちの丸太は品質が良くないので、ソンゲアから木材を輸入しなければならないのです。

状況は改善されたものの、コミュニケーションも大きな問題です。問題のひとつは、信頼できるインターネットアクセスがなかったことです。現在では、携帯電話などの小型端末でアクセスできるようになりましたが、そのために多くの費用を支払っています。地元でのインターネットアクセスは、まだ困難な状況です。

もうひとつの問題は収入です。Tulila 水力発電所を国の送電網に接続し、2.5MWの発電ユニットを追加して発電能力を高めたいのですが、送電網への売電から得られる収入だけでは、プロジェクトのためのローン返済や新しいタービンのコストをまかなうことができません。当面は、このプロジェクトのために借りたローンの返済に専念する予定です。

Q5. 重要な教訓は何ですか?

私たちは多くのことを学びました。プロジェクトをはじめる前は、女性が行動を起こし、Tulila 水力発電所のような大きなものを組織できることを、誰もが支持していたわけではありません。私たちのプロジェクトを説明するために政府に出向いたとき、驚きの声が上がりました。

私たちは、シスターたちが自給自足することを奨励しようとしているのです。現在では、7人のシスターが自分たちで発電所を運営しています。つまり、私たちが学んだことは、「やろうと思えば何でもできる」ということです。もうひとつの教訓は、電気は何事にもとても重要だということです。学校を開くことも、機械の使い方を学ぶことも、電気がなければできないことがたくさんあるのです。電気は、私たちの生活になくてはならないものなのです。

UrStrom

UrStrom

市民の行動がマインツのエネルギー転換をリードする

主な特徴

  • 活動期間:2010年~現在
  • 主な活動内容:地域の太陽光発電システムの建設、地域で生産されたグリーン電力の供給、100%自家発電のグリーン電力による地域e-carシェアリングプログラムの運営をおこなう市民エネルギー協同組合
  • テクノロジー:太陽光発電
  • プロジェクト数/容量:17件(合計1.1MWpの設備容量)
  • ファイナンス:協同組合出資、組合員からの融資

UrStrom 市民エネルギー協同組合マインツは、ドイツのラインラント・プファルツ州の州都マインツで最初の市民エネルギー協同組合です。2010年に設立されたこの協同組合は、クリーンで民主的、かつ分散型のエネルギー供給を構築することで、この地域のエネルギー転換に貢献することを目的としています。マインツから半径100km圏内の太陽光発電所の建設に注力しています。

2021年時点で、UrStrom の組合員数は470名を超えています。この協同組合は、17基の太陽光発電システムを所有・運営しており、その設備容量は1.1 MWpを超え、4人家族約260世帯に供給できる量に相当します。もっとも小さなシステム(個人の屋根に設置)は年間7MWhを発電し、もっとも大きなシステム(国際企業が所有する製紙工場に設置)は年間378MWhを生産しています。これらのシステムを合わせると、年間平均1 GWh以上の発電量となり、約720 tCO2の排出を回避することができます。

UrStrom は、他のエンドユーザー分野の脱炭素化において、再生可能エネルギーの活用を積極的に進めてきました。2018年、UrStrom は、グリーンエネルギーだけを動力源とする市民所有の電気自動車シェアリングプロジェクトを先駆的に開始しました。マインツ市内5ヵ所で8台の電気自動車がシェアできるようになり、約260人の顧客がこのプロジェクトに加入しました。また、市民からの要望もあり、近所に電気自動車シェアリング拠点を設置する予定です。この経験をもとに、同協同組合は、市民が所有する電気自動車シェアリングのための欧州プラットフォーム The Mobility Factory を共同設立しました。また、UrStrom は、2020年にドイツの e-モビリティの包括的協同組合である Vianova eG の創設メンバーでもあります。現在、同協同組合は、輸送以外にも、農業用太陽光発電を通じた土地の資源効率的な利用を支援する方法を検討しています。

インタビュー

  • アネッテ・ブロイエル氏(UrStromエディター兼イベント管理責任者)

Q1. あなたの地域が再生可能エネルギーに関わろうと思った理由は何ですか?

