デンマークの Power-to-X 戦略

デンマーク 気候・エネルギー・公益事業省

本レポートは、2021年12月にデンマーク政府が発表したPower-to-X戦略を日本語に翻訳したものです。デンマークにおけるPower-to-Xの取り組みは、2019年に合意された2030年までのGHG排出70%削減の目標(1990年比)以来爆発的な進展を見せ、本戦略で言及されている通り、数多くの大規模プロジェクトが立ち上がりはじめています。

The Govenment’s Strategy for Power-to-X

Danish Ministry of Climate, Energy and Utilities

元レポート 2021年 / 日本語翻訳 2023年

日本語版監修

  • 特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)

日本語版監修協力

  • 駐日デンマーク大使館

Danish Ministry of Climate, Energy and Utilities (2021), The Government’s Strategy for Power-to-X.

本レポートはデンマークの戦略「Regeringens strategi for Power-to-X」の英語版を日本語に翻訳したものです。英語版・日本語版とデンマーク語オリジナル版で相違がある場合は、デンマーク語原文の内容が優先されます。

目次

はじめに

2020年6月22日のエネルギー・産業等に関する気候合意により、デンマーク政府は、Power-to-X(PtX)と二酸化炭素の回収・利用(Carbon Capture and Utilisation – CCU)に関するデンマークの戦略について、国民議会の大多数の政党と合意に達しました。それ以来、開発は驚くべきスピードで進んでいます。PtXプロジェクトはデンマーク全体に公表され、今後も続々と発表される予定です。政府は、多くの協定や提案を通じて、PtXの推進に貢献できる取り組みを開始しています。

PtX技術の採用と利用には、戦略的な計画、目標設定、優先順位付けが必要です。このPtXとCCUの戦略により、デンマーク政府は、デンマークにおけるPtXに必要な枠組み条件を整備するための最初の重要かつ包括的なステップを踏み出すことになりました。これらの枠組み条件は、対象技術がデンマークの気候法の目標に貢献し、その事業的な可能性を実現し、デンマークのエネルギーシステムに統合されることを目指しています。

PtX戦略は、デンマークエネルギー庁の分析およびPtX業界との対話に基づいています。その結果、デンマークにおけるPtX推進のための政府の4つの目標が設定されました。

  1. Power-to-Xが、デンマークの気候法の目的の実現に貢献すること
  2. デンマークの強みを生かし、長期的にPower-to-Xが市場競争できるような制度枠組みやインフラを整備すること
  3. Power-to-Xとデンマークのエネルギーシステムの統合を進展させること
  4. デンマークがPower-to-X製品・技術を輸出できるようになること

これらの目標は表裏一体であり、PtXがデンマークの新しいグリーンなユーティリティ・セクターとなり、デンマークの消費者と世界の人々に利益をもたらすグリーン・ソリューションを提供するためには、4つの側面すべてにおいてアクションが必要です。

デンマーク政府は、電化に関する戦略「電化された社会 ― エレクトリック・デンマークへの道(Electrification of society – the road to an electric Denmark)」で、将来の電化社会に関する明確なビジョンを打ち出しました。この戦略には、化石燃料社会から電化社会への移行段階において重要であると政府が考える8つの具体的な目標が含まれています。この戦略のシナリオは、多くのセクターで電化の可能性を示しており、2030年以降、間接電化のような技術や市場の発展があれば、電化の可能性はさらに大きくなります。

政府は、デンマークが2030年までに4〜6GWの電解能力を構築することを目指すべきであると提案しています。この拡大は、PtX分野におけるデンマークの輸出と商業ポテンシャルの実現を支援しつつ、可能な限り市場原理に基づいて行われる必要があります。この目標は、デンマークの地球規模の気候変動への影響を軽減し、国内および国際的な気候変動目標の達成にも貢献することができます。

さらに、政府は、デンマークにおけるPtXの工業化と規模拡大を支援し、それによって水素製造に関連するコストを削減することを目的として、水素およびその他のPtXの製造の運営支援に関する入札を通じた12億5,000万DKK(デンマーク・クローネ)の投資を提案しています。これにより、PtX分野におけるデンマークのビジネスおよび輸出の可能性とともに、成長と雇用創出を促進することが期待されています。あらゆるPtX関連技術には電解による水素製造が含まれるので、グリーン水素の製造に資金を提供することで、すべてのPtX製造事業者が原則的に入札に参加できる状態を確約できます。この水素は、アンモニア、メタノール、e-ジェット燃料など、他のPtX製品に変換することができます。

さらに、政府はREACT-EUイニシアチブとJust Transition Fundからの資金を通じ、革新的なグリーン技術に3億4400万DKKを充てる予定です。さらに、グリーン研究・技術・イノベーションへの投資に関する政府の戦略「未来のグリーン・ソリューション(Green solutions of the future)」は、基礎研究から事業化まで、戦略的かつ一貫したグリーン研究活動を通じて、画期的なグリーン・ソリューションの開発を加速させることを目的とした4つのミッションを提示しています。そのうちの一つは、グリーン燃料(PtXを含む)に着目し、再生可能エネルギーの電力を排出削減に使用できる製品に変換するソリューションの開発に貢献するものです。運輸・産業部門の一部では、化石エネルギーに代わる費用対効果の高い代替手段がないため、こうした部門での活用が期待されます。この戦略の4つのミッションのために、10億DKK弱が計上されています。

また、デンマーク政府は、国民議会の多数派とともに、デンマークの水素バリューチェーンのプロジェクト(IPCEI)に8億5000万DKKを、EUDPとデンマークエネルギー庁の蓄エネルギー基金を通じてPtXの開発に約4億DKKを割り当て、最後に、地域成長チームからの提言に基づいて、南ユトランドのグリーンエネルギーとセクター連携まわりの先行的商業プロジェクトを含む、デンマーク国内で8つのローカルな先行的商業プロジェクトを確立するために、REACT-EUからの5億DKKを割り当てています。政府が提案した「デンマークはもっとできる I(Danmark kan mere I)」と呼ばれる改革案では、2027年に向けてさらに5億DKKを割り当て、南ユトランドの先行的商業プロジェクトを含むローカルな先行的商業プロジェクトの開発のために総額10億DKKを充当することが想定されています。

また、政府は「デンマークはもっとできる I」として、新たに設立されるデンマーク投資ファンドへの60億DKKの資本注入を提案し、そのうち17億DKKはPtXなどの分野で商業規模の大規模実証プロジェクトを行う企業への資金提供を対象としています。

Power-to-Xとは?

