X-Change 自動車

内燃機関時代の終わり

RMI

X-Changeレポートは、世界のエネルギーシステムの主要分野が、多くの人の予想以上の速さで変化している理由を示している。EV販売はS字カーブを描き、急速に拡大している。北欧と中国が先導し、政策の支援でEVが新車販売の1%から10%に達するまで約6年かかったが、次の段階では主要国で6年以内に80%に達すると予測される。このまま課題を克服し成長が続けば、2030年には世界の自動車販売の62〜86%がEVとなり、中国では少なくとも90%を占めるだろう。

X-Change: Cars

The end of the ICE age

RMI

元レポート 2023年9月

日本語翻訳 2024年10月

著者

Kingsmill Bond, Sam Butler-Sloss, Daan Walter, Harry Benham, EJ Klock-McCook, Dave Mullaney, Yuki Numata, Laurens Speelman, Clay Stranger, and Nigel Topping

謝辞

X-Change 自動車レポートは、RMI がベゾス地球基金とのパートナーシップのもと制作したもので、Systems Change Lab に寄稿したものです。RMIは、ご意見と専門知識を提供してくださった以下の方々に感謝いたします

Will Atkinson, Lennart Baumgärtner, Jennie Dodson, Doyne Farmer, Joel Jaeger, Kelly Levin, Amory Lovins

日本語翻訳

古屋将太

Kingsmill Bond, Sam Butler-Sloss, Daan Walter, Harry Benham, EJ Klock-McCook, Dave Mullaney, Yuki Numata, Laurens Speelman, Clay Stranger, and Nigel Topping (2023), X-Change: Cars,  RMI.

本レポートは RMI “X-Change: Cars” を発行者による許可のもとで翻訳した日本語版です。英語オリジナル版と日本語版で相違がある場合は、英語版の記述が優先されます。

目次

図1. リチウムイオン電池パック価格
図2. 世界のEV販売シェアとEV購入予定者シェア
図3. 世界のEV販売台数とシェア
図4. 各国はS字カーブを描いている
図5. 2022年のEV主要部品の生産シェア
図6. IEAによる世界のガソリン需要予測
図7. リチウムイオン電池パックの想定コスト範囲
図8. 主要市場におけるステッカー価格パリティの時期
図9. インターネットを利用する人口の地域別シェア
図10. 世界の自動車販売に占めるEVの割合 2022年
図11. EV市場シェア
図12. 主要市場における推定EV市場シェア:高速
図13. EV販売台数と車両ストック台数
図14. ICEの販売台数と市場シェア
図15. ICEの販売・廃車台数およびICE総保有台数
図16. 自動車、電気自動車、EV向けの石油需要
図17. 自動車による石油需要
図18. 輸送部門別EV販売シェア
図19. 太陽光発電・風力発電のシェアとEVのシェア
図20. 2030年の販売台数に占めるEVの割合
図21. 2030年のEV販売シェア予測
図22. 自動車販売台数に占めるEVの割合に関するIEAの予測
図23. BNEFによる世界と中国のEV販売シェア予測
図24. 異なる年平均成長率におけるEVの販売シェア
図25. 主要市場におけるEVの販売シェア
図26. 中心点付近でのEV販売シェアと推定リーダーズカーブ
図27. EVの売上シェアに対するS字カーブのオプション
図28. ノルウェーにおけるEV販売シェアの予測と実績
図29. 世界の携帯電話普及率の予測と実績
図30. 世界の主要鉱物の資源量
図31. 鉱物の利用可能性

1. 概要

  • EVの急速な普及は、世界の自動車用石油需要がすでにピークに達し、2030年には暴落することを意味する[1]。内燃機関(ICE)時代の終焉がはじまったのである[2]。
  • EVはS字カーブを描いて成長している。電気自動車(EV)の販売台数は、北欧や中国などの先進国によって確立され、政策によって推進される明確な指数関数的成長パターンがある。大まかに言えば、新車販売に占めるEVの市場シェアが1%から10%になるまでに約6年、先進国では80%になるまでにさらに6年かかるということだ [3]
  • 経済性が新たな原動力となる。バッテリーのコストには学習曲線があるため、総所有コストの平準化が達成され、10年後までにはすべての主要自動車市場とセグメントで定価の平準化が達成されるだろう[4]。革命はグローバルサウス全体にも広がり、他の輸送部門にも波及するだろう。
  • トップに向けた競争。未来の輸送テクノロジーの主導権争いは、移行を後押しする。企業はすでに、2030年までにEVが自動車販売の大半を占めるのに十分なバッテリー工場と自動車工場を建設している[5]
  • 課題には解決策がある。電力インフラのアップグレード、充電ネットワークの拡大、バッテリーのリサイクルなど、さまざまな複雑な課題を解決する必要がある[6]。中国での成功は、ほとんどの場所で解決策が見つかることを示唆しているが、それでも懸命な努力は不可欠である。
  • フィードバックループが変化を加速させる。ICEの需要が減少し、EVが成長を独占するにつれて、企業や国は人材と資本を未来に向けて再配置している。
  • 2030年にはEVが販売台数の大半を占める。課題を解決し続け、販売がS字カーブを描き続けるとすれば、2030年にはEVが販売台数の62〜86%を占め、中国は少なくとも90%のEV市場シェアを享受することになる。一方、EV販売台数の予測コンセンサスは遅れており、毎年上方修正されている。
  • ICE需要がピークを迎える。ICE車の新車需要は2017年にピークを迎え、それ以来年率5%で減少している。廃車台数の増加と販売台数の減少は、ICE車の保有台数がピークに達しようとしており、2030年までに急速に減少することを意味している。
  • 自動車の石油需要がピークを迎える。自動車の燃料となる世界の石油需要は2019年にピークに達し、現在は効率向上とEVの成長の狭間で典型的な台地状態にある。2030年までに、自動車の石油需要は毎年100万バレル/日(mbpd)以上減少し、世界の石油需要の4分の1が終焉を迎える。
  • 自動車は輸送部門の変革を促進する。自動車用蓄電池の急速な成長は、グローバルサウスの二輪車から中国やアメリカのトラック輸送に至るまで、その他の輸送部門全体の変化を促進するために必要な、より低コストでより高いエネルギー密度を生み出すきっかけとなっている。その結果、世界の石油需要の半分が危機に瀕することになる。
  • より速く進む余地は常にある。私たちは2050年までにネットゼロを達成する道筋にはあるが、温暖化を5℃に抑える道筋にはない。化石燃料による大気汚染で引き起こされる死は重要であり、高価な化石燃料の輸入に費やされるドルは機会費用であり、1℃の端数は脅威の乗数である。

2. これまでの指数関数的変化

本稿では、乗用車の電気自動車(EV)の販売台数が指数関数的に伸びていること、指数関数的な変化が今後も続くと考えられる理由、そしてこの継続性が将来の自動車販売と石油需要に対して何を意味するかを考察する。付録では、EV販売の将来を予測するさまざまな方法を概説し、成長に対するさまざまな課題について詳しく検討する。

EVの将来についての議論の多くは、すでに起きている非常に急速な変化について言及することなくおこなわれている。政策的圧力の高まり、蓄電池コストの低下、急速な技術革新は、すでにEV価格とICE価格の競合、消費者の態度の変化、明確なS字型パターンでの指数関数的成長を生み出している。中国は圧倒的な地位を確立し、自動車会社は戦略の変更を余儀なくされている。その結果、自動車の石油需要は2019年にピークを迎え、現在は頂上の台地で上下変動を繰り返している。

2.1 政策圧力が高まった

EVの販売拡大を支援する施策を導入する国が増加している。これには、EVの価格補助、ICEの禁止、税制上の優遇措置、駐車や運転の優遇措置などが含まれる。2015年には、ICE販売を段階的に廃止する時期を定めた主要国はなかった。2022年までに、世界の自動車需要の半分以上を占める7カ国を含む21カ国が、ICE販売を段階的に廃止することを決定した[7]

現在、世界第1位と第3位の自動車市場である中国と欧州では、2035年までにICE車の販売を禁止するという政策目標が掲げられている[8]。バイデン政権は、2030年までに米国での販売台数の50%をEVにするという目標を掲げており[9] 、米国の多くの州がカリフォルニア州のゼロエミッション車プログラムを遵守している[10]

一方、EVの普及は多くの市場で目標を上回っており、特に中国では顕著である。例えば、北京の2025年のEVシェア目標は25%だったが[11]、2022年にはすでに29%に達している。

2.2 蓄電池の普及が進み、コストが低下した

運輸部門に導入された蓄電池容量は、2010年の0.5GWhから2022年には1,500GWhに増加しており[12]、これはほぼ12倍、年平均成長率は97%である。

2010年以降、蓄電池コストは88%低下し、導入量が2倍になるごとに約17%の学習率で低下している[13] 。2022年の世界平均価格は1kWhあたり151ドルで、中国では131ドルだった。一方、蓄電池のエネルギー密度は年率約6%で向上した[14]

図1. リチウムイオン電池パック価格($/kWh 2022年実質)