“And there is magic in every beginning…”(すべての始まりには魔法がある)。この詩の一節は、UrStrom 設立のストーリーの見出しになるかもしれません。2010年、同じ地域に住む6人が、ドイツ各地から参加した上級トレーニングコース「エネルギー協同組合のためのプロジェクト開発者」に集まりました。そのとき、私たち全員が、長い間、草の根からのエネルギー転換という同じアイディアを独自に追求してきたことに気づきました。私たちは、気候保護、平和の維持、生物の保護というビジョンを共有していました。これらの目標とともに、市民の参加に優先順位がおかれるべきと考えていました。

当時、ドイツでは市民協同組合の数が急増していましたが、マインツにはまだひとつもありませんでした。そこで、私たちはこの地で先駆的に活動をはじめることにしました。100%クリーンなグリーン電力を生み出す太陽光発電所を、半径100kmの範囲に建設する計画でした。

2010年9月、9人の創業メンバーで UrStrom を立ち上げました。趣意書には、「再生可能エネルギーの生産と協同組合の民主的な構造によって、環境に優しく、社会的に公正で、同時に経済的なエネルギー供給が促進されます。この目的のために、UrStrom は参加と関与の機会を提供します。」 と書かれています。

Q2. UrStrom のガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるメンバーの役割は何ですか?

メンバーは全員、ボランティアで活動しています。フラットな階層を原則とし、一人ひとりのアイディアやビジョンが自由に展開されるようになっています。それを支える柱が、経営陣と監査役が出席して毎月開催される UrStrom ミーティングです。UrStrom を積極的にサポートするメンバーも、それぞれに対応したテーマで参加します。重要な意思決定は、すべてこの会議で準備、議論、決定されます。

年次総会もまた重要な要素です。ここでは、特に、経営陣の仕事を管理する監督委員会が選出されます。各メンバーは、保有する協同組合のシェア数に関係なく、1票の投票権を持ちます。

会員数が増え、プロジェクトが増えるにつれ、技術、エネルギー事業、財務、マーケティングの各分野で活躍する4人の役員だけでは、もはや仕事をこなせないことに気づきました。そこで、メンバーから有志のサポーターを募ったところ、すぐに見つかりました。そして、社内体制を整えるために、初めて組織図を作成し、責任範囲と能力を明確にしました。

Q3. UrStrom の会員になると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

私たちの使命は、エコロジーだけでなく、自分自身や社会の行動を見直そうとするコミュニティの一員となることです。ジェンダーへの配慮はこれまで主要な優先事項ではありませんでしたが、UrStrom が女性2名と男性7名によって設立されたことは興味深いことです。現在、経営陣と監査役には、女性3名と男性6名がいます。この男女比は、会員数にも反映されており、3分の1が女性です。また、積極的にサポートしているメンバーも、女性1名、男性5名という割合になっています。各メンバーは、自分の知識や能力に応じて、さまざまなプロジェクトに参加しています。

私たちの協同組合は、太陽光発電のパイオニア的存在であると同時に、マインツの交通革命をリードしていることを誇りにしています。UrStromMobil プロジェクトでは、「所有する代わりに共有する」という原則のもと、市民の手に委ねられた新しいモビリティの基礎を築きました。環境意識の高い市民の要望に応じて、地区内に電気自動車シェアリングステーションを設置し、100%地域で生産されたグリーン電力を動力源とする車を提供しています。利用者の中には、この提供をきっかけにマイカーを売却し、UrStrom の車を使ったり、公共交通機関や自転車に乗り換える人もいました。

一体感を生み出すために、私たちは2011年に UrStromClub を設立しました。月に一度、メンバーや興味のあるゲストを招き、パブの個室でミーティングをおこなっています。UrStromClub を通じて、私たちは個人的にお互いを知り、計画されたプロジェクトや目標を参加者に提示し、活発な意見交換や議論を促進しています。このサークルの中から、例えば、IT、事務、データ保護、プロジェクト獲得、PVモニタリングなどの分野で、15人のメンバーが協力を申し出ています。

クラブに加えて、エネルギー転換のリーディングプロジェクトを紹介する年次イベント UrStromUnterwegs は、インスピレーションを与え、会員を惹きつけるもうひとつの手段となっています。

組合員の9割は、再生可能エネルギーを推進し、気候変動に立ち向かうという理想的な理由から、UrStrom の協同組合に資金を投じています。ドイツ政府の気候・エネルギー政策が停滞している現在、私たちは、ボトムアップの市民参加によってのみ、変化が起きると確信しています。

Q4. UrStrom を設立・運営する上で、大きな課題は何だったのでしょうか?