PtX(Power-to-X)は、電気を使って水素を製造する技術を総称したものです。この水素は、その後、陸上輸送や産業用の燃料として直接使用されるか、さらに他の燃料、化学製品、素材に変換されます。

これは非常に先進的な技術に聞こえるかもしれませんが、実はこの技術の背景にある考え方は非常に古いものです。PtXは、私たちが持っている最も軽く、最も単純で、最も一般的な元素をベースにしています。周期表で原子番号1番の元素、水素です。

図1は、再生可能エネルギーから運輸や産業に利用できる燃料の生産までのプロダクションチェーン全体を示したものです。

図1. 再生可能エネルギーは、陸上輸送や産業で使用される燃料などの生産に利用できる。図は、デンマークにおけるPtXの利用方法を示している。(出典:デンマークエネルギー庁)

電気分解では、電気を使って水を水素と酸素に分解

PtXのコア技術は、電気を用いて水を酸素と水素に分解する「電気分解」です。この技術は200年以上前から知られています。再生可能エネルギーで製造された「グリーン」とされる水素は、その後、産業用途や陸上輸送などの燃料として直接利用することができます。現在、デンマークの水素消費量は比較的少なく、化石燃料の生産に使われる製油所にほぼ限定されています。水素は、他のさまざまな燃料や製品を製造するための構成要素として使用することもできます。

現在、ほぼすべての水素製造は、石炭(ブラウン水素)や天然ガス(グレー水素)などの化石燃料をベースにしています。デンマークでは、グリーン水素の製造にのみ注力しています。すでに複数の関係者が、2030年までに大量のグリーン水素と燃料を生産する大規模なPtXプロジェクトの計画を、公表・開始しています。

アンモニアは、水素と空気から得られる窒素から製造可能

水素は窒素と結合してアンモニアにすることができます。窒素は地球の大気中に最も多く存在する元素であり、私たちが呼吸する空気から簡単に得ることができます。このアンモニアは、将来、船舶のディーゼルエンジンの燃料として、あるいは肥料や化学薬品の原料として使うことができます。

水素と炭素の合成で、プラスチックや航空燃料など様々な製品を

水素は、大規模な製造プラントにおいて高温高圧下で炭素と化学反応させ、メタン、メタノール、ガソリン、ディーゼル、航空燃料、プラスチックなど、化石由来の製品と同じ性質を持つ数多くの燃料やその他の製品を作ることができます。このプロセスは、Carbon Capture and Utilisation(CCU)とも呼ばれています。

例えば、ここで用いる炭素は焼却炉やバイオガスプラントから排出される排ガスからCO2として回収することができます。この炭素が生物起源である場合、すなわちバイオマスに由来する場合、国連の計算方法によれば、排出量は森林と土壌の炭素収支(LULUCF)に含まれるため、エネルギー分野ではカーボンニュートラルとみなされます。つまり、バイオマス由来のCO2をPtX燃料の製造に利用すれば、これらの燃料は全体としCO2ニュートラルとみなすことができます。

また、大気から直接CO2を回収する Direct Air Capture(DAC)と呼ばれる方法もあります。長期的にはグリーン転換に貢献することが期待されていますが、その裏にはさらなる技術開発と費用対効果の向上が必要です。生物起源の炭素は限られた資源であるのに対し、大気から取り込んだ炭素は基本的に無限の資源です。

未来のエネルギーシステムにおけるPower-to-X

Power-to-Xは、温室効果ガスの削減に貢献する

PtX技術は、現在、化石資源から生産されている燃料や化学物質を、再生可能なエネルギー源で生産することを可能にするものです。したがって、PtX燃料の利用は、化石燃料や材料の使用を代替する場合(例えば、船舶の石油をeメタノールで代替する場合)、または化学物質の生産が、通常CO2を排出する従来の生産を代替する場合、CO2排出量の削減に貢献することが可能です。例えば、大量のCO2を排出する化石燃料由来の人工肥料用アンモニアの生産を、グリーン・アンモニア生産に置き換える取り組みが挙げられます。

PtX製品をCO2ニュートラルとみなすには、使用する電気(および炭素)もCO2ニュートラルとみなすことが前提条件となります。つまり、CO2は持続可能なバイオマスに由来するか、大気から直接供給されるものでなければならなりません。化石資源からCO2を回収してPtXに利用することもできますが、その場合は、化石資源からの排出かPtXのどちらかはCO2ニュートラルとみなすことができますが、両方はみなされません。つまり、化石燃料を使用する工場からCO2を回収し、そのCO2をPtXに使用した場合、どちらか一方しかCO2ニュートラルと見なすことができないのです。

デンマークの削減目標70%の達成に貢献するためには、PtXの燃料(国内生産または海外からの輸入された燃料)は、デンマークの国家CO2収支に含まれるセクターにおいて、化石燃料の代替物として採用される必要があります。この燃料が輸出されたり、バイオ燃料の代替に使われたりしても、70%目標の達成には影響しませんが、国際海運や航空など、世界の他の場所で化石燃料の代替に貢献する可能性があります。PtXは、コラム 1に示すように、さまざまな形で世界のCO2排出量削減に貢献することができます。デンマークエネルギー庁は、デンマークの国際的な排出量の変化について、「国際レポート(Global Afrapportering)」1Global afrapportering, Danish Energy Agency, 2021と呼ばれる年次報告書を発行しています。

コラム1

Power-to-Xはいかにしてデンマークのグローバルなカーボンフットプリントを減らすか

燃料輸出

デンマークのPtX燃料が海外の化石燃料の代替として使用されれば、世界のCO2排出量削減に貢献することができる。

バリューチェーンにおける排出量

化石燃料がCO2ニュートラルなPtX燃料に置き換わることで、温室効果ガス排出量は減少する。PtXは、第一世代バイオ燃料、精製、輸送などのための土地利用や化石燃料の採掘などに関連するバリューチェーンにおける排出削減にも貢献することができる。後者は、70%目標にはほとんど含まれないが、欧州や世界の気候目標には含まれており、デンマークのグローバルな気候フットプリントの一部を構成している。

国際輸送

国際航空輸送と海運からの排出は、たとえデンマーク国内で船舶や航空機が給油しても、デンマーク国内のCO2収支には算入されない。したがって、これらの分野でのPtX燃料の使用は、デンマークのグローバルなカーボンフットプリント削減や、欧州および世界レベルでの気候目標の貢献するものである。

素材・化学品の自国生産化

現在、デンマークでは工業用水素の消費が少なく、また化学品などの生産も限られている。そのため、PtXを原料とするアンモニア由来の人工肥料などの化学品を生産することで、海外でのアンモニア生産に伴う排出を削減することができる。

電気の最適な使い方は直接電化

デンマークエネルギー庁の分析によると、運輸および産業を化石燃料フリーに移行する場合、バッテリーを搭載した電気自動車などによる直接電化が、原則として再生可能エネルギーから生成された電力を利用する上で最も費用対効果が高く、最適な方法であることが分かっています。例えば、デンマークエネルギー庁では、風力エネルギーの約70%がバッテリー駆動の自動車の推進力に変換されるのに対し、水素駆動の自動車では風力エネルギーの約30%しか推進力に変換されないと計算しています。化石燃料の自動車を電気自動車やバッテリー駆動に置き換える技術はすでに確立され、広く普及しつつあります。PtX燃料の製造はエネルギー集約的であり、これこそが、PtX燃料の使用は、直接電化が不可能な領域や非常に高いコストを伴う領域に優先されるべき理由です。