2.3 価格パリティに到達した

蓄電池コストの低下と政策支援の組み合わせにより、主要市場で価格パリティが達成された。2020年代初頭に米国以外の主要市場で、ICEとEVの総所有コスト(total cost of ownership, TCO)が同等になった。その原動力は、安価なエネルギー(電気は石油より安い)、低いランニングコスト、EV補助金などである[15]。RMIは、米国のインフレ抑制法(IRA)の影響により、米国でもTCOが同等になったことを計算している[16]

中国では、ステッカープライスパリティ(同等のICEとEVの小売価格が同じ)も達成されている[17]。BNEFは、2022年に中国でもっとも売れたEVは、約5,000ドルのSAIC Wuling Hongguang Mini BEVであると指摘している。

2.4 テクノロジーが課題を解決した

EVへの移行は当初から多くの課題に直面しており、それらを解決できると考える人はほとんどいなかった。1kWhあたり1,000ドルを超える蓄電池コストは、EVが非常に高価であることを意味していた。充電インフラが不足していたため、人々はそれが建設されることはないだろうと心配していた。そして、必要とされる数千GWhのバッテリー生産能力は、すでに計画されていた規模や実行可能な規模をはるかに超えるものであった。

しかし、これらの課題にはそれぞれ解決策が見つかった。バッテリーのコストは10年間で90%近く低下し、EVの販売と同時にEVの充電インフラが整備され、イーロン・マスクは2016年に最初のギガファクトリーを立ち上げ、現在400ものギガファクトリーが建設中である。

そのプロセスは平坦ではなく、挫折も味わった[18]。とはいえ、EVの成長を継続させるには十分だった。このことを示すもっとも良い方法は、主要市場におけるEV販売の市場シェアを見ることである。ノルウェーでは90%、中国では3分の1に達している。解決策が見つかっているのは明らかだ。

2.5 消費者意識の変化

解決策が見つかり、EVのコストが下がるにつれて、EVに対する消費者の態度も変化した。EVは多くの消費者にとって優れた価値提案となった。EVはICEよりも加速が速く、運転コストが安く、家庭で充電でき、停電時のバックアップにもなる。

EYのモビリティ消費者指数[19]によると、2023年には、自動車購入予定者の55%がEVの購入を見込んでいる。これは、2020年にEVの購入を計画していた30%のほぼ倍である。さらに、2023年の米国ではIRAをきっかけにEVに対する意識に変化が見られ[20]、EV購入意向者の割合は2022年の29%から2023年には48%に上昇している。今日、EVを買えない人、買いたくない人がたくさんいるのはもちろん事実だ。誰もが、EVを買わない友人や親戚の逸話を持っている。しかし、データによれば、このグループは今や少数派になりつつある。しかも、EVの販売台数に占める割合は、まだ購入意向者の上限をはるかに下回っているため、このグループはEV販売台数の伸びを妨げる要因にはなっていない。そして、EVの販売台数がS字カーブを描くにつれて、価格は下がり続け、購入意向者のシェアは上昇し続けるだろう。

図2. 世界のEV販売シェアとEV購入予定者シェア(%)

2.6 指数関数的な成長がはじまった

EVの販売は、他のテクノロジーの成長に特徴的な典型的なS字カーブを描いて指数関数的な成長を遂げている。

図3. 世界のEV販売台数とシェア

EVは地域によって異なる時期に離陸しているが、同じS字カーブを描いて成長している。これは、ある一定の販売比率を中心に主要国を並べるとはっきりとわかる。図4では、主要国をEV市場シェア10%に合わせると、S字カーブの類似性が明らかになる。大雑把に言えば、市場シェア1%未満から10%になるまでには約6年かかり、先進国が80%になるまでにはさらに約6年かかる。

図4. 各国はS字カーブを描いている

2.7 自動車会社の戦略転換

EVの販売が軌道に乗ると、自動車会社は戦略の変更を余儀なくされた。EVを嘲笑することから、EVを採用する戦略へと転換したのである。IEAが詳述しているように、現在、ほとんどの大手自動車メーカーがEVの将来を見据え、設備投資と研究開発予算の50~70%をEVとデジタルテクノロジーに投入している[22]。OEMは、ICEプラットフォームへの投資を中止し、ICE車種の一部を廃止し[23]、水素輸送計画を後退させはじめている。

このようなEVへのシフトによって、多くのEVモデルが利用できるようになった。2015年にはわずか50車種しかなかったEVが、現在では500車種を超えている[24]。自動車業界の多大な資本と才能が、コストを下げ、性能を向上させ、消費者の選択肢を増やすために投入されている。

2.8 中国が支配的地位を築いた

中国は、バッテリーからリチウム精製に至るまで、EVとその主要部品の生産を独占している。中国の成功は、バリューチェーン全体を同時に推し進めた結果であり[25]、 規模拡大と習熟によるコスト削減を信じ、普及を可能にするインフラを整備したことである。

図5. 2022年のEV主要部品の生産シェア(%)

その結果、中国はEVで大規模かつ有利な輸出産業を構築することが可能になり、自動車輸出の世界的リーダーとしてドイツと日本に挑戦している[27]。その結果、EVは中国における成長の重要な結節点として浮上している[28]

中国の優位は、他の国々が追いつこうとする世界的な反応に火をつけた。IRAは米国のEVと蓄電池の国内生産を増やそうとしており[29]、欧州も自国の蓄電池産業の発展を加速させている[30]

市場シェアではノルウェーがトップだが、2015年には中国が欧州を抜いて最大の電気自動車市場に浮上した。2022年には、中国がEV販売全体の58%を占めるようになる。

2.9 自動車用石油のピーク

これらの要因が組み合わさることで、自動車向けの石油需要は2019年にピークに達した可能性が高い[31]。例えば、IEAは、自動車需要の代用としているガソリン需要が2019年にピークに達したと指摘している[32]。BNEF [33]とRystad [34]は、自動車向け石油需要は2019年の水準を若干上回る、または2019年の水準まで上昇すると予測しているが、これはやはり、需要がいくつかの波がある台地状にあるという私たちの枠組みとも一致する。

図6. IEAによる世界のガソリン需要予測(100万バレル/日)

自動車の石油需要のピークは、エネルギー転換を見慣れた人々にとっては驚きではないだろう。ピーク、台地、衰退というパターンは、以前にも指摘したように、エネルギー転換の特徴である[36]

さらに、ピークアウトのプロセスは、OECDの需要が最初にピークに達し、次に中国、そして世界の他の地域がピークに達するという、お決まりのパターンに従っている。IEAのデータによると、OECDのガソリン需要は2007年に1,490万バレル/日(mbpd)のピークに達したが、2019年には4%減の1,440万バレル/日となった。中国は2010年から19年にかけてのガソリン需要の伸びの半分を担ってきたが、中国の大手製油所であるシノペックの予想では、ガソリン需要は2023年にピークに達する可能性が高い[37]。OECDと中国は世界の自動車用石油需要の3分の2以上を占めているため、この2つの地域が衰退し、EVがグローバルサウスに広がり続ければ、世界の他の地域は需要を押し上げることができなくなる。

3. 変化の原動力が強まる

急速な変化の原動力はさらに強まるだろう。テクノロジーイノベーションとコスト低下により、より多くの市場で価格が平準化され、政策立案者はより迅速な変化を後押しするようになり、消費者はEVを購入するようになる[38]。変化の主な原動力は、政策によるプッシュから経済によるプルへと移行する。

3.1 コスト低減

3.1.1 蓄電池

蓄電池のコストは今後も下がり続けるだろう。RMI [39]、エコノミスト[40]、IEA [41]の報告書は、メーカーがリン酸鉄リチウム(LFP)電池にシフトし、ナトリウムイオンなどの他のテクノロジーも試していることから、蓄電池分野でどれほどのテクノロジーイノベーションが進んでいるかを示している[42]

この分野には多くの資本と人材が投入されているため、テクノロジーイノベーションが継続する可能性が高い。BNEFによると、2013年の輸送用リチウムイオン電池の販売量は年間14GWhだった。2022年の販売量は600GWhで、各社は2030年までに年間10,000GWhの電池容量を導入する計画を立てている[43]

ほとんどの分野と同様、ロシアのウクライナ侵攻とインフレ圧力の結果、2023年に蓄電池コストが上昇した。しかし、長期的なコスト低下トレンドは再開する可能性が高い。例えばBNEFは、蓄電池コストは2024年に再び下落に転じると予想している。ドイン・ファーマーが指摘しているように[44]、蓄電池のような小型モジュール商品の製造技術では学習曲線が粘着性をもって存在する。INETオックスフォードは、リチウムイオン電池の長期的な学習率を21%と計算しており[45] 、BNEFは、より短い時間スパンを用いて、より低い学習率17%を計算している。

学習曲線が15%(高速)~20%(超高速)で継続し、あらゆる用途の電池の世界的な成長率がRystadの予測 [46](2030年まで年率40%~50%)に沿うと仮定すると、コストは2030年までに1kWhあたり60~90ドルまで低下する。これは、2022年の平均151ドル/kWhの約半分である。