2010年当時、私たちは自分たちがどれほどの官僚主義に直面することになるのか、想像もしていませんでした。しかし、当初から、何の参考資料もない私たちの活動が苦難の連続であることは明らかでした。しかし、マインツ市環境局長の信頼を得て、2011年にマインツ市の廃棄物処理会社と協力し、最初の太陽光発電所を建設し、稼働させることに成功しました。このプラントにより、その会社はドイツで初めて再生可能な電力を自ら生産し、消費する企業のひとつとなりました。

現在、もっとも大きな課題のひとつは、ドイツ政府の再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz)が絶えず変更されることです。この変更は、常に強力な大企業に有利に働き、市民協同組合には不利に働いてきました。そのため、太陽光発電システムの構築に関して、すべての契約が異なるという結果になっています。特に、組合員がボランティアで活動している協同組合にとって、この予測不可能な事態は神経をすり減らすし、身につまされます。市民のコミットメントを阻害しているのです。

また、入札は大企業を優遇し、エネルギー生産の民主化を阻む道具としても機能してきました。入札の目的は、市民が所有するエネルギーへの移行がもたらす多くの利点にもかかわらず、政府によって支えられた権力構造を維持することにあります。

UrStrom は、ラインラント・プファルツ州の協同組合として知られ、尊敬を集めるようになりました。2014年、私たちは Bürgerwerke eG を共同設立し、現在ではドイツ最大の市民エネルギーの協同組合となっています[16]。Bürgerwerke を通じて、私たちの発電所でつくった電気 UrStromPur を顧客に販売しています。しかし、太陽光発電や電気自動車のシェアリングを推進するための政治的な変革は、私たちにとって引き続き大きな課題です。私たちは、市の環境局や環境エネルギー省と連絡を取り合い、署名活動や個人的な面談を通じて、私たちのビジョンや目標に対する政府の支持を得られるよう努力しています。

Q5. COVID-19の影響は、生活のほぼすべての場面で感じられます。また、その影響はどのようなものでしょうか?

パンデミックは、主に太陽電池モジュールだけでなく、輸送市場向けの物資の供給にも深刻な影響を及ぼしています。そのため、価格が高騰し、小さな協同組合にとっては高嶺の花となっています。一方、電力・ガス販売事業では、顧客数が大幅に増加しました。

COVID-19 の影響は、私たちの電気自動車シェアリングプログラムにも及んでいます。電気自動車シェアリングステーションを近所につくりたいと考えている人たちに対して、大規模な説明会を開くことができないのです。そのため、モビリティのコミュニティを構築するのは難しい状況です。また、環境意識の高い人ほどモビリティを必要としていないのが現状です。

コロナ対策により、対面でのグループミーティングは屋内でも屋外でも不可となり、UrStromClub にも影響がありました。2021年2月、私たちは月1回のバーチャル UrStromClub をおこなうことにしました。メンバーやゲストから好評を得ていますが、個人的なコンタクトが失われることが大きなデメリットです。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

私たちは、地域のエネルギーと気候の移行を支援するための主要なプロジェクトを開始し、この10年間で多くのことを成し遂げました。しかし、もし政府が私たちのような協同組合の活動を妨げなければ、さらに多くのことを達成することができたでしょう。しかし、たとえ道のりが険しく、より多くの障害に悩まされていたとしても、私たちが UrStrom を設立したことは正しい判断でした。私たちは、政治的な障壁を克服する創造的な方法について多くを学び、私たちの協同組合には多くの素晴らしい人々が加わってくれたのです。

始まりの魔法と、政界の抵抗にも負けず続けるモチベーションは、私たちにその痕跡を残しています。私たちにはこれまで以上に忍耐力が必要であり、エネルギー転換を底辺から推し進め続けなければなりません。一緒になってこそ、私たちは強くなれるのです。

UrStrom 電動モビリティ
[16] Bürgerwerke は、太陽光発電、風力発電、水力発電による再生可能な市民電力と、東ドイツの甜菜工場で生産される有機残渣を原料とする持続可能なバイオガスをドイツ全土の人々に供給しています。
Village Lighting Scheme