政府の電化戦略では、長期的には国内輸送の80%以上を直接電化できると見積もっています。これは特に軽貨物自動車による輸送と、短距離を走る乗用車、バン、ローリーなどの大型輸送の大部分に適用されます。

しかし同時に、デンマークエネルギー庁の分析によると、長距離の航空、貨物輸送、重車両による輸送の一部などを電化することは困難であることが分かっています。こうした分野こそ、化石燃料に代わる未来のグリーン燃料として、PtXやバイオ燃料を利用することができます。また、産業分野でも、電化やバイオガスが不可能な場合やコストがかかりすぎる場合に、PtXを使用して持続可能なエネルギー消費に移行することが望ましい場合があります。

例えば、産業用の高温プロセスや、コンバインや大型建設機械など、特にエネルギー集約的な車両がこれに該当します。また、産業プロセスの中には、排出がプロセス内のエネルギー消費からではなく、プロセスそのものから排出される例もあります。例えば、肥料用のアンモニア生産等です。当然ながら、このようなプロセスを電化して排出をなくすことはできません。 しかし、場合によっては、PtXが化石燃料の代替品となる可能性もあります。

生物起源で持続可能な炭素は限られた資源となるかもしれない

航空燃料やメタノールなどの炭素系燃料は、グリーン水素と炭素の変換により製造できます。例えば、炭素はバイオガスプラント、バイオマスを燃料とするCHPプラント、バイオマス廃棄物の焼却から発生するCO2が原料になります。しかし、世界の持続可能なバイオマス資源は限られており、バイオマスも食料や飼料のほか、輸送・建設・エネルギー部門のCO2削減に貢献する他の用途で必要とされているため、生物起源で持続可能な炭素は限られた資源となることが予想されます。

炭素の資源量:2030年には十分、長期的には疑問

生物起源CO2は、CO2ニュートラルな燃料や材料の生産(炭素回収・利用、CCU)に利用できるほか、地中に貯蔵する(炭素回収・貯蔵、CCS)ことも可能です。デンマークの気候法では、CCSのような技術的プロセスによるネガティブ・エミッションは、デンマークの削減目標達成に貢献することができるとされています。

2021年6月、政府はCCS戦略の第1部を提示し、それに基づいて、デンマークにおけるCO2貯留の枠組み条件について政治的合意を締結しました。12月14日、国民議会の広範な多数決により、戦略の第2部について合意に達し、CCUS資金プールの最初の実施のための原則、およびCO2の回収と輸送のための枠組みを確立しました。

2020年のエネルギー・産業等に関する気候合意では、CCUSの資金プールに160億DKKを割り当てることが決定され、2025年までに約40万トン、2030年までに約90万トンのCO2削減が期待されています。さらに、2022年の財政法(Finance Act)では、ネガティブ・エミッションのための資金プールに約25億DKKが割り当てられ、2025年から年間50万トンのCO2が削減されると予測されています。

デンマークにおけるPtXの利用ポテンシャルを完全に実現するには、2030年に約50〜450万トンのCO2、2050年に約150〜650万トンのCO2に相当する気候ニュートラルな炭素を使用することが前提となっています。この試算の幅は、炭素を含まないPtX燃料、すなわち水素やアンモニアなどがどの程度の役割を担い得るかによります。

一方、デンマークエネルギー庁は、図2に示すように、2030年にデンマーク国内で利用できるCO2は約450〜1,000万トンで、そのうち400〜700万トンが生物起源に由来すると推定しています。これには、CHPプラントにおけるバイオガス消費量が、ある程度現状から減少する想定が含まれています。この点については、エネルギーや産業などに関する2020年気候合意などの一環として、より詳細に分析されているところです。

図2. デンマークの廃棄物セクター、産業セクター、CHPプラント、バイオガス改良プラント内の排出源から回収・隔離・利用が可能なCO2排出量の推定値。(出典:デンマークエネルギー庁)

将来的には、脱気したバイオマス、下水汚泥、麦わらなどの熱分解が、PtX部門のさらなる炭素の投入源となり、耕作用のバイオ炭や燃料生産用の炭素系ガスや油という形でネガティブ・エミッションをもたらす可能性があります。

デンマークエネルギー庁は、2030年までのデンマークの国内需要をカバーするには十分な量があると見積もっていますが、発生源からの生物起源の持続可能なCO2は、長期的には限られた資源となりえます。

ご存知でしたか?

2020年10月2日のエネルギー用木質バイオマスの持続可能性要件に関する合意により、デンマークで使用されるバイオマスは最大限持続可能で気候に優しいということが、より保証されることになりました。電気や熱の生産に使用されるバイオマスの持続可能性基準に関するルールは、2021年6月30日に発効しました。さらに、ヒートポンプなど、バイオマスの熱利用に対する代替手段の推進についても政治的な合意が得られています。

炭素を含まない Power-to-X燃料は、未来につながる選択かもしれない

持続可能なバイオマスは無限の資源ではなく、エネルギー、燃料、食料、建材などの需要の増加が、世界のバイオマス資源に将来、大きな圧力をかけると推測されています。長期的には、バイオ燃料の価格が上昇し、炭素系PtX燃料の価格も上昇する可能性があると予想されています。PtX燃料である水素とアンモニアは炭素を含まず、したがって排気ガスからのCO2回収等のコストが不要なため、他の条件が同じであれば、炭素を含む燃料よりも製造コストが安くなります。したがって、これらの燃料は、世界の生物資源に対する需要を高めることにはなりません。

持続可能性、カーボンアクセス、経済性を考慮すると、特に船舶など炭素燃料を必要としないセクターでは、カーボンフリー燃料がより将来性のある解決策となる可能性があります。しかし、水素やアンモニアは、他の燃料に比べて安全性に関する要求が厳しく、その理由のひとつは、アンモニアが比較的低濃度でも有毒であることです。また、アンモニア駆動エンジンはまだ開発段階です。特にアンモニアが海運部門で最も安価な燃料となるには、これらの問題に対応する必要があります。

短期的には、船舶分野でも炭素系燃料の用途があるかもしれませんが、アンモニア駆動エンジンがまだ開発中であること、アンモニアには毒性があることなど、さまざまな課題があることを踏まえて考える必要があります。

どれだけの炭素を、何のために使うのか?

生物資源に対する圧力が高まることが予想されるのは、エネルギーと輸送の分野だけではありません。食糧、建築材料、化学物質、プラスチック、そして原生自然の保護や森林の炭素貯蔵など、さまざまな用途で競合するバイオマスや土地の需要が増加することが予想されるからです。

しかし、グリーンで持続可能なバイオマスは、世界的に見ても限られた資源です。国家バイオエコノミーパネル(National Bioeconomy Panel)の提言によると、現在、プラスチック、包装、繊維、化学製品などの生産に使われている大量の化石資源を代替できるほどのバイオマスは、世界には存在しないとされています。

長期的には、大気中の炭素を直接回収する技術、Direct Air Capture(DAC)の開発が、この限られた資源の課題解決に貢献する可能性があります。この技術は比較的高いエネルギーを必要とするためコストがかかりますが、バイオマスの可能性が限られていることから、いずれDACが生物由来の資源では賄えない残りの炭素を供給できるようになると考えられています。

ご存知でしたか?