図7. リチウムイオン電池パックの想定コスト範囲($/kWh、2022年までは実績)

BNEFは、バッテリーのエネルギー密度は年率4%上昇すると予測している。もちろん、大きなブレークスルーが起こるかもしれない。例えば、世界最大の蓄電池メーカーであるCATLは、2023年4月に、世界平均の2倍以上である1kg当たり500Whのエネルギー密度を持つ電池の商業化を計画していると発表した[47]。CATLによれば、このような密度は航空機に使用できる可能性があり、DNVが指摘するように、より高密度のバッテリー技術は、ますます多くの用途に利用できるようになる[48]

3.1.2 より多くの市場におけるEV価格パリティ

BNEFの試算によれば、蓄電池のコストが低下するにつれて、2031年までにすべての主要カテゴリーと市場でステッカー価格が同等になる[49]。 以下に、世界の自動車販売の4分の3を占める5つの主要市場のデータを示す。

図8. 主要市場におけるステッカー価格パリティの時期

BNEFの計算は、標準的な生産規模と利益率を想定しているため、実際にはかなり保守的である。現実には、メーカーは新しいテクノロジーで市場シェアを獲得するためにより低い利幅を覚悟するかもしれない。さらに、テスラ、CATL、BYDのような企業は、生産規模が大きいため、価格設定も低くなる。例えば、IEA [51]は、BNEFのデータが示唆するよりも2~3年早く、中国の自動車市場ではすでにステッカー価格パリティに達していると論じている。したがって、あらゆる主要需要カテゴリーが、この10年でステッカー価格の転換点を超えると考えるのが妥当であると考える。

価格パリティが達成されると、新しい企業が市場に参入し、EVを導入するためのより良い方法を見つけるため、カンブリア紀的なテクノロジーイノベーションの爆発が起こるだろう。さまざまなタイプの自動車が市場に登場し、この競争圧力がさらなる変化を促すだろう。

3.2 さらなる政策的圧力

政府がEVへの移行を加速させる理由は数多くある。ここでは、エネルギー安全保障、製造業のリーダーシップ、大気汚染、気候について触れる。時間の経過とともに政策圧力は高まる一方であるというのが結論だ。

3.2.1 エネルギー安全保障

石油は化石燃料の中でもっとも高価なエネルギーであり[52]、インドのような国にとっては経常赤字の主な原因となっている。ICE車を新車で購入するたびに、石油輸入国はその生涯で約15トンの石油を輸入する負担を強いられる。EVはその負担を軽減する。

3.2.2 製造業におけるリーダーシップ

プーチンが2022年にウクライナに侵攻したことで、EVサプライチェーンにおける中国の優位性が西側諸国に警告され、これがいくつかの重大な変化を引き起こした。その反応は、EVサプライチェーンを西側諸国でも再現しようとするもので、これがさらなるイノベーションと変化のスピードアップにつながる可能性が高い。2023年9月に開催されたミュンヘンモーターショーでの逸話によると、中国製EVの高品質と低価格が、ドイツ自動車業界による移行の必要性の再考を促しているようだ[53]

3.2.3 大気汚染

どの大都市も大気汚染の問題を抱えており、石油を燃やす自動車によってさらに悪化している。世界保健機関(WHO)[54]は、環境大気汚染と家庭大気汚染の複合的な影響により、年間670万人が早死にすると指摘している。このうち約90%は中低所得国に住んでいる。ICCTによれば、年間40万人近くが自動車の排気ガスによる汚染で死亡している[55]。平均的なICEは年間1トンの石油を使用し、年間約3トンのCO2を排出することになる。地球温暖化コストを1トン当たり100ドル、地域汚染コストを同程度と仮定すると、新車1台につき約8,000ドルのコストが社会にかかることになる。国民の健康に配慮する政府は、時間の経過とともに、国民にEVへの移行を促す可能性が高い。例えば、中国[56]やコロンビア[57]では、政府が特に大気浄化に取り組んでいる。

3.2.4 気候

輸送は気候変動の主な要因のひとつであり、道路輸送はエネルギー関連のCO2排出量の19%を占めている[58]。低コストの電気自動車は、排出量を削減し、パリ協定の下での公約を達成するための手段を政府に提供する。

3.2.5 費用が他の原動力と一致する場合、政府は何をするか?

コストが下がれば、EVは個人的な移動手段としてもっとも安価な選択肢となる。その結果、ほとんどの国(石油国家やイデオロギー的に燃料を燃やすことに熱心な地域を除く)で、政府がEVを急速に普及させるための条件を整備する可能性が高くなる。

そのためには、送電網と配電インフラを強化し、広く公平な充電インフラを整備し、消費者にEVの購入を促すよう規制構造を変える必要がある。やがてEVが優勢になるにつれて、各国政府はICEの販売を削減するためにより厳しい措置を採用するようになり、最終的には道路上のICEを急速に廃止する政策を採用するようになると予想される。ICEの販売が減少すれば、ICEロビーの力は低下し、変化に抵抗する力も弱まるだろう。

その意味するところは、政策圧力が持続的に高まるということである[59]。変化を加速するために必要な政策行動には、規制とインフラ整備、アメとムチのミックスが含まれ、IEA [60]と BNEF [61]の両機関が詳しく分析している。

3.3 生産能力の構築

EV普及に関する楽観的な見方をもつことが可能になるほどの新たな生産能力が、自動車と蓄電池の両方ですでに導入されている。

Rystad Energyによると、自動車会社は2030年までに年間8,000万台のEVを生産するのに十分な新たな生産能力の建設を計画している[62 ]。これは現在の全自動車需要を上回り、2030年に予想される自動車需要のほぼすべてに相当する。IEAによると[63]、電池会社は2030年までに10,000GWhの電池を生産できる工場を計画している。最大8,000万台のEV車販売と60kWhの蓄電池を想定すると、自動車部門からの蓄電池需要は4,800GWhとなる。つまり、蓄電池の生産能力も十分にあると考えることができる。

3.4 中国のリーダーシップ

中国には、自動車分野でEVを急速に展開し続けるために必要な要素がすべて揃っている。それらは以下の通りである。

  • 国内での石油供給が不足しているため、ほとんどの石油はすでに輸入されており、通常通りであれば、その割合は70%以上に上昇することになる[64]
  • 中国が支配していない海上交通路を利用した石油輸入に依存している
  • 世界でもっとも低コストのEVがあり、ICEと同等の価格である
  • ICE輸出では比較的弱いが、EV輸出では圧倒的な地位を占めている
  • 未来の主要産業でグローバルリーダーシップを握るチャンスがある
  • EVが経済を牽引する[65]
  • 都市における大気汚染を削減する機会となる
  • 政府が送電網と配電インフラに必要な変更を計画・実行し、充電インフラを迅速に構築できる
  • EVテクノロジーを効果的に展開するための成功のテンプレートを手にしており、二輪車とバスの電気自動車販売シェアはすでに50%を超えている[66]

したがって、中国のEV販売台数はS字カーブを描いて急上昇を続けると予想される。

3.5 グローバルサウスも変化を受け入れる

EVの販売は3つの市場に集中している。中国、欧州、米国だ。それ以外の地域はEVを買うことができない、あるいは買おうとしないという意見もある。

しかし、これは、移行がどのように機能するのか、また、ほとんどのグローバルサウスのリーダーたちも、安価な輸送ソリューションを採用したいと考えているという事実を無視している。したがって、南半球が他のテクノロジーイノベーションと同じパターンをたどり、変化のS字カーブに乗る可能性は高い。

3.5.1 中核から広がるテクノロジー

EV販売が優勢な3つの市場は、全自動車販売も大半を占めている。それらの市場がEV販売台数の95%を占め、全自動車販売台数では64%を占めている。標準的なパターンでは、EV販売はまず主要市場で確立され、その後、コストが下がるにつれて世界中に広がっていく。

テクノロジーが発展し、裕福な国で安価になり、それが世界中に広まるのはよくあることだ。その典型的な例がインターネットだ。インターネットを利用する人口の割合は、まず米国で、次に欧州で急速に増加した。南アジアとサハラ以南のアフリカがその20年後に続き、世界全体の普及率は2018年に50%に達したに過ぎない。とはいえ、50%というマイルストーンに到達するずっと前から、このテクノロジーは大きな意味を持っていた。

図9. インターネットを利用する人口の地域別シェア(%)

同じように、このエネルギー転換は中心的な核心から広がっている。違いは、インターネット革命は米国が主導したが、EV革命は中国が主導していることだ。下のグラフは、現在のEV販売シェア、各市場の相対的重要性、変化の広がり方を示している。

図10. 世界の自動車販売に占めるEVの割合 2022年(%)

市場別の変化のS字カーブを見ることもできる。インターネットと同じように、各国はS字カーブを上っている。まず中国、次に欧州、次に米国、そして石油輸入国、最後に石油国家である。もちろん、インターネットと同じように、各国が飛躍的に速く変化することも可能だ。

3.5.2 グローバルサウスもまた、安価な地域エネルギーときれいな空気を求めている

グローバルサウスにとってのEVの利点は、石油需要の減少、大気汚染の減少、安価な輸送手段などである[67]