Village Lighting Scheme

東ティモールにおけるコミュニティ自給自足の再建

主な特徴

  • 活動期間:2007年~現在
  • テクノロジー:太陽光発電
  • プロジェクト数/容量:2,133件(合計50kWの太陽光発電システム)
  • ファイナンス:個人および団体からの少額助成金(合計530,000米ドル)

2010年以降、東ティモール政府は目覚ましい送電網の拡張を実施し、2002年の独立時には24%だった電化率を2018年には86%まで引き上げました(World Bank, 2021)。しかし、東ティモールは山が非常に多く、35,000世帯以上が基幹系統に接続されることはないと見られています。東ティモールの電力系統に接続されていない人々は、通常、日没後はろうそくや非効率な灯油ランプに頼って生活しています。

2003年、オーストラリアの会員制組織Renew(旧 Alternative Technology Association)の熱心なメンバーが、東ティモールの重要なインフラに太陽光発電を設置する活動を開始しました。その後、家庭用照明の要望を受け、2007年に地元団体や政府と協力し、「Village Lighting Scheme(VLS)」を開発しました。

VLSは、村レベルで運営されるコミュニティ管理型のエネルギープログラムです。コミュニティの世帯は、地元の技術者への支払いや、スペアパーツの購入、耐用年数の過ぎた部品の交換のための資金を積み立てるためのメンテナンスファンドに出資することを約束します。コミュニティは、東ティモールの職業訓練校(Centro Nacional de Emprego e Formação Profissional)のモバイルトレーニングユニットから技術トレーニングを受ける候補者を推薦し、30Wのソーラーシステムを各家庭に設置しています。

VLS は10年の歳月を経て、国内の7地区で2,133世帯に導入されました。運用の成功は、プログラムを監督するために設立されたエネルギー委員会にコミュニティが信頼を置くかどうかに大きく依存していました。また、Renew は、プログラムのオーナーシップを担う地元の主体を特定しない限り、プログラムをさらに成長させることができないという課題にも直面していました。その結果、2018年、リニューは、家庭用エネルギー融資を活用した地元の社会企業主導のモデルに焦点を当てて、VLS を修正しました。この変更によって、フルタイムの技術的雇用とプログラムを推進する地元の熱意を支えるために必要な規模の経済を生み出すことが期待されています。

インタビュー

  • ハリー・アンドリュース氏(オーストラリア Renew コミュニティプロジェクトマネージャー)

Q1. なぜ、地域は再生可能エネルギーに関わりたいと思ったのでしょうか? Renew がこの取り組みに参加するようになったきっかけは何ですか?

1999年のインドネシアによる東ティモールからの撤退の際、同国のインフラの多くが損傷または破壊されました。Renew(当時はAlternative Technology Association)は、家庭やコミュニティの持続可能な解決策に焦点を当てた会員制の組織です。そのメンバーの中には、東ティモールの復興に貢献したいと考える人もいました。その結果、2003年に Renew は地元の団体と協力し、診療所、学校、ラジオ局、警察署に太陽光発電を設置することになりました。

これらのプロジェクトを実施する中で、Renew とそのパートナーは、数多くのコミュニティからコミュニティの建物だけでなく、家庭にもソーラー照明を導入したいという要望を受けました。これらの支援要請は、オーストラリアと東ティモールの友好団体を通じて行われることが多かったです。2007年、Renew は「アイレウ友の会[17]」の推薦を受け、アイレウ市のベシラウ村において、コミュニティとの協議と試行を経て、VLSの枠組みを構築することになりました。

Q2. このイニシアティブで確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割は何ですか?

Renew は、コミュニティを支援するための明確な基準を設けました。まず、東ティモール政府と協力し、コミュニティへの電力供給網の拡張計画が差し迫っていないことを確認しました。さらに、コミュニティ全体が参加に前向きであることを条件としました。

コミュニティが関心を示した後、地区や準地区の行政府と密接に協力しながら、Renew の地元のコミュニティ参加パートナーがコミュニティを訪問します。そして、彼らのコミットメントを説明し、コミュニティが会長、書記、会計からなる「エネルギー委員会」を選出し、技術トレーニングを受ける2~3人の候補者を指名し、規約を採択します。Renew は、これらの役割に男女半々で参加することを推奨しました。

そして、エネルギー委員会は、コミュニティ内の全世帯から、毎月2米ドルをメンテナンス基金に納め、この基金でスペアパーツを購入し、メンテナンスと修理をおこなう技術者に報酬を支払うことに同意するよう求めました。太陽光発電システムの設置後は、毎月の集金管理、エネルギー委員会の運営、修理・メンテナンスなどをコミュニティが責任を持っておこなっています。

Q3. コミュニティは、この取り組みからどのような利益を得ているのでしょうか?