研究者たちは、CO2を回収する方法について取り組んでいます。その技術は、DAC(Direct Air Capture)と呼ばれています。2021年にアイスランドで世界初のDACプラントが稼働し、4,000トンのCO2を回収してアイスランドの地下に堆積させる予定です。さらに、米国、スコットランド、ノルウェーの少なくとも3カ所で大規模な施設が計画されており、それぞれが年間50万〜100万トンのCO2を回収・貯蔵する予定です。

Power-to-Xと他燃料との競合関係

現在、PtXの製造は、化石燃料の製造よりもはるかに高いコストがかかっています。特に、電気分解による水素製造にかかるコストは大きいです。水素製造にかかるコストの大半は、電力価格、送電網への支払い(電気料金)、電解プラント自体への投資に起因しています。

そのため、直接電化は、水素や他のPtX燃料を使うよりも一般的に安価です。なぜなら、電気からのエネルギーのうち、水素に蓄えられるエネルギーは約3分の2程度しかないためです。しかし、すべての分野で直接電化が可能になるわけではなく、航空、船舶、重車両輸送、産業など一部の分野では、依然として燃料の必要性があります。

図3は、デンマークエネルギー庁による、今後10年間の水素と3種類のPtX燃料の製造コスト予測です。比較のために、化石燃料とバイオ燃料の市場価格予測も示しています。PtX燃料は、近い将来では、化石燃料や第一世代バイオ燃料よりも高価に留まることが予想されます。したがって、PtX燃料の使用には、より気候に優しい燃料を使用するためのインセンティブを与える、あるいは消費者の価格差の平準化に寄与する規制が必要となります。これは、長期的にPtX燃料がCO2削減のための費用対効果の高い手段になると予想される分野についても言えることで、賦課金や補助金、CO2回避要求やその他の規制が必要となります。

図3. 近い将来のPower-to-X燃料の生産コスト予測。化石燃料とバイオ燃料の市場価格の範囲も示しているが、ここでは価格に対するILUCの影響は織り込まれていない。(出典:デンマークエネルギー庁)

より長期的には、PtX生産の世界的な拡大と工業化は、グリーン水素とPtX燃料の価格の大幅低下に貢献することができます。

コラム2

Power-to-Xが競争力を持つのはいつ頃か?

デンマークエネルギー庁の分析では、水素製造とPtX製品のコストを削減する大きな可能性が指摘されており、この結論は他のいくつかの関係者も同じように指摘している。このコスト削減の可能性は、特に電解プラントのスケールアップと大量生産、そして枠組み条件の調整による。

技術開発の予測には大きな不確実性が伴う。特に、電解プラントの世界的な普及と大量生産のスピードと範囲については、その不確実性が大きい。

そのため、この戦略では、生産コストについて2つの異なる予測を考慮している。

  • 近い将来、コスト低減のために枠組み条件を大きく調整することなく、この10年以内に達成可能であると予想されるコスト。
  • 生産の大幅な拡大や産業化、枠組み条件の改善、支援インフラの拡大により、長期的にコストが変化する可能性があること。

しかし、PtXのコストがいつ、どの程度削減されるかは不明であり、国、地域、世界的な開発、施策および規制の要因に依存する。

デンマークエネルギー庁の分析によると、特にカーボンフリーのPtX製品は、コストの低下により、いずれ第2世代バイオ燃料と競合できるようになると予想されています。第2世代バイオ燃料は、持続可能な燃料という点で主要な競争相手となり、第1世代バイオ燃料は、国内および国際的な規制の結果として、今後、数年間は制限され、減少する可能性があると予想されます。幾つかの業界、特に航空業界では、炭素系燃料の必要性が残ると考えられます。

デンマークエネルギー庁の分析によると、航空セクター用のPtX燃料(e-ケロシン)は、バイオガスの改良などから得られる十分な生物起源CO2がある限り、バイオ・ケロシンと競合することが可能です。これは図4に示すとおり、PtX燃料のコストは、前述の価格引き下げの結果、図3よりも低くなっています。生物起源炭素の需要が増加すると、価格が上昇する可能性がありますが、この図のデータでは考慮されていません。

そのため、長期的にはDACが炭素源として普及することが予想されます。炭素源は高価になりますが、それでもDAC由来の炭素から作られるe-ケロシンは、バイオ燃料と同程度かそれ以下の価格となる見込みです。

図4. 生産規模の大幅な拡大、技術開発、枠組み条件の改善、および支援インフラの展開を想定したPtX燃料の生産コストの長期的な予測。化石燃料とバイオ燃料の市場価格の範囲も示しているが、ILUC(間接的土地利用変化)の影響は考慮されていない。(出典:デンマークエネルギー庁)

デンマークはPower-to-Xのグローバルプレーヤーになれる

デンマークは、PtXの生産と利用に関して多くの強みを持ち、将来のグリーン燃料の開発において重要な役割を果たすことが可能な、確固たるスタート地点に立っています。本レポート執筆時点で、2030年までに約7GWの電解生産を行うプロジェクトが発表されています。そのうちのいくつかを図5に示しました。

図5. 2030年までに約7GWの電解生産を行うプロジェクト
図5. 2030年までに約7GWの電解生産を行うプロジェクト

デンマーク企業はバリューチェーン全体で強いポジションに位置する

デンマークでは、PtXとCCUSの分野で、プロジェクト開発、研究、技術開発、コンサルティング、生産設備、運用・保守に携わる約70社が活動しています。しかし、PtXのバリューチェーンはより幅広く、風力タービンメーカー、プラントオーナーやデベロッパー、電解・合成プラントメーカー、水素インフラのサプライヤー、さらに船舶、航空、大型道路輸送などの分野におけるグリーン燃料の消費者など、他の関係者も含まれています。

PtX特有の知識および研究環境

デンマークでは、PtXを含むグリーンエネルギーに関する知識は一般的に高い水準にあります。その例として、北ユトランドからシェラン島まで全国に広がるデンマークの大学や研究機関における水素やPtXのソリューションに関する強力な研究開発環境を挙げることができます。この分野での研究とビジネスの相互作用は、大学発の発明やイノベーションを確実に市場へ送り出すために非常に重要です。

デンマークの有する豊富な洋上風力の資源、生物起源CO2へのアクセス、強靭なエネルギーシステム

デンマークは豊富な洋上風力の資源を有しており、特に北海では洋上風力の発電容量の更なる拡大可能性があります。2019年からの分析では、デンマークの海域における洋上風力発電の容量は40GWとされていましたが、デンマークエネルギー庁の予備評価では、風力タービンの密度にもよりますが、デンマークの海洋空間計画で現在、再生可能エネルギー開発に指定されているエリアには、17〜27GWの洋上風力発電の余地があるとされています。デンマークはすでに国内の電力生産に占める再生可能エネルギーの割合が高く、今後さらに増加することが予想されます。