  • グローバルサウスに住む人々の約80%は石油輸入国に住んでいる[68]
  • 年間670万人が大気汚染に起因する公害で死亡しているが、その約90%は南半球に住んでいる[69]
  • グローバルサウスには化石燃料インフラが少ないため、新しいEVインフラを構築することで、化石燃料時代の座礁資産を回避することができる

エネルギー転換における世界的分断は、南半球と北半球の間ではなく、石油国家とそれ以外の世界の間にあり、現状を支えようとする人々と、より良い世界を望む人々の間にある。

蓄電池のコストが下がり、EVの価格がICEと同等になれば、他の地域で見られるのと同じように、EVがS字カーブを描いてグローバルサウスの大部分を駆け上がっていくということだ。グローバルサウスの大部分では、二輪車が優先的な交通手段となっているため、まずそこでこのストーリーが展開されると予想される。2つの例が、現在進行中の変化を示している。

  • ベトナムの二輪車EV販売は、世界のEV販売と非常によく似た軌道を描いており[70]、2022年の市場シェアは14%であった[71]
  • インドにおける三輪EVの販売シェアはすでに50%を超えており、Shoonyaキャンペーンのようなプログラムは[72]、ライドヘイリングや配達といった主要分野での採用を加速させている

3.6 フィードバックループ

変化を加速させる自己強化的なフィードバックループがいくつかある。

  • 自動車プラットフォームを維持するための高いコスト:自動車会社はますます、唯一の製造プラットフォームとしてEVに移行せざるを得なくなっている。それは、ICEが最終的には馬車のようなニッチ製品にしかならないことを意味する。そしてその結果、コストが上昇し、需要が減少する。
  • 成長を追え:ICEの需要は明らかに減少している。EVは指数関数的に成長している。企業は資本と人材を成長に振り向け、衰退を避けようとする傾向がある。例えば、BNEFは、2030年までのEV市場には90億ドルのビジネスチャンスがあると計算している。
  • ICEの大量在庫過剰:EVはすでにICEよりランニングコストが安く、10年後までには購入コストも安くなる[73]。私たちのモデリングによれば、10年後までにはEVが新車販売の大半を占めるようになるだろう。中古車購入者もEVを購入したいと考えるだろうが、在庫のほとんどはICEである。ICEの売り手が買い手より多ければ、ICE車の中古車価値は急落する可能性が高い。このことは、ICE価格にとって自己強化的な破滅のループを生み出す。同時にこれは、特に発展途上国にとってはリスクでもある。低所得者層が手にする可能性のある捨て値で自動車が市場に出回り、今後何年にもわたって石油の引き取りを固定化することになるからだ。つまり、このフィードバックループは、政府がより貧しいコミュニティへのICEの「リーケージ」を回避し、代わりにEVの導入を奨励することができれば、より強化されることになる。
  • トップ争い:中国はEVの生産と販売を支配している。プーチンのウクライナ侵攻は、西側諸国の政策立案者たちに、ひとつの外部供給国に依存することのリスクに目を覚まさせ、新しいエネルギーテクノロジーでリーダーシップをとることの利点を認識するよう促した。その結果、IRAは米国のEVサプライチェーンに数百億ドルを供給するようになった。また、欧州の化石燃料への依存度を下げ、欧州の蓄電池製造能力を高めようとするREPowerEU政策も同様である[74]。競争が始まっており、これがEV分野でのテクノロジーイノベーションをさらに促進する可能性が高い。
  • 成功は成功を生む:より多くの人々がEVを目にし、使用すればするほど、EVを購入する意欲が高まる。これはおそらく、国を横断して見られる普及率のS字カーブが驚くほど似ていることの説明にもなるだろう。
  • EVからICEへの航続距離不安:EVが成長し、ICEが衰退するにつれて、EVの航続距離への不安はICEの継続性への不安に取って代わられるだろう。例えば、英国には家庭や職場の充電器が40万基、公共のEV充電ポイントが4万8,000カ所あり、1年前と比べて40%増加している[75]。しかし、ICEシステムは衰退の一途をたどっており、ガソリンスタンドは8,400カ所しかない。衰退が進むにつれ、消費者はICEのブランドや企業が生き残れるかどうか、スペアパーツが手に入るかどうかも疑問視するようになるだろう。

4. 継続性の意味

このセクションでは、急速な変化の継続性が意味するものについて考察する。S字カーブを用いて、速い変化とより速い変化の2つの未来をモデル化する。まず、自動車販売台数に占めるEVの割合に注目し、次にICE、石油需要、その他の輸送分野に対するより広範な影響に目を向ける。付録では、EV販売の将来をモデル化するさまざまな方法について説明する。もちろん、この枠組みは確実なものではなく、付録で詳述しているように、克服すべき課題も多い。とはいえ、主要市場ですでに起きていること、そして他のテクノロジーシフトがどのように機能してきたかにもとづけば、もっとも可能性の高い道筋であることは間違いない。

4.1 EVにとっての意味

4.1.1 EV市場シェア

S字カーブの継続性の意味するところは、2030年までにEVの市場シェアが62~86%になるということである。これは幅が広いように見えるかもしれないが、現在、S字カーブの比較的初期にあることを考えれば妥当な範囲である。また、現在のコンセンサスとして現れている、販売台数の約40%というフレーミングよりもかなり高い。

図11. EV市場シェア(%)

4.1.2 EVの地域別市場シェア

地域を比較するため、図11の下限で示している高速S字カーブを見てみよう(付録で詳述)。中国は2030年までにEVが自動車販売の90%以上の市場シェアを獲得し、EUは80%に近づくと見られる。米国は50%を少し下回るだろう。つまり、商業的または政治的リーダーであるこれら3地域が目標とするEVの市場シェアは、きわめて達成可能であるということである。

図12. 主要市場における推定EV市場シェア:高速(%)

4.1.3 EV販売台数と保有台数

BNEFのEV Outlookのフレームにそって、2030年の自動車販売台数を3%増の9,500万台と仮定すると、2030年のEV販売台数は6,000万台から8,400万台となる。これは、2030年のEV販売台数が2023年のICE販売台数とほぼ同じになることを意味する。

そして、EVのストックは3億1,800万から4億1,600万に増加する。

図13. EV販売台数と保有台数

4.2 ICEへの影響

ICEへの影響は、EV市場のシェア拡大から導かれるところが大きいが[76]、廃車の予想水準にかかわる重要な変数となる。ICEの在庫がピークに達し、ICE時代の終焉がはじまる可能性が高い。

4.2.1 売上高

もちろん、EVの台頭によってICEの市場シェアは低下する。2030年には自動車販売台数の14%~38%のレベルにまで下がるだろう。

ICEの販売台数は2017年にピークを迎え、それ以降年率5%で減少しており、10年後までには年間1,400万〜3,800万台まで急速に減少する可能性が高い。

図14. ICEの販売台数と市場シェア

4.2.2 ICE自動車保有台数

ICE車の保有台数に関しては、さらに考慮すべき変数がある。自動車は平均して約15年使用されるが(車両の平均使用年数である12年よりも長い)、平均廃車台数は明らかに今日の販売台数に左右されない。

過去10年間、ICE車の廃車台数は毎年4,000万〜5,000万台だった。しかし、BNEFは、2030年までにICE車の廃車率は年間6,000万〜7,000万台に増加すると予測しており、これは15年前の販売台数の増加に匹敵する。

また、政府はICE車を道路から排除したがるだろうし、消費者はEVが安くなれば、より優れたEVに迅速にアップグレードしたいと考えるだろうから、廃車率がこれよりもさらに高い水準まで上昇する可能性もある。そのため、廃車率が年率でさらに1%ポイント上昇する(BNEF + 1%)場合の影響も以下で検証する。

ICE車のストックは、総販売台数と既存車の廃車台数の関数である。例えば、2022年のICE車の販売台数は6,400万台、廃車台数は4,200万台であった。つまり、純増数は2,200万台となる。下のグラフが示すように、これらの変数の2つの範囲はごく短期間で交差する。この先10年間の半ばまでには、廃車台数は新車販売台数を上回るだろう。

図15. ICEの販売・廃車台数およびICE総保有台数

これらが示唆することはきわめて明確である。ICE車の保有台数はピークに達しようとしている。そして、この先10年間で、ICE車の保有台数は年間4,000万〜7,000万台、つまり3〜7%の割合で減少しているだろう。

4.3 石油需要への影響

自動車は世界の石油需要の約4分の1を占め、2010~19年の石油需要増加の3分の1以上を占めていた。車両効率[77]は毎年2%程度増加しており、自動車による石油需要増加の原動力は、車両効率の向上よりも車両規模の拡大であった。

変化の主な要因は2つある。長年にわたる効率化の推進力に、EVの台頭が加わっている。

エイモリー・ロビンスが40年以上前に指摘したように[78] 、効率向上は長い間、自動車部門の石油需要の伸びを抑える主な要因であった。政府の目標、エンジンの改良、自動車の優れた設計、公共交通機関の利用可能性、その他多くの要因が組み合わさって、毎年、車両の効率向上率は2%前後となっている。こうした要因は今後も続くと予想され、EV競争や政策強化による圧力が加わる結果、さらに高まる可能性さえある。とはいえ、年率2%の車両効率向上が続くと想定している。