コミュニティが強調した主なメリットは、安全性です。プログラム実施の初期段階において、東ティモールには安全のために一晩中明かりをつけたままにする文化的傾向があることがすぐに明らかになりました。そこで、ソーラーシステムの設計を進化させ、暗くなると自動的にスイッチが入り、一晩中点灯する低ワット(1W)の外灯を追加しました。さらに、ソーラー照明システムによって、火傷や火災の危険があるロウソクや灯油ランタンの必要性が減り、家庭の安全性が向上しました。また、夜間に漁網を修理したり、布を織ったりすることで副収入を得ることができるなど、夜間の経済活動も可能になりました。

さらに、東ティモールの職業訓練校と緊密に連携し、オーストラリア政府の資金援助を受けて太陽光発電の認定コースを開発しました。VLS を通じて技術者に指名されたコミュニティメンバーは、このプログラムに基づくトレーニングコースを修了し、国の政府からも認定されました。

Q4. この取り組みを展開・実施する上で、大きな課題は何でしたか?

VLS のもとで Renew が重視したのは、可能な限りコミュニティの自給自足を築くことでした。また、コミュニティと首都ディリにある技術支援パートナーとの連携に努めました。また、後年には、東ティモール人のコミュニティ・エンゲージメント・オフィサーを雇用し、コミュニティを訪問してモニタリングをおこない、行政的な問題の解決を支援するようになりました。それでも、私たちはいくつかの課題に直面しました。

大きな課題として、設置後12〜24カ月が経過した後も、コミュニティがメンテナンスファンドにお金を預け続けることに積極的でなかったことが挙げられます。しかし、設置後4~5年間は故障が少なく、ソーラーシステムの耐久性は高いことが証明されました。多くのコミュニティでは、メンテナンス基金が2,000米ドル以上になると、拠出しなくなる傾向がありました。

また、資金が滞留することへの抵抗感や、多額の資金を管理するエネルギー委員会への信頼感の欠如も指摘されています。コミュニティによっては、メンテナンスのための資金が委員会によって他の目的に流用されたこともありました。興味深いことに、より遠隔地のコミュニティのエネルギー委員会は、行政の中心地に近いコミュニティよりも、より長く、より透明性と信頼性を持って運営される傾向がありました(おそらくコミュニティの結束が強かったため)。

もうひとつの根強い課題は、村レベルで技術力を維持することでした。設置後の最初の数年間は、技術的な問題がほとんど発生しないのが一般的でした。そのため、最初の数年間はスキルを維持するための十分な仕事がありませんでした。技術者はスキルを失いがちで、また他の収入を得る活動に専念するために移動してしまいました。

こうした課題に対応するため、2018年、VLS は Pay-as-you-go 方式によるレンタルソーラーモデルへと進化を遂げました。現在、東ティモールではモバイル決済技術が普及していないため、コミュニティメンバー個人を回って代金を回収する必要があります。モバイル決済が普及していないことが障害になっているように思われるかもしれませんが、顧客との個人的な関係が維持されているため、実際にはデフォルト率はゼロとなっています。しかし、モバイルマネーがない以上、何とかしなければならないのです。

この変更により、地元の社会的企業がプログラムのオーナーシップを持ち、フルタイムの技術スタッフを雇用することも可能になりました。各技術者はより広い地域をカバーしているため、仕事不足による技術保持は問題ではありません。また、エネルギー委員会方式を継続する代わりに、この企業は既存のリーダーシップ機構と連携しており、コミュニティの支持を高めるのに役立つと思われます。この進化が長期的に持続可能かどうかを判断するのは時期尚早ですが、最初の兆候は有望です。

Q5. COVID-19 の影響は、生活のほぼすべての場面で感じられます。パンデミックはイニシアティブに影響を与えていますか?