国民議会の大多数の賛成で、2つのエネルギー島を建設することが決定されました。第一段階では洋上風力から電力系統に5GWの電力を供給し、完全に開発されれば少なくとも12GWに増加する予定です。この電力は、通常の電力消費にも使われますが、島内もしくは島・本土間の送電線接続に近い場所でのPtX製造やエネルギー貯蔵などの革新的な取り組み等、他の用途にも活用できます。エネルギー島での発電は、それ自体、デンマークにおける洋上風力発電の発電量を現在の6倍にするものであり、デンマークおよび海外における将来のPtX製造の主要資源となる可能性を秘めています。2022年財政法に関する合意により、再生可能エネルギー生産は、2030年までにさらに2GWの洋上風力によって拡大されることになります。これは、デンマークのおよそ200万世帯の電力消費量に相当します。また、2022年のエネルギー・公共事業提案に関連して、政府はさらに1GWの追加の洋上風力発電の入札を見据え、その土台となる分析を提示することを合意しました。

全体として、デンマークの洋上風力の資源は、大量のグリーン電力を必要とするグリーン水素の製造に好条件を提供しています。炭素の使用を必要とする、より高度なPtX製品の生産に関しては、デンマークはバイオガスプラントやバイオマス燃料のCHPプラントを利用して、生物起源CO2を生産する選択肢も持っています。デンマークは、大規模で安価な再生可能エネルギー資源と生物起源CO2へのアクセスに加え、1980年代の火力発電所の熱利用や地域熱供給の開発など、エネルギーシステム全体で一貫した計画を立てる長い伝統を持ち、整備されたガスインフラ、ドイツなどの国々にPtX製品・技術を輸出するための戦略的地理的位置づけを有しています。

政府の掲げる4つの目標が、Power-to-X開発と拡大の基盤に

グリーン転換のためには、私たちの社会を根本的に変革する必要があります。そのためには、私たちがすでに認識、使用している手段を拡大することが必要です。すなわち、風力発電や太陽光パネルによるグリーン電力、電気自動車の普及、デンマークの家庭や企業におけるヒートポンプの普及が必要となります。

デンマーク政府は、電化戦略により、デンマークの直接電化に向けた道筋をつけました。PtX戦略では、デンマークがトラック、船、飛行機による持続可能な輸送が可能な気候ニュートラルな社会になるよう、間接電化を促進することを目指しています。

技術開発は急速に進んでおり、PtXはグリーンでCO2ニュートラルな未来に不可欠な技術です。エスビャウ(Esbjerg)市からボーンホルム(Bomholm)島まで、デンマーク全土でPtXの大規模な導入が発表されており、今後さらに多くの導入が期待されています。

PtXは、デンマークの、そして世界のCO2排出量を削減し、デンマークのエネルギーシステムに価値を生み出すと同時に、大きな商業的利益をもたらす可能性を持っています。デンマークはこの点で非常に有利な立場にありますが、PtXを大規模に展開し、市場競争力をつけるためには、解決しなければならない課題が数多くあります。これには、包括的なアプローチが必要です。

そこで政府は、PtXの障壁を克服し、グリーン水素およびグリーンPtX製品の開発・拡大に寄与する4つの目標(図6参照)を策定しました。これにより、政府は新しいユーティリティ部門に向けた最初の大きな包括的ステップを踏み出そうとしています。

図6:デンマーク政府の掲げるグリーンPtXの開発・拡大に寄与する4つの目標
図6. デンマーク政府の掲げるグリーンPtXの開発・拡大に寄与する4つの目標

目標1:Power-to-Xが、デンマークの気候法の目的の実現に貢献すること

小括:PtXはグリーン転換に貢献することができます。PtXは、直接電化が不可能な分野、あるいは法外に高いコストを伴う分野、例えば産業・重車両輸送の一部や、船舶・航空分野などで主に推進されるべきものです。PtXは、同じ用途ではバイオ燃料と競合しますが、最終的には第2世代バイオ燃料よりも手頃な価格になると予想されます。

政府は、PtXがデンマークの気候目標、すなわち2030年までの70%削減目標、遅くとも2050年までに気候ニュートラルという長期目標、およびデンマークのグローバル気候フットプリントの削減の達成に確実に貢献できるようにすることを目指しています。

目標1.

よって、政府は、

  • EU委員会の「Fit for 55」パッケージの交渉において、海運部門を含む全欧州的な野心的なCO2原単位削減目標の要求を推進する。
  • 航空用PtX燃料に対する全欧州的な最低限の要件と、各加盟国がより高い国内要件を設定する選択肢を推進する。
  • グリーン転換のための生物資源の分析に着手する。

Power-to-Xは、デンマークおよび世界における費用対効果の高いCO2削減に貢献できるものでなければならない

政府の気候変動対策プログラムでは、運輸部門が再生可能エネルギー由来の燃料を使用するように移行した場合、約900万トンのCO2削減の可能性があると指摘しています。このポテンシャルは技術的なポテンシャルであり、したがって電化などの競合技術は考慮されていません。

多くの場合、PtX燃料は直接電化よりコストが高いですが、長期的にはほとんどのバイオ燃料より安くなると予測されています。したがって、PtX燃料は、直接電化が不可能な分野、あるいは法外に高価な分野で重要な役割を果たすことができます。

船舶や航空など一部のセクターでは、直接電化で賄えるエネルギー消費はごく一部に過ぎないため、長期的には液体燃料や気体燃料がエネルギー消費の大半を占めると予想されます。道路交通の特定の用途にPtXをどの程度使用すべきかは、あまり明確ではありません。電化とPtX燃料の配分は、技術開発および直接電化とPtX燃料のコストに依存します。

デンマークエネルギー庁の分析によると、PtX燃料は、多くのセクターの特定の部分において、最も安価にCO2削減を実現できる可能性があることが示されています。図7は、2021年気候プログラムのシナリオに基づき、電化とPtX燃料やバイオ燃料を含む再生可能エネルギー由来燃料の間の長期的可能性の配分を示したものです。

図 7. 直接電化、バイオ燃料または PtX への移行、あるいはバイオガス、バイオマス、バイオオイルなどの他の燃料による、異なるセグメントの長期的な変換可能性。直接燃焼によるプロセス熱については、直接燃焼プロセスにおける固体燃料と液体燃料の高温プロセス熱を分離して整理した。(出典:デンマークエネルギー庁)
図 7. 直接電化、バイオ燃料または PtX への移行、あるいはバイオガス、バイオマス、バイオオイルなどの他の燃料による、異なるセグメントの長期的な変換可能性。直接燃焼によるプロセス熱については、直接燃焼プロセスにおける固体燃料と液体燃料の高温プロセス熱を分離して整理した。(出典:デンマークエネルギー庁)

デンマークエネルギー庁の分析によれば、現在から2050年までの間に、PtXは航空および海運の大部分において重要な役割を果たすと考えられます。さらに、PtXは、産業部門の内部の重量貨物輸送と高温プロセス、重量貨物輸送の一部、製油所、およびデンマーク国防軍の排出の一部で重要な役割を果たすと考えられます。