新たな原動力はもちろんEVの台頭であり、ICE車の保有台数が減少しはじめることを意味する。

この2つの要因を組み合わせると、自動車向け石油需要は効率向上とEVの成長の狭間に立たされることになる。

図16. 自動車、電気自動車、EV向けの石油需要(100万バレル/日)

そのため、石油需要は、数年間は台地を跳ね、2030年までには明らかに減少に転じるだろう。つまり、2030年の自動車による石油需要は年間5~9%減少することになる。つまり、毎年1~1.5億バレル/日の石油需要が減少することになる。

2040年代には、この枠組みにおける自動車部門からの石油需要はゼロになる。

図17. 自動車による石油需要(100万バレル/日)

2030年までには、石油需要の最大部門である自動車部門において、石油需要が末期的な減少にあることは明らかだろう。2030年には、どんなに鈍いアナリストでも、EVの供給量とICE車の耐用年数の明確なS字カーブをスプレッドシートに落とし込み、石油需要がどれほど早くゼロになるかを計算することができるだろう。

ICE車が大量に生産されなくなれば、石油に対する自動車需要は、ICE車の最後の世代の寿命期間で最小となる。ほとんどの自動車は15年程度で寿命が尽きるが、それ以上もつ自動車があったとしても、需要への影響は明らかである。

そして、石油需要の最大部門の需要が減少する見通しが立てば、市場は石油分野への成長資金の流入を制限する可能性が高い。

4.4 その他の輸送分野

道路交通の電化は、重量に大きく左右されるものの、明確な道筋をたどっている。

電動化は、二輪車から自動車、小型トラック、大型トラックへと進んでいる。道路輸送の中では、自動車が最大の部門であり、道路輸送需要の半分以上を占めている。商用車は40%弱、二輪車/三輪車は5%である。BNEFはこのプロセスを以下のようにモデル化している(図18)。

図18. 輸送部門別EV販売シェア(%)

私たちは変化がこれより早く起こることを期待しているが、これは起こっている変化の順序と性質を示す良いフレーミングである。

自動車部門におけるEVの成功は、蓄電池価格を引き下げ、専門知識を高め、自動車メーカーが他の場所でも蓄電池の成功を再現することを後押しする。したがって、中国での蓄電池価格の低下が、東南アジア全域での二輪車EV革命を後押ししている。

RMIのアナリストは、トラック輸送分野はさらに早く変化する可能性があると指摘している[79]。自動車の車両転換率が15年であるのに対し、トラックは8年であるため、トラックの100%EV販売が自動車EVより7年遅く達成されたとしても、同時に100%EVに到達する可能性がある。

4.5 変化は電力部門よりも速い

太陽光発電と風力発電は、2010年代後半に発電価格が化石燃料と同等になった。自動車分野ではこれよりも遅れて価格の転換点が起こったが、EVの販売台数は発電所導入の約3倍の速さで伸びているため、電力分野よりもはるかに速く変化が起こる可能性が高い。

図19では、私たちの最近のレポート「X-Change電力」[80]で示された、全電力に占める太陽光発電と風力発電の割合と、全車両に占めるEVの割合を比較している。ここでは、高速と超高速の枠組みを使用して、2つの範囲を作成し、将来を予測している。

図19. 太陽光発電・風力発電のシェアとEVのシェア(%)

これらが意味するところは、2030年代には、自動車に占めるEVの割合が、発電に占める太陽光や風力の割合を追い越すということだ。したがって、電力分野ですでに起きているディスラプションは、自動車分野でより早く起こるだろう。その一方で、自動車部門は電力系統の柔軟性を高め、太陽光発電や風力発電の普及率を高めることができる。

5. EV販売のモデル化方法(付録1)

EV需要の将来をモデル化するさまざまな方法を検討し、S字カーブにもとづくEV販売比率の範囲を結論として示す。これは、2030年までにEVが販売台数の62〜86%を占めることを意味している。この範囲は、現在提出されている多くの予測の上限よりも高いが、EV販売の将来を考える上でもっとも合理的な出発点であると主張する。

5.1.1 どのような選択肢があるのか

X-Change 電力 [81] では、ストックである総電力需要にもとづいて太陽光と風力の供給をモデル化した。しかし、EVの販売については、EVのストックがまだ少なく、変化の過程も早いため、これはあまりうまく機能しない。しかも、EVには最大100%という終着点があるため、販売シェアにもとづいてモデル化できるという固有の利点がある。そこで、フローであるEVの販売台数をモデル化する。

EV販売の将来をモデル化するには、専門家の予測、指数関数的成長、主要市場の経験、S字カーブの4つの方法がある。

  • 専門家の予測は実績が乏しく、近年は定期的にアップデートされている。さらに、2030年の市場シェアについても、OPECの予測では売上高のわずか11%から[82]、Rystadの予測では55%と非常に幅がある[83]
  • 単純な指数関数的成長予測は、成長率が非常に高いため使いにくい。例えば、過去10年間のEV販売台数の年平均成長率はほぼ60%である。しかし、60%の成長率では、EVが全販売台数を占めるまであと5年しかない。そのため、時間の経過とともに成長率を低く想定する必要が出てくる。
  • EVを導入した市場の販売曲線から、リーダーズカーブを作成することができる。この曲線は、2030年までに販売台数の86%がEVになることを示唆している。
  • EVのような急成長技術を扱うには、S字カーブが最適であることは明らかだ。S字カーブには、標準的なロジスティクス曲線、初期段階の市場でもっとも効果的なゴンペルツS字曲線、そしてより複雑なリチャーズ曲線の3種類がある。私たちは、ゴンペルツ曲線(高速)とロジスティクス曲線(超高速)の間に、信頼できる範囲があることを主張する。
5.1.2 どのように比較するか

一見したところ、選択肢にはかなり幅がある(図20)。

図20. 2030年の販売台数に占めるEVの割合(%)

しかし、私たちが選好する3つの選択肢を取ると、その幅はもっと狭くなる。また、ロジスティクスのS字カーブ(S字カーブを速くしたもの)は、リーダーの経験、つまりリーダーカーブに非常に近い。そのため、単純化のために2つのS字曲線の間に範囲を設定した。

5.2 専門家の予測

専門家による予測の3つのタイプを示し、過去5年間、専門家は現実に照らして予測をアップデートする必要に迫られてきたことを指摘する。結論は以下の通りである。

  • 専門家による予測のなかには、石油業界と彼らに雇われたコンサルタントが、ゆっくりとした変化を望んでいるだけのものもある。
  • 他のテクノロジー変遷にそったS字カーブの指数関数モデリングは、今のところ、もっとも複雑な専門家モデルよりも優れた予測ツールである。
  • 専門家による予測は、短期的には優れているが(例えば、コロラド州における次の四半期のEV販売台数)、世界レベルでEVセクターの長期的な将来を予測しようとすると、あまり効果的ではない。
  • 過去6年間、IEAは2030年のEV販売シェア予測を毎年5%ポイントずつ引き上げており、BNEFは同等の予測を毎年3%ポイントずつ引き上げている。もしこのまま毎年上方修正されれば、2030年にはEVの販売シェアが65~70%になると予測される。
  • 多くのコメンテーターは、過去10年間の議論をいまだに蒸し返している。航続距離への不安、コスト、EVの二酸化炭素排出量が多いとされること、重量などに焦点を当てている。しかし、これらの問題のほとんどには解決策があり、オーケ・ホークストラのようなアナリストが専門的に説明している[84]
5.2.1 どのような選択肢があるのか

比較のために、私たちは規範的なモデルには注目していない。規範的なモデルは、何が起こりうるかに関係なく、ネットゼロを達成しようとするものである。これらは非常に有益ではあるが、私たちが何をするかではなく、何をすべきかを説いているため、否定される危険性がある。専門家の予測は、主に3つのグループに分けられる。

石油業界の見解:化石燃料セクターの緩慢な変化に対する願望を、エクセルのスプレッドシートでかたちにしたものだ。このような予測は大方否定することができるし、また否定すべきなのだが、多くの人々があまりにも信用しすぎている。EV販売に関する石油部門の予測には懐疑的であるのが妥当である[85]

エスタブリッシュメントの見解:IEAやEIAなどの既存組織が見解を提出している。彼らの予測は、石油生産者と石油利用者の意見をまとめようとする組織特有の保守主義によって、足を引っ張られる可能性がある。

外部専門家の見解:BNEFや投資銀行などの外部専門家が見解を提出している。これらは優れたものであるが、以下に示すように、事実に照らしてアップデートを余儀なくされている。

以下に、さまざまな機関による2030年のEV販売シェア予測を示す(図21)。OPECの11%からRystadの55%まで幅広い。

図21. 2030年のEV販売シェア予測(%)