COVID-19 は、Renew にとって大きな不確実性をもたらしました。2020年には、オーストラリアの持続可能な生活を支援する中核的な活動に集中する必要があるとの判断が下されました。

Renew の東ティモールからの撤退は、移行期間中に段階的におこなわれました(2021 年 12 月に終了)。移行期間中も、Renew は VLS を運営する地元の社会的企業と密接に連携し、プログラムの継続支援に関心を持つ資金提供者との橋渡しをおこないました。この社会的企業は驚くほど有能で、私はこのプログラムが継続されると確信しています。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

VLS のような取り組みでは、お金の回収と保管について透明性を高めることが必要です。特に、コミュニティが正規の銀行を利用できない場合、そのようなことが起こり得ます。Renew は、東ティモールでの活動を終了するという難しい決断をする前に、メンテナンスファンドを村の貯蓄貸付モデルに移行する可能性を探りました。このモデルは、地域の貯蓄クラブのようなもので、コミュニティのメンバーは毎月決まった額を鍵のかかった箱に預けることに同意します。コミュニティのメンバーは、このクラブから合意された金利でお金を借りることができます。この方法によって、増加する資金をコミュニティ内で生産的に使用することができ、不正融資のリスクを軽減し、透明性を高めることができます。

さらに、再生可能エネルギーの導入にあたっては、現地で部品が入手可能かどうかを考慮することも重要です。VLS で使用されたソーラーシステムは、スペアパーツ(セキュリティシステムに使用される標準サイズの鉛蓄電池やねじ込み式 LED グローブなど)の入手のしやすさを考慮して選ばれました。しかし、実際には地方で質の高い部品を見つけることは不可能であり、首都であっても困難な状況でした。

最後に、受益者コミュニティの伝統と文化的価値をガバナンスと意思決定機構に統合することが重要です。エネルギー委員会の構成は、Renew と現地リーダーの協議のもとで開発されましたが、その後、この構成は基本的に西洋の概念に基づいており、東ティモールの伝統的なリーダーシップ構造や合意ベースの意思決定プロセスとは一致しないというフィードバックを受けました。

Village Lighting Scheme Solar installation
[17] 2000年に設立されたフレンズ・オブ・アイレウは、モーランド市議会とヒューム市議会、そしてそれぞれのコミュニティと、東ティモールのアイレウという自治体とそこに住む人々との友好関係体です(Moreland City Council, n.d.)。
Bëkyooköndë & Duwata 水力発電所

Bëkyooköndë & Duwata 水力発電所

スリナムでのエネルギーアクセス実現

主な特徴

  • プロジェクトステージ:建設中(商業運転開始は2021年予定)
  • テクノロジー:水力発電
  • 容量:50kW
  • ファイナンス:オランダ企業庁より200,000ユーロ(233,000米ドル)、技術開発者より300,000ユーロ(349,000米ドル)

スリナムのジャングル、スリナム川上流に位置する2つの村、Bëkyooköndë と Duwata は、これまで燃料の供給が不安定な小型ディーゼル発電機に頼ってきました。そのため、2,000人以上の住民が不定期に電気を利用するという状況でした。

このコミュニティはサーマカ族文化の一部を形成しており、スリナム川上流域地域全体で37,500人が生活しています。この人々は、1750年代にプランテーションから逃れた植民地時代の奴隷の直系の子孫であり、1760年にオランダとの和平を達成しました(Kemper, 2014)。

2016年、Community Entrance Hinterland NV(中間支援団体)は、2つの中小企業 Deepwater Energy BV と Hipersense Smart Grid とともに、Duwata と Bëkyooköndë の村に継続的にエネルギーを供給するため、Bakaaboto-Rapid での50kWの水力発電所の建設に着手しました。2021年末の稼働を予定しているこのプロジェクトは、Deepwater Energy BV と政府系オランダ企業庁から一部資金援助を受けています。現在、コミュニティは、水力発電所を持続的に管理する方法と、地域の送電網をさらに改善する方法について検討しています。

インタビュー

  • ワルター・サンネ氏(Community Entrance Hinterland NV)
  • ドルフ・パスマン氏(Deepwater Energy BV CEO)

Q1. あなたの地域が再生可能エネルギーに関わろうと思ったのはなぜですか? プロジェクトに参加したきっかけは?