しかし、これらのセクターでは、直接電化などの他の技術との競争要因の不確実性により、PtXの正確な採用レベルにはより多くの不確実性が伴います。しかし、PtXが上記のすべてのセクターの持続可能な移行において役割を果たすことができる可能性は十分にあります。

デンマークエネルギー庁は、電気自動車に置き換わるまで、内燃機関を使う残りの自動車にメタノール、e-ガソリン、e-ディーゼルなどのPtX燃料の導入を増やすことが可能であると評価しています。これは、短期的には、乗用車とバンの電動化を通常の交換率以上に進めることに比べれば、安上がりであることが分かるかもしれません。しかし、これは過渡的な解決策であり、長期的には最も費用対効果の高い、また気候変動にやさしい解決策ではないことを考慮する必要があります。

さらに、PtX製品は、化石由来の代替品に代わるe-プラスチックやe-肥料などの材料や化学品の生産に利用できる大きな可能性を秘めています。しかし、そのような製品の生産は、現在、主にデンマーク国外で行われています。もし、その生産がPtXベースの生産に転換されてデンマークに移されるのであれば、それはデンマークの国内削減に寄与することはありません。むしろ、デンマークのグローバルなフットプリントと、世界のCO2排出量全般の削減に貢献することになります。

デンマークエネルギー庁は、2050年までに運輸部門と産業部門において費用対効果の高いCO2削減の可能性を評価しました。このポテンシャルは表1に示されています。この表は、2030年までの同じセクターの潜在的な可能性についてのデンマークエネルギー庁の計算も示しています。2030年にこれらの削減が費用対効果に優れているかどうかは、目標、計算価格、規制等と、PtX燃料の生産と使用がどのような枠組み条件のもとに行われるかを含むPtX分野の発展によって決まります。

現在から2050年までの間に、PtXは特定のセクターにおいて、約800万トン以上のCO2を長期的かつ費用対効果の高い形で提供する可能性があります。2050年までの国内の削減ポテンシャルは約350万トン以上のCO2であり、残りの削減ポテンシャルは、デンマークの港で給油されたデンマーク国外の船舶や航空便のグリーン化に起因するものです。

すでに2030年までに、PtXは、最終的に費用対効果が高くなると予測される同じセクターにおいて、450万トン以上のCO2削減をもたらす技術的可能性を持っています。これは、デンマークの国家CO2収支に含まれる削減量と、デンマークの港で給油されたデンマーク国外の船舶や飛行機による削減量(したがって、デンマークの国家CO2収支には含まれない)が含まれます。

デンマークの国家CO2収支では、PtX製品の使用は2030年までに最大200万トンのCO2削減に貢献し、これは70%削減の目標にカウントされます。そのうちの一部(約50万トン)は、長期的には必ずしも費用対効果の高くない過渡的な用途によります。

表1. デンマークにおけるPtX燃料が最終的に費用対効果的になると予測されるセクターでの使用量推定値
削減可能量(CO2、百万トン/年)
アプリケーション20302050
確実なポテンシャル
 船舶のPower-to-X0.6 - 1.21.9 - 2.6
 - うち国内航行0.1 - 0.40.4 - 0.7
 航空のPower-to-X0.3 - 2.51.5 - 3.0
 - うち国内航行0.02 - 0.130.08 - 0.15
程度は不確定だが確実なポテンシャル
 バンを含む軽車両輸送用の水素0.0 - 0.10.0 - 0.4
 トラック・バス用水素0.02 - 0.40.4 - 1.2
 産業用水素、直接燃焼0.0 - 0.10.0 - 0.5
 水素またはe-ディーゼル(産業用、車載用)0.0 - 0.20.2 - 0.5
 デンマーク国防軍向けe-燃料(航空機、船舶、車両)不明不明
 製油所におけるバイオ燃料製造用水素など不明不明
 化学品(肥料、合成樹脂など)の製造不明不明
費用対効果の低く過渡的解決策となる不確実なポテンシャル
 メタノールとガソリンの混合0.03 - 0.050.00 - 0.01
 ディーゼル/ガソリンへのe-燃料の混合0.3 - 0.50.0 - 0.1
合計1.3 - 5.14.1 - 8.2
うち、70%削減目標に貢献0.5 - 1.91.1 - 3.5
  1. ここでいう「確実なポテンシャル」とは、直接電化が不可能な分野、あるいはPtX燃料を採用するよりもコストが高くなると予想される分野と定義する。
  2. 「程度は不確定」とは、適用範囲内でのPtXの採用の程度が不確定/不確実であると定義される。これには、電化の可能性が高いが、セグメントの一部ではPtX燃料の使用が最も費用対効果が高く、実用的な解決策となるセグメントも含まれる。
  3. 2021年気候プログラムによる技術的な総削減ポテンシャルでは、PtXは2030年までに約900万トンの国内CO2削減に貢献する可能性があるとされている。この表は、デンマークエネルギー庁が算出した費用対効果の高いポテンシャルを示している。費用対効果の高いポテンシャルは技術的ポテンシャルよりも低く、これはPtX燃料の使用と電化が重なるためで、気候プログラムの技術的な総削減ポテンシャルでは後者がより費用対効果の高い選択である。
  4. ディーゼル/ガソリンへのe-燃料の混合は、かなりの不確実性があるとはいえ、現状では費用対効果が見込めず、第二世代化石燃料との競争力も持たないと考えられている。
出典:デンマークエネルギー庁

Power-to-X燃料のための生物起源炭素の量は限られている

特定のセクター(主に航空分野)では、炭素を含む燃料が当面は必要であるとデンマークエネルギー庁は考えています。2050年、表1の中のポテンシャルをフルに発揮するには、炭素を含まないPtX燃料でカバーできる割合にもよりますが、150万〜650万トンのグリーンCO2を使用する必要があります。もし、CO2が航空分野でのポテンシャルだけに使われるなら、年間約300万トンのCO2が必要になります。これに加えて、輸出用燃料や化学品生産用燃料なども必要になります。生物起源の炭素の項で述べたように、バイオマスや生物起源の炭素は、長期的には限られた資源となることが予想されます。この課題に取り組むことは、国内外の目標(デンマークのEUおよび国連の義務など)を達成し、炭素系PtX製品の輸出関連のポテンシャルを長期的に実現するために極めて重要です。

ご存知でしたか?