5.2.2 石油業界の見解

石油会社の中には、EVに対する理論的な熱意を公言しながらも、残念なことに成長の足かせとなる懸念事項を長々と並べるところもある。彼らは、鉱物の入手可能性、価格、グローバルサウス、充電インフラなどを心配している。そして、心配することで、EVはそれほど急成長しないと自分たちを説得している。というのも、彼らのビジネスモデルは、EVの成長を可能な限り抑えることができるかどうかにかかっているからだ。

石油部門の高給取りの顧客と深く結びついている組織もある。こうした密接な関係が、変化について客観的に考える能力をこれらの組織が損なっているかどうかを判断するのは、読者に委ねたい。

5.2.3 エスタブリッシュメントの見解

古典的なエスタブリッシュメントの見解はIEAのものである。2021年までは、IEAの見解は石油業界の見解に近かったが、それ以降は、クリーンテクノロジーの展開が指数関数的に変化していることを踏まえて、大きく変化している。IEAの公表政策シナリオ(STEPS)を基準にすると、IEAは2030年のEV販売比率の予測を、2019年の15%から2023年の35%まで、毎年平均5ポイントずつ一貫してアップデートしている(図22)。さらに7年間同じペースでアップデートを続ければ、2030年のEV市場シェアは70%になると予測している。

図22. 自動車販売台数に占めるEVの割合に関するIEAの予測(%)

一方、米国EIAは非常に保守的な見通しを維持しており、2030年には米国での販売台数のわずか15%、2050年には18%がEVになると予想している[98]

5.2.4 外部専門家の見解

EVセクターの将来についてもっとも著名なアナリストはBNEFだろう。そして、BNEFの予測も年々上昇している(図23[100]

図23. BNEFによる世界と中国のEV販売シェア予測

2030年の世界販売予想に占めるEVの割合は、7年間で24%から44%へと、年間3ポイントずつ上昇している。これがさらに7年続ければ、BNEFは2030年のEV販売台数を65%と予測することになる。

一方、中国の予想販売台数に占めるEVの割合は、2017年予測の28%から2023年予測では67%に増加しており、年間6%ポイント増加している。

この指摘は、優れたBNEFを批判するためではなく、ボトムアップの詳細なアプローチではEV販売の将来予測に良い実績がないことを示すためである。

5.2.5 現在のモデリング構造に内在する問題点

これらのモデルの多くには、いくつかの固有の問題がある。その結果、その多くは将来の解決策を考慮することなく、単に今日の課題を将来に向けてモデル化している。それらには次のようなものがある。

  • 過剰に複雑になってしまう。少ない方が良いこともある。
  • 電池コストの学習曲線が欠如している。
  • 政策行動の想定が限定的となってしまう。政策を詳細に予測できないからといって、変化の軌道が停滞すると仮定すべきではない。
  • EVに対する消費者の態度が固定的であると仮定してしまう。これまで見てきたように、コストが下がるにつれて態度は変化する。
  • 効率性の向上を限定的にとらえてしまう。
  • グローバルサウスでの変化を限定的にとらえてしまう。
  • 障壁を固定的に想定してしまう。後述するように、障壁の存在は解決策を生み出す。アナリストがコバルトの枯渇を予測したとき、蓄電池メーカーはコバルトを使わない電池を開発した。

5.3 指数関数的成長

EV販売台数の成長率は、過去7年間で年平均成長率60%近くを記録しているが、その変動は非常に大きい。30%をはるかに超える成長率であれば、2030年までにすべての自動車販売台数を占めることになるため、成長率の低下を想定する必要がある。これは複雑なので、単純にS字カーブを使う方が簡単だろう(図24)。

図24. 異なる年平均成長率におけるEVの販売シェア

5.4 先行市場の経験

主要市場の経験を見てみよう。これまでのところ、これらの市場は驚くほど類似した成長曲線を描いており、これによってEV市場シェアの標準曲線を導き出すことができる。

5.4.1 自動車販売に占めるEVの割合

ノルウェーはS字カーブを上った最初の市場であり、北欧や中国の多くの市場がそれに続いた(図25)。

図25. 主要市場におけるEVの販売シェア(%)

5.4.2 共通の出発点で正規化した販売台数に占めるEVの割合

これらの曲線を、中心点の14%(2022年のEV世界市場シェア)を中心に正規化すると、類似性がさらに明確になる。次に、先行市場の経験を、先行国カーブ(リーダーズカーブ)に変換することができる。偶然にも、このリーダーズカーブは、2022年の市場シェア14%までのグローバルデータのみを用いて作成したロジスティクス曲線と非常によく似ている。

図26. 中心点付近でのEV販売シェアと推定リーダーズカーブ

5.4.3 先駆者たちのカーブをグローバルスタンダードとみなしてよいか?

問題は、このリーダーズカーブを世界標準とみなしてよいのか、ということだ。賛否両論があるが、バランス的には、この曲線は世界的なストーリーのハイエンド予測として見るのが最善であると結論づける。先駆者の経験は確かに政策と補助金によって左右されたが、この10年の間に、ほとんどの市場でEVの方がICEよりも安くなる可能性が高い。EV販売に補助金を出す能力がない国でも、成功した政策ツールを導入し、EVセクターを拡大することは可能である。

先駆者の経験を活かせない理由

  • 先駆者の多くは裕福で、変革に取り組んでいる。彼らはEVに補助金を出している。それが彼らを普通ではない存在にしている。
  • 先駆者以外の国や地域は、EVに積極的に反対している。

先駆者の経験を活かす理由

  • これまでは政策が原動力だったが、今ではますます経済性が駆動するようになっている。価格パリティが実現すれば、補助金は必要なくなる。
  • 移行をリードしてきたのは中国と欧州である。両者を合わせると、世界の自動車市場のほぼ半分を占めている。
  • ほとんどの国は化石燃料の輸入国である。そのため、EVの導入を望む理由がある。産油国に住む世界の10%は、変化を妨げるには小さすぎる。
  • EVを買いたくない人はどこにでもいる。かつて鉄道や電気、インターネットを利用しようとしない人々がいた。それでも変化は起きた。例えば、アメリカは世界の自動車販売台数の17%を占めており、3分の1がEVの購入に反対したとしても、それは世界の自動車販売台数の6%にも満たない。
  • 先駆者たちは、変化を阻むさまざまな障壁をどのように解決できるかを示した。
  • ロジャーのイノベーションの普及曲線が示すように、テクノロジーが採用される方法には固有の論理がある。先駆者たちを研究すれば、このことが明らかになる。

5.5 S字カーブ

私たちは、選択肢を検討し、先行市場であるノルウェーに関する予測力を検討した結果、ゴンペルツのS字カーブはローエンドのレンジ(高速)として有用であり、ロジスティクスのS字カーブはトップエンドのレンジ(超高速)として賢明であると結論づけた。異なるタイプのS字カーブについて議論することに気を取られ過ぎないことが重要である。異なる結論を導く一方で、それらはすべて、コンセンサスとはまったく異なる将来への展望を意味している。

5.5.1 どのような選択肢があるのか

他の多くの新しいテクノロジーがそうであるように、EVの成長もある種のS字カーブを描く可能性が高い。将来予測によく使われる典型的なS字カーブは3つある(図27)。

  • ロジスティクス曲線:オックスフォード大学のドイン・ファーマーによれば、急成長するテクノロジーにもっとも適したS字カーブのタイプ。
  • ゴンペルツ曲線:初期段階でよりゆっくり成長するように調整されており、変化の初期段階でより有用である変更されたS字カーブ。
  • リチャーズ曲線:過去のデータを使って傾きを決定し、その間の経路を考え出すS字カーブ。これは魅力的ではあるが、しばしばデータのオーバーフィッティングとして非難される。

図27. EVの売上シェアに対するS字カーブのオプション

5.5.2 ノルウェーの成長予測におけるS字カーブの有効性

S字カーブモデルは、過去のデータと終点を採用し、過去を利用して将来の中間点と成長率を推定する。成長の初期段階では、S字カーブはアグレッシブすぎることがあり、数値の小さな変化が大きな影響を与えることがある。データポイントが増えるにつれて、S字カーブの予測能力は高まる(図28)。

図28. ノルウェーにおけるEV販売シェアの予測と実績(%)

ノルウェーの経験を見ると、初期段階でのS字カーブは積極的過ぎ、ゴンペルツ曲線の方が高い予測力を示した。より高い普及率レベル(この場合29%)になる頃には、ロジスティクスのS字カーブの予測力が高かった。

5.5.3 携帯電話

携帯電話の世界的成長についてゴンペルツ曲線とロジスティック曲線をバックテストしてみると、実際の普及は両者の中間にあることがわかる(図29)。ロジスティック曲線は高く予測し過ぎ、ゴンペルツ曲線は低く予測し過ぎている。

図29. 世界の携帯電話普及率の予測と実績(人口100人当たりの契約数)

5.5.4 グローバル目標に対するS字カーブの比較

IEAのネットゼロ排出目標は、2050年までにパリ協定に準拠したネットゼロを達成するために、2030年までに世界の自動車販売台数の60%をEVにすることを求めている[101]