サンネ氏 この地域には、すでに小学校と保健所を建設していました。さらに、上スリナムの後背地では、67の村に通信網のインフラを整備するなど、インフラ整備を進めています。しかし、電力がないため、それらのプロジェクトは制限され、電力を使ったモノの生産もできません。つまり、この地域の繁栄と幸福は、電気の供給があってはじめて向上するのです。そこで、私たちは積極的に電化の解決策を探しました。その過程で、私たちのネットワークを通じてモジュール式水力発電所や Oryon Watermill の技術を知り、Deepwater Energy BV とコンタクトを取ることになったのです。CEO のドルフさんにはじめて電話した時、私は「あなたたちを何年も待っていたよ」と言いました。その後すぐにチームを組み、後背地での設置許可を得ることができました。もともと、再生可能エネルギーの普及に関心の高いスリナム政府にも、この設置を相談しました。しかし、政府は大規模なプロジェクトに重点を置いており、また、手続きに時間がかかるため、融資を受けることはできませんでした。

Q2. プロジェクトのために確立されたガバナンスと意思決定プロセスについて教えてください。重要な意思決定におけるコミュニティの役割は何ですか?

サンネ氏 私の先輩たちは、次の世代として、過去にできなかった地域開発を続けられるようにと、私を学校に送り出してくれました。そして今、私は地域の会長として、さまざまな開発プロジェクトに取り組んでいます。後背地におけるすべての決定は、67の村からなる地域社会とともにおこなわれます。Brokopondo 貯水池は、首都 Paramaribo に可能な限りの電力を供給していますが、もともとあった村や住宅地を手放さなければならない辺境の村には関係ありません。私たちの開発活動は、この地域への熱い思いがベースになっています。

Q3. 最初にプロジェクトに参加したとき、地域社会にどのような利益がもたらされるとお考えでしたか? また、その考えは時間とともに変化しましたか?

サンネ氏 もともと、5台のディーゼル発電機が村に寄贈されましたが、燃料の補充が問題になっています。私たちのコミュニティには、水力発電をおこなうための水、急流、滝がたくさんあります。そのため、水から電気をつくるプロジェクトを何年も前から希望し続けました。それによって、コミュニティとしての自立を世界にアピールしたいという思いもありました。プロジェクトは2016年の初めごろから始まり、Oryon Watermill はすぐにオランダ政府からの資金を持ち込みました。

Community Entrance Hinterland も、土地、地域資源、労働力という支援をデフォルトで提供しました。私の期待も、コミュニティの期待も、プロジェクトの間ずっと変わりませんでした。

Q4. 開発にあたって、大きな苦労はありましたか?

パスマン氏 オランダの技術をスリナムのジャングルに持ち込む上では、ロジスティクスとタイミングが最大の難関でした。3年前は雨が多く、水位が高くて土木工事ができず、1年遅れで完成しました。土木工事はすべて、このプロジェクトに強い意欲を持つ地元の人たちによっておこなわれています。これは、長い目で見れば、修理などのオペレーションやメンテナンスも彼らがおこなうことができるようになります。特にプロジェクト開始当初は、教育やトレーニングに多くの時間を費やしました。電気が使えるようになることを心待ちにしていたプロジェクト関係者にとっては、あらゆる遅れが特に大きな打撃となりました。

Q5. COVID-19 の影響は、生活のほぼあらゆる場面で現れています。パンデミックはプロジェクトに影響を及ぼしているのでしょうか?

パスマン氏 COVID-19 の影響で、スリナムへの渡航は昔も今も非常に困難です。明るい材料としては、スリナムのワクチン接種の件数が増えたことです。内陸部では、人口が密集している沿岸部とのつながりも薄いため、ワクチン接種に疑問を持つ人もいますが、毎週、ワクチン接種の必要性を理解する人が増えています。2020年にはスリナムの現地作業を中止し、オランダでの一部の準備作業のみおこなえるようになりました。プロジェクトのさらなる投資を得る上で可能な渡航量も減少しています。

Q6. 重要な教訓は何ですか?