製油所もグリーン化の野心を抱いています。フレデリシアの製油所、クロスブリッジ・エナジー社は、原油の一部をバイオオイルとグリーン水素に置き換えてバイオ燃料を生産し、2035年までにCO2ニュートラルとなることを目指しています。この製油所では、すでにHySynergyプロジェクトを通じてグリーン水素に投資しており、デンマークエネルギー庁の蓄エネルギー・ファンドから資金援助を受けている。このプロジェクトはまた、IPCEIプログラムによる資金援助を受けとるプロセス下にもあります。

水素を燃料とするタクシーが、すでにデンマークの道路を走っています。自動車メーカーのトヨタは、タクシーサービスのDRIVRと共同で、コペンハーゲンの道路に100台以上の水素自動車を導入しました。また、NEL、Circle K、Everfuelは、エスビャウからコペンハーゲンまで、これらの車のための燃料補給ステーションを設置しています。水素は、電気自動車を補完するものであり、特別な条件や考え方によって完全に電気に変換することが困難な場合に利用されます。

デンマークの海運会社Maersk社は、カーボンニュートラルのメタノールで航行できる大型コンテナ船8隻を発注しました。最初のコンテナ船の就航が予定されています。

制度によりPower-to-Xの利用が促進される

PtX燃料が化石燃料の代替燃料よりも高価である限り、デンマークエネルギー庁は、PtX燃料による更なるCO2削減には制度措置が必要であると考えています。例えば、これには、道路輸送に関して定められた国のCO2回避要件(2020年12月からの道路輸送のグリーン転換に関する合意を参照)およびFit-for-55内のEU規制が予定されています。同時に、生物起源の炭素の量が限られているという長期的な課題についても、より多くの知見が必要です。

Power-to-Xの使用に大きな影響力を持ちうるFit-for-55

2021年7月、欧州委員会は、2030年までに温室効果ガス排出量を少なくとも55%削減するというEUの気候目標を支援するため、運輸部門(船舶、航空を含む)の新しい欧州の制度に関する提案など、多くの提案を含むFit-for-55制度パッケージを発表しました。この制度パッケージは、制度の発効までに交渉が行われるため、最終的な内容はまだ不明です。

コラム3

欧州委員会の「Fit-for-55」における輸送と産業の制度に関する提案

運輸部門ほか(再生可能エネルギー指令RED IIの改定)

RED IIの改訂に伴い、欧州委員会は、2030年までに運輸部門で13%のGHG原単位削減目標を設定することを提案している。また、欧州委員会は、燃料の混合に関する要件を先進型バイオ燃料(2030年に2.2%)とPtX燃料(2030年に2.6%のサブ目標)に対して提案している。この要件が確実守られるよう指令を施行するかどうかは、加盟国次第である。これらはあくまで最低要件であり、国レベルで引き上げ、2030年までに段階的に導入することが可能である。

EUの海運分野(EU海運分野の燃料)

海運部門に関しては、欧州委員会は、2030年に向けて6%、2050年には75%まで増加するCO2排出原単位削減目標を定めた新制度を提案している。この目標達成には、再生可能燃料(PtXを含む)が用いられるが、従来の第一世代バイオ燃料は用いられない。この提案は、EUレベルでの完全な調和を伴うものであり、これより厳しい国別レベルの要件は基本的に不可能であることを意味する。

EUの航空分野(EU航空分野の再エネ燃料)

航空分野に関しては、欧州委員会は、2025年までに再生可能エネルギー燃料を2%、2030年には5%、2050年には63%混合する一般要件を提案しており、第1世代バイオ燃料は再エネ燃料の割合にカウントされなくなる。また、欧州委員会は、2030年までに航空機用燃料にPtX燃料を0.7%混合し、2050年には28%まで高めるという具体的な要求も提案している。この提案は、EUレベルでの完全な調和を伴うものであり、これより厳しい国別要件は一般的に不可能であることを意味する。

追加要素(AFI規制と乗用車・バンのCO2規制)

上記に加えて、このパッケージには、水素充填ステーションの設置に関する新しい規則と、新車の乗用車とバンの既存のCO2基準のさらなる強化も含まれている。代替燃料インフラ(Alternative Fuels Infrastructure, AFI)の効果を定量的に示すことは難しいが、デンマークエネルギー庁は、重車両輸送における水素燃料の採用に概ね貢献する可能性があると予想している。

産業分野

このパッケージには、2030年までに産業部門の水素消費量の少なくとも50%を再生可能エネルギーとする国家レベルのサブ目標の提案が含まれている。デンマークの現在の水素消費量は少ないため、これは主に海外での削減に貢献するもので、デンマークで製造された水素を使用する可能性もある。

デンマークエネルギー庁の分析によると、Fit-for-55の提案は、デンマークとEU全般でPtX燃料の大きな需要を生み出すことになります。Fit-for-55政策パッケージにより、PtX燃料の消費により、2030年までにデンマークの運輸セクターにおいて年間最大50万トンのCO2を代替することができます。ただし、これはPtX燃料利用が化石燃料の代替に向けられるか、バイオ燃料の代替に向けられるかによって異なります。この要求が主に第2世代バイオ燃料の代替に終わった場合、バリューチェーンにおける排出量削減はわずかなものにとどまると考えられます。

また、デンマークにおける国際的な海運および航空からの排出を削減することでも要件を満たすことができ、国際目標の達成に貢献することができます。しかし、これらの削減は国のCO2バランスに含まれず、70%削減の目標にはカウントされません。したがって、Fit-for-55から生じる削減が、デンマークの気候目標にどの程度貢献するかは不明です。

政府は、Fit-for-55政策パッケージにおいて、航空・船舶分野を含む野心的な要求事項を推進する。これらの要件は、EU全域で根本から統一された枠組み条件を通じて、PtX製品に対する国内および国際的な需要を高める結果となり、長期的に実用性がある分野でのPtXの使用の促進に貢献するものである。

陸路輸送における国のCO2排出量規制はグリーン燃料を促進する

デンマークエネルギー庁の分析によると、デンマーク市場でガソリンやディーゼルに混合されるバイオ燃料の一部は、バリューチェーンにおいてむしろ大きなCO2排出につながる可能性があることを示しています。後者は海外で発生する分には70%削減目標の対象にはなりませんが、デンマークのグローバル気候フットプリントの一部であることに変わりはありません。

なぜなら、第一世代のバイオ燃料は、デンマークや海外の広大な農地を必要とする作物から生産されるからです。そのため、これらのバイオ燃料の消費量が増加すると、森林伐採や排水によって、以前は耕作されていなかった土地がさらに要求されるリスクが高まります。これは間接的土地利用変化(ILUC)と呼ばれ、大量の炭素を貯蔵する場所を取り除くことで気候に影響を与えます。また、新たな耕作地の確保は、生物多様性に悪影響を与える危険性が高くなります。

デンマークは、2022年から自動車用の再生可能エネルギー燃料について、CO2排出量の要件に基づく新たな制度を導入しました。これにより、気候変動に配慮した燃料の普及が促進されます。同時に、遅くとも2025年までに国の燃料規制にILUC値(または類似の値)を組み込むことが政治的に決定されました。また、欧州委員会は、加盟国が船舶と航空に関する特定のFit-for-55要件を満たすことに関連して、第一世代バイオ燃料を含めることができないようにすることを提案しています。

バイオ燃料の代替としてPtX燃料を使用することで、エネルギー用バイオマスの消費を抑えることができます。また、数多くがデンマーク国外にある、バイオ燃料の生産に伴う排出も抑えることができます。PtX燃料の生産は、再生可能エネルギーの拡大と持続可能なCO2へのアクセス次第で、バイオ燃料の生産よりもスケールアップすることが可能です。デンマークエネルギー庁は、水素やその他のPtX燃料が、直接電化とともに運輸部門全体の転換に重要な役割を果たすと期待しています。