BNEFのネットゼロ・シナリオでは、2030年までに世界の自動車販売台数の70%をEVが占めることを想定している。

クライメートアクショントラッカー(CAT)は、1.5℃目標を達成するために、EV(特にBEV)を販売台数の75~90%にすることを要求している[102]

5.5.5 主体性

S字カーブが未来にとってもっとも可能性の高いかたちであるという事実は、そこに到達するためには絶え間ない努力が必要であるという事実から目をそらしてはならないことを意味する。ムーアの法則はコンピューター産業の枠組みをつくり、すべてのプレーヤーがその実現のために努力した。これと同じように、S字カーブをもっとも可能性の高い未来とするならば、それは企業や政治家にとっての目標となる。未来が忍び寄り、私たちを驚かせるのではなく、私たちは未来に向けて計画を立てることができるのだ。

6. EV成長の課題:潮の流れを止められるのか?(付録2)

EV販売の急成長には多くの課題がある。しかし、解決策もまた数多く存在し、機会、技術、政策の圧力が日々解決策に拍車をかけている。

優れた未来へのS字カーブの道筋は明確に定義されており、その道筋をたどり続けることは私たちの手の届くところにある。私たちは挑戦の枠組みを定め、楽観的な見方をする大まかな根拠を示し、次に主要な課題のいくつかを詳しく見ていく。

6.1 変化は困難である

以下に述べるように、変化は難しいものだ。

  • 課題は多い:鉱物資源の利用可能性から航続距離への不安、充電インフラから高いコスト、消費者の敵意から政治的な妨害まで、その範囲は多岐にわたる。
  • どこも違う:中国で機能するソリューションがインドで機能するとは限らない。ドイツで有効なソリューションがケニアで有効とは限らない。電気の利用可能性、文化的嗜好、税制など、地域の違いがすべて影響する。
  • 答えは複雑だ:このレポートのような戦略ノートは、変化について考えるための枠組みを提供し、これらの問題をより詳細に検討した論文へのリンクを提供することしかできない。
  • 間違いもあるだろう:しかし、それが必ずしも変革のプロセス全体にメリットがないことを意味するわけではない。繰り返しになるが、これはテクノロジーの歴史ではよくあることで、最近の例ではディーゼル車やBECCSがそうである。さらに、テクノロジーの変遷においては常にそうであるように、解決策を見出し、成功へと突き進む少数の企業に比べ、多くの企業は失敗するだろう。
  • 変わらない場所や人もいる:これはまったく普通のことで、今日でも40%の人々がインターネットを利用していない。つまり、遅れをとっている企業にとっての問題は、当面EVを受け入れるかどうかではなく、世界的なレベルで変化を阻止できるほど数が多いかどうかである。
  • 一部の既存勢力は常に変化を阻止しようとする:1850年以降、運河の所有者は鉄道を阻止しようとした。1900年以降、ガス会社は電力系統の整備を阻止しようとした。そして時には成功することもある。問題は、彼らが世界的かつ永続的に変化を阻止できるかどうかである。

6.2 楽観視する根拠

詳細に踏み込む前に、希望を抱くことができる強力な根拠があることを指摘しておく。

6.2.1 先駆者の経験

エネルギー転換における多くの課題と同様、課題は理論的なものだが、解決策は経験的なものである。多くの課題があるにもかかわらず、先駆者たちは解決策を見出し、EVの普及は明確に定義されたS字カーブを描いて伸びている。世界全体では14%、米国では8%であるのに対し、北欧ではすでにEVが販売台数の50%を超え、中国では3分の1を占めている。集合住宅入居者へのサービス提供方法、既存事業者の抵抗への対処方法、充電インフラの導入方法など、多くの重要な課題に対する解決策があることは明らかだ。

6.2.2 他のテクノロジーシフトの経験

他のテクノロジーシフトは、先行者と後続者のパターンがきわめて一般的であることを示している。そして、テクノロジーは恒常的に障壁を解決しなければならない。例えば、ムーアの法則は絶え間ないテクノロジーイノベーションを必要とした。インターネットの普及は、当初は技術的にも経済的にも大きな障壁に直面し、米国のような先行国では他の地域よりも急速に進んだ。課題の存在や、既存企業による変化への抵抗に驚くべきではない。変化は決して容易ではない。

6.2.3 変化には時間がかかる

楽観的な見方をするもうひとつの理由は、たとえ急速な変化であっても、変化には時間がかかるということだ。ノルウェーは5%のEV販売から90%のEV販売に移行するのに10年を要したが、現在でもEVは保有車両の3分の1以下である。EVが保有車両の80%を占めるようになるまでには、さらに10年かそこらかかるだろうし、ICE車に乗り続けたいと考えている残り20%ほどの人々をどうするかという問題に直面しなければならない。

変化に関する懸念の多くは、問題の最後の部分、つまり終盤の解決についてである。しかし実際には、私たちは最終局面からはほど遠く、そこに到達するころには、もっと多くの技術的・経済的解決策があり、石油ロビーの政治的影響力はかなり弱まっているだろう。

課題について考えるとき、今日の解決策で明日の問題を解決しようとしてはならない[103]。当面の間、EVをS字カーブに乗せ続けるのに十分な解決策があることは明らかであり、それに集中する必要がある。私たちがこれらの問題を解決すればするほど、学習曲線上のコストが下がり、新たな解決策が実現する。つまり、明日の問題には明日の解決策で立ち向かうということだ。

6.2.4 テクノロジーは進歩する

テクノロジーは時間とともに進歩する。蓄電池はより安く、より効率的になる。人工知能とデジタル化は、輸送手段を電力系統に統合する見通しを示している。先駆者たちが開発したテクノロジーソリューションは他国でも採用される。

移行にかかる主なコストは学習曲線にある。したがって、経済的障壁の多くは越えられると考えるのが妥当である。

6.2.5 課題はチャンスでもある

言うまでもないことだが、ある人にとっての課題は、それを解決することで一攫千金を狙う人にとってのチャンスでもある。そして、世界中で起業家や企業がそのために努力している。イーロン・マスクは、高品質のEVを大規模に生産するという問題を解決して、世界でもっとも裕福な人物のひとりとなった。CATLとBYDは、蓄電池とEVの専門知識を背景に、支配的な地位に上り詰めた。

既存企業はこのようなことはできないと考え、起業家がチャンスをつかむことになった。クリステンセンの『イノベーターのジレンマ』が指摘するように、既存企業は現在、追いつこうと奮闘しているが、市場シェアの損失は永久的なものであり、その多くは移行期を乗り切れないだろう。

6.2.6 課題の多くはすでに解決している

10年前の課題リストでは、短期間に多くの大陸に何十もの蓄電池工場を建設することは明らかに不可能だった。テスラが最初のギガファクトリーを開設したのは2016年のことだ。それからわずか7年後の今日、400を超えるギガファクトリーが建設中である[104] 。2030年までに、電動化された輸送の世界を構築するために必要な能力の大部分が稼働を開始するだろう。

10年前、蓄電池の価格は1kWhあたり1,000ドルを超え、価格パリティは不可能に思えた。今日、EVとICEの価格パリティは中国で達成され、この10年間で世界的に普及するだろう。

6.2.7 変化は時間とともに容易になる

変化の難易度をもっとも的確に示す指標は、間違いなく成長率である。成長率が高いということは、非常に速いスピードで規模を拡大する必要があるということだ。過去10年間、EV業界では年率最大100%という実に驚異的な成長率が見られた。しかし、EVの市場シェアが20%近くになった今、成長率が鈍化するのは避けられない。その意味するところは、変化が容易になるということだ。

6.2.8 ボトルネックは閉塞とは違う

多くの人は、ボトルネックを決して変わらないかのように指摘する。しかし、ボトルネックの存在そのものが、資本やイノベーションを惹きつけ、それが変化する可能性をはるかに高めているのである。つまり、マッキンゼーやエネルギー転換委員会(ETC)が課題を明らかにすることで、それらの問題そのものが変革の障壁になる可能性ははるかに低くなるのだ。時間が経てば解決する問題と、解決できない問題を区別することは重要である。どの課題も恒久的かつ普遍的に解決不可能なものではないというのが私たちの主張である。

6.2.9 変化に対する抵抗勢力は少数であり、縮小している

抵抗勢力は騒々しく、変化を阻止するために多くの資金を投入しているが、現状の受益者は少数である。ノルウェーが示しているように、すべての人々が変化に抵抗しているわけではない。石油産業に従事する人は1%にも満たない。EYのデータによると、EVを買いたくない人の数は年々減少している[105]

しかも、資本とチャンスはEVに流れている。やがてそれは、独自の支持基盤を生み出すだろう。支配的な政党がEVを好まない場所であっても、蓄電池工場の台頭は、EVを使用できることに好意的な政治的有権者を生み出すだろう。

このようなグループは、変化の海に浮かぶ抵抗の島と見るのが妥当だろう。そして、EVの潮が高くなるにつれて、いくつかの島は入れ替わり、いくつかの島は波の下に消えていくだろう。そしていくつかの島は、その島で孤立し、高く、乾いた、無関係な場所に留まるだろう。

6.3 2023年における主要課題

2023年に直面するいくつかの課題と、考えられる解決策を以下に列挙する。これは、RMIやETCなどが日々詳細に取り組んでいる、非常に複雑な問題の要約に過ぎない。

私たちは、鉱物の利用可能性、充電インフラ、ユーティリティインフラ、蓄電池の循環性が2030年における主要な課題であると考える。

6.3.1 鉱物は足りるか?