サンネ氏 このような国際的なプロジェクトで気をつけなければならないのは、文化の違いです。現地の人々は、公的資金や民間資金を提供する側とは異なる理解をしていることが多いのです。そこで、現地の人たちにわかりやすく、自分たちのニーズを伝えることが重要です。資金提供者が私たちの文化や地域社会をもっと理解しようと思ってくれれば、今後のプロジェクトはもっと楽になるはずです。

パスマン氏 当初、投資先を探す際には、LCOE(平準化エネルギーコスト)、効率性、投資収益率ばかりが問われていました。インフラがないところに電気を持っていっても、電気を売る方法がないので、明確なビジネスケースがなく、経済性ではなく社会的インパクトに話をシフトする必要があるのです。次回は、NGO や政府、金融機関などを通さず、直接コミュニティと関わり、現地に密着しておこなうことで、より良いコミュニケーションと迅速な意思決定が可能になると考えています。一番大事なのは、お互いの信頼関係です。補助金や公的資金には、その報告に厳しい制限があり、地域の資源(工数、地域の建材など)の活用と相容れないことが多々あります。

付録:コミュニティのためのリソース

多くの組織が、コミュニティがエネルギーイニシアティブを実践する際の手引きとなるリソースを提供しています。

国際レベル

国レベル

サブナショナル/ローカルレベル

  • Energy Cities, City Stories podcast, cases of community energy in Pamplona (Spain), Prague (Czechia), Strasbourg (France), Valencia (Spain) and others (in English), https://soundcloud.com/energy-cities

参考文献

CORENA (2020), Citizens Own Renewable Energy Network Australia Inc. website, https://corenafund.org.au/ (accessed 25 October 2020).

EDF (2021), Capital structure: EDF Group’s share capital at 31 December 2020, Electricité de France, www.edf.fr/en/the-edf-group/dedicated-sections/investors-shareholders/the-edf-share/capital-structure (accessed 9 May 2021).

ENERES (2017), Partial transfer of shares in Shonan Denryoku [in Japanese], www.eneres.co.jp/news/release/20170511.html (accessed 1 May 2021).

European Parliament (1996), Directive 96/92/EC of the European Parliament and of the Council of 19 December 1996 concerning common rules for the internal market in electricity.

Furuya, S. (2016), Sustainability praxis in community based renewable energy planning and development (PhD thesis), Aalborg University, Denmark, https://vbn.aau.dk/en/publications/sustainability-praxis-in-community-based-renewable-energy-plannin.

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略語

3NEThree Nations Energyスリーネイションズ・エナジー
AMADERAgency for the Development of Domestic Energy and Rural Electrificationエネルギー・農村電化開発庁
ARENHRegulated Access to Historic Nuclear Electricity (Accès Régulé à l’Electricité Nucléaire Historique)歴史的な原子力発電へのアクセスの規制
AUDAustralian dollarオーストラリア・ドル
CADCanadian dollarカナダ・ドル
CORENACitizens Own Renewable Energy Network Australia市民がつくる再生可能エネルギーネットワーク・オーストラリア
e-carElectric car電気自動車
ECHOEnergy Consortium of Hakone Odawara小田原箱根エネルギーコンソーシアム
EDFÉlectricité de Franceフランス電力
EUEuropean Union欧州連合
EUREuroユーロ
EVElectric vehicle電気自動車
FITFeed-in tariff固定価格買取制度
GHGGreenhouse gas温室効果ガス
GWhGigawatt-hourギガワットアワー
ICEIndigenous Clean Energy先住民クリーンエネルギー
ISEPInstitute for Sustainable Energy Policies環境エネルギー政策研究所
JPYJapanese yen日本円
kmKilometreキロメートル
kVAkilovolt-ampereキロボルトアンペア
kWKilowattキロワット
kWhKilowatt- hourキロワットアワー
kWpKilowatt-peakキロワットピーク
METIMinistry of Economy, Trade and Industry経済産業省
MWMegawattメガワット
MWhMegawatt-hourメガワットアワー
MWpMegawatt-peakメガワットピーク
NGNNigerian nairaナイジェリア・ナイラ
NGONon-governmental organisation非政府組織
PVPhotovoltaic太陽光発電
SCICSociété coopérative d’intérêt collectif集団利益協同組合
TANESCOTanzania Electric Supply Companyタンザニア電力供給会社
tCO2Tonne carbon dioxide二酸化炭素トン
UrStromUrStrom Citizen Energy Co-operative Mainz eGユアストローム・マインツ市民エネルギー協同組合
USADFUnited States African Development Foundation米国アフリカ開発財団
USDUnited States dollarアメリカ・ドル
VLSVillage Lighting Scheme村落照明スキーム
WWattワット