多くの人は、エネルギー転換のための機械をつくるだけの鉱物がないと主張する。ETC [106]、 IEA [107]、IRENA [108]、Joule [109]が示しているように、鉱物資源は豊富にある(図30)。

図30. 世界の主要鉱物の資源量

6.3.2 十分なスピードで鉱物を採掘できるか?

特定の時期、例えば2030年の需要を満たすのに十分な速さで鉱物を採掘することができなくなるということが議論される。議論の中心は、リチウム、コバルト、ニッケル、黒鉛、銅の2030年における需要と供給のギャップである。

このまま何も変わらなければ、2030年には十分な鉱物生産量が確保できなくなるのは事実だ。しかし、変化は起きており、そのギャップを埋めることができる可能性は高い。蓄電池に関する広範な解決策は、RMIのエイモリー・ロビンスが2022年に発表したノートに示されており[111]、2023年にはETCがその詳細を検討した[112]。概要は以下の通りである。

  • 蓄電池のエネルギー密度を高める
  • 蓄電池をリサイクルする
  • 蓄電池を長持ちさせる
  • 蓄電池の中の希少鉱物をより少なくする新しい化学物質を使う
  • 自動車の設計効率を向上させる
  • 輸送システムの効率を向上させる

それに加えて、新しい鉱山も必要になるだろう、 そして、現在、多くの鉱山が建設中である。

これらの要因が組み合わさることで、十分な量の鉱物を供給できる可能性が高い。SystemiqがETCのために作成した下の図31は、効率化とリサイクルソリューションを展開することで、ほとんどの鉱物が問題のあるレッドゾーンから脱出していることを示している。

図31. 鉱物の利用可能性

その典型的な例がコバルト需要である。2019年、BNEFはコバルト需要が年間10万トンから2030年までに30万トンに増加し、不足が迫っていると算出した。そのため、コバルトの使用を減らすための新しい化学物質を見つけようとする試みがはじまり、それが見つかると、2030年のコバルト需要予測は15万トンに半減した。

コバルト需要の前には、エイモリー・ロビンズが詳しく調査したレアアースパニックがあった[113]。ここでは、鉱物に関する典型的な周期的ストーリーが見られた。成長によって需要が急増し、価格が上昇し、ブローカーがあわてて価格がいつまでも高止まりすると主張し、代替案が見つかり、より多くの供給が市場に出回り、価格が下がった。

6.3.3 戸建て以外の住宅での充電

課題:低予算のEV市場は、集合住宅に住んでいるような、家庭で充電することができない人々のための充電ソリューションなしでは拡大しない。今こそ、専用駐車スペースや専用ガレージでEVを充電する余裕のない人々のために、コミュニティベースの充電ソリューションを開発し、規模を拡大する時である。これは、衡平性と気候変動にかかわる急務である。

チャンス:インフラ構築のための新たなアプローチを開発する必要がある。これには、「充電する権利」政策、インフラ資金調達のための官民パートナーシップによるアプローチ、電力会社の関与、住宅所有者組合の標準的なプロセスと手続き、共有モビリティのビジネスモデル、インフラ立地のベストプラクティスなどが含まれる。

6.3.4 ユーティリティインフラ投資

課題:小型・中型・大型EVの広範な普及を支えるための電力会社のインフラ投資は、ほとんどの州で実証規模でおこなわれており、野心的なエネルギー・環境目標を達成するには慎重すぎる。米国の規制制度では、電力会社が大規模な系統インフラ投資をおこなうには、「確定需要(firm demand)」と呼ばれる顧客からのサービスアップグレード要請を受けなければならない。しかし、このアプローチは低負荷用の直流急速充電ハブや中型・大型電気トラックの展開には適していない。低圧・中高圧を集約した充電需要を満たすために必要な系統と充電インフラを構築するには何年もかかるため、トラック充電による確定需要を待っていては、公共充電への投資は遅きに失する。

チャンス:公共充電インフラ投資の課題を克服するには、以下の解決策とアプローチを追求しなければならない。

  • 現場特有の課題の大きさ: 公共電力インフラの効率的なアップグレードを計画するため、将来のトラック充電が特定のインフラシステム(回路、変電所など)におよぼす影響を予測する。
  • 電線以外の代替案: 現場の分散型エネルギー電源(DERs)によって可能になる、送配電系統への投資の延期または回避の可能性を評価する。トラック充電を含むDER展開のコストとビジネスモデルを評価する。
  • 規制の有効化: 料金支払者に悪影響を与えることなくインフラのアップグレードを可能にする新たな資金調達手法を開発する。規制当局が、料金支払者を保護しつつ、トラック導入に先立ち送配電インフラを承認できるような規制原則を策定する。
6.3.5 蓄電池の循環性

課題:電動モビリティの需要が高まるにつれ、資源集約的なEVのバリューチェーンも比例して成長する。EVへの移行を支えるために必要な原材料の多くは、環境的に敏感で、経済的に疎外された地域で採取され、そこで加工され、組み立てられる。

チャンス:EV蓄電池のバリューチェーンがもたらす悪影響を排除し、循環型蓄電池経済を促進するために、官民が連携して行動する。(1)バージン一次材料の需要を削減し、(2)バリューチェーンの労働と労働力開発に対する経済的に包括的なアプローチを促進する。

7. X-changeとは?

X-changeは、指数関数的変化(X-changeのX)がエネルギーシステムに与える影響を分析したレポート集である。線形変化というオーソドックスな見方とは対照的である。エネルギーの未来に関する基本シナリオは、2030年までの間、再生可能エネルギーが指数関数的な成長を続けることを想定している。

X-change の原則

  • 指数関数を見出す
  • 起こりうる未来を理解するために、さまざまな方法で指数関数をモデル化する
  • 変化を阻む乗り越えられない壁があるかどうかを見極める
  • 2030年までの期間に焦点を当てる。その時点までにコストと量は大きく変わっているだろう
  • 正確に間違っているよりは、大まかに正しい方がいい

X-change の結論

  • 線形変化というのは、まずあり得ない
  • 高速変化はS字曲線上の継続性である
  • 超高速変化は、さらなる指数関数的な成長である
  • 私たちは、高速あるいは超高速の道すじを歩んでいるが、推進し続けなければならない

参考文献

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  32. It is surprisingly difficult to get detailed country data for oil demand for cars. Hence the use of gasoline as a proxy.

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  103. A classic example of this is the current debate about how to provide the last 20% of electricity demand from renewable sources. Rather than noting that the world only gets around 14% of electricity from solar and wind in 2023 and the most likely solution will be to figure it out as we go along, people need something to put in their spreadsheets. That something is often BECCS, which is highly unlikely to be able to compete for the endgame as it is very expensive, is very energy and space inefficient, and has no learning curve.

  104. Benchmark Source. “The Hidden Gigafactories Powering Emerging Markets,” December 13, 2022. https://source.benchmarkminerals.com/article/the-hidden-gigafactories-powering-emerging-markets.

  105. “EY Research: Nearly Half of US Car Buyers Intend to Purchase an EV.” EY, June 27, 2023. https://www.ey.com/en_us/news/2023/06/ey-research-nearly-half-of-us-car-buyers-intend-to-purchase-an-ev.

  106. “Material and Resource Requirements for the Energy Transition.” Energy Transition Commission, July 2023. https://www.energy-transitions.org/wp-content/uploads/2023/08/ETC-Materials-Report_highres.pdf

  107. “Critical minerals market review 2023.” IEA, July 2023. https://www.iea.org/reports/critical-minerals-market-review-2023

  108. “Geopolitics of the Energy Transition: Critical Materials.” IRENA, July 12, 2023. https://www.irena.org/Publications/2023/Jul/Geopolitics-of-the-Energy-Transition-Critical-Materials.

  109. Wang, Seaver, Zeke Hausfather, Steven Davis, Juzel Lloyd, Erik B. Olson, Lauren Liebermann, Guido D. Núñez-Mujica, and Jameson McBride. “Future Demand for Electricity Generation Materials under Different Climate Mitigation Scenarios.” Joule 7, no. 2 (February 15, 2023): 309–32. doi:10.1016/j.joule.2023.01.001.

  110. “Material and Resource Requirements for the Energy Transition, ” ETC, 2023, URL.

  111. Lovins, Amory. “Six Solutions to Battery Mineral Challenges.” RMI, 2022. https://rmi.org/insight/six-solutions-to-battery-mineral-challenges/.

  112. “Material and resource requirements for the energy transition,” ETC, 2023, URL.

  113. Lovins, Amory. “Clean Energy and Rare Earths: Why Not to Worry.” Bulletin of the Atomic Scientists, May 23, 2017. https://thebulletin.org/2017/05/clean-energy-and-rare-earths-why-not-to-worry/