バイオマスや生物起源炭素に関するさらなる分析の必要性

デンマーク政府は「デンマーク農業のグリーン転換に関する合意」により、熱分解技術がバイオ炭の形で炭素固定を行い、農業セクターのネガティブ・エミッションに貢献できるようにするための基盤を作りました。さらに、政府と国民議会の間のCCS戦略に関する合意には、DAC技術を促進し、それらをより安価にするための枠組み条件の分析を行うことが含まれています。さらに、政府はグリーン転換のための生物資源の分析を開始します。

この分析の目的は、グリーン転換に利用可能な生物資源の包括的な概要を作成することと、一次生産、さまざまな精製技術、CO2の回収・貯蔵・利用、熱分解、バイオガス、PtXなどの分野間の相乗効果を明らかにすることにあります。

政府は、運輸および産業部門におけるグリーン転換の推進に取り組む。政府は「Roadmap for a green Denmark(グリーン・デンマーク・ロードマップ)」をもって、2022年と2023年に、PtXが長期的に大きな役割を果たせる可能性のある部門について、多くの戦略や提案を示す予定です。

  • 重車両輸送用燃料インフラ展開の戦略
  • 航空交通分野のグリーン化に関する提案
  • グリーン産業分野の提案
  • グリーンエネルギー・ユーティリティ分野の提案
  • 道路輸送と船舶のための持続可能な燃料に関する提案

政府がすでに取り組んできたPtX燃料の利用推進

  • グリーン輸送のための資金プールの配分に関する合意:2022年にグリーントラック購入の補助金として総額5,000万DKKの資金プールを提供。この合意を支持した政党は、2021年に7200万DKKを商業輸送のためのグリーン燃料インフラに割り当てることにも合意した。この資金プールは、タクシー、バン、トラック、バスなど、水素などの代替燃料で走行する車両の充填・充電インフラを対象とするものである。
  • 道路交通のグリーン転換に関する合意:遅くとも2025年までにILUC値(または類似の値)を国内規制に盛り込むことが計画されている。2023年には、2025年からのPtXなどの再生可能燃料の特定要件だけでなく、CO2回避要件も強化する可能性について政治的な決定がなされる予定である。
  • エネルギー・産業等の気候協定:約160億DKKがCCUSプールに計上され、CCS戦略の第2部に関する合意により、2つのフェーズに分けられることになった。第1フェーズでは、2025年から年間40万トンのCO₂削減を実現することを目指している。この第1段階での経験や市場の発展により、第2段階での資金は可能な限り適切に運用され、2030年に向けて年間90万トンの削減が行われることが期待される。また、CCUSプールからの資金の第2回実施に関連して、CO₂の利用が気候目標にどのように貢献できるかについても評価を行う予定。
  • CO₂の回収、輸送、貯蔵のためのロードマップ:CCS戦略の第2弾として、DAC技術を促進し、安価にするための枠組み条件の分析を開始することが合意された。また、回収したCO₂は、PtXで製造した炭素系燃料に利用することができる。
  • デンマーク農業のグリーン・トランスフォーメーションに関する合意:特に、この協定では、2021年デンマーク財政法を通じて計上された2021-2022年の2億DKKに加え、2023-2024年の熱分解のために1億9600万DKKを計上し、熱分解のような褐色バイオ精製プロセスの開発のために合計3億9600万DKKが計上されています。デンマーク農業のグリーン移行に関する協定を通じて割り当てられた資金は、Just Transition Fundを通じて提供される予定。

目標2:デンマークが強みを生かし、長期的にPower-to-Xが市場競争できるような制度枠組みやインフラを整備すること

小括:将来的には、PtXは他の化石燃料の代替品と競争できるようになるでしょう。しかし、そのためには、PtXの生産、輸送、貯蔵、利用のための適切な制度枠組みの確立と、PtXの市場参画を可能とする水素インフラが必要です。さらに、政府は、PtXの産業化に大きく貢献する方法として、技術開発と規模の拡大を支援する計画です。

政府は、デンマークの水素とPtX製品が、最終的に市場でバイオ燃料や外国のPtX製品と競合できるようにするために努力しています。したがって、政府は、PtX製品の生産と使用が最終的に市場条件で実行できることを保証するための適切な経済・制度枠組みを構築します。また、政府は、PtXプラントの柔軟な運用と長距離の水素輸送を支える水素インフラの枠組み条件をデンマーク国内で確立する予定です。

目標2

この目標のために、政府は以下の項目を実施予定:

  • 水素およびその他のPtX製品の製造のための運用支援に12億5,000万DKKを投資する。PtX入札の目的は、デンマークにおけるPtX生産の工業化と規模拡大を支援し、それによって水素生産に関連するコストを削減することである。これは、PtX分野におけるデンマークの成長と雇用創出、およびビジネスと輸出の可能性を促進すると期待される。これらの補助金は、10年間の固定価格補助金として交付される予定。
  • PtXと水素に特に焦点を当てた革新的なグリーンキーテクノロジー(グリーン生産と実証プロジェクトを含む)のための国家投資ファンディングスキームを確立するために、REACT-EU基金とJust Transition Fundの3億4,400万DKKの配分について欧州委員会と対話を始める。
  • デンマークの水素に関連する法律の360度見直しを開始する。
  • デンマークの水素市場のための国内規制を策定する。
  • EnerginetとEvidaが、水素インフラを所有・運営を行う機会を与える。
  • 南ユトランド成長チームからの提言に基づき、 グリーンエネルギーとセクター間の連携のための先行的商業プロジェクトを確立するために行動する。

Power-to-Xは、将来的には市場で競争できなければならない

デンマークエネルギー庁の分析によると、デンマークで生産されたPtX燃料は、多くの分野で化石燃料に代わる競争力のある燃料となる可能性があることが示されています。これは、バイオ燃料だけでなく、他の国で生産されたPtX燃料に対しても同様です。

図8に示すように、PtXが市場で競争するためには、PtXプロセスのコストを削減する必要があります。この図は、PtX製品の予測生産コストを、化石燃料とバイオ燃料の市場価格と比較したものです。PtX燃料については、競争条件のところで説明したように、コストが下がることを前提に、短期と長期の生産コスト予測を示しています。水素をはじめとするPtX製品の生産、輸送、貯蔵、利用のための適切な枠組み条件を整備すること、PtX製品のグリーン価値を文書化できるようにすること、その価値を市場価格に反映させることが求められます。

このことは、これまでに発表されたほとんどのPtXプロジェクト(最大7GWに相当)の関係者が、プロジェクト実施の前提条件として公的資金ではなく、調整された枠組み条件と透明性のある制度を要求している事実からも明らかです。

図8. 4 種類の PtX 燃料それぞれについて、生産の拡大、技術開発、枠組み条件の改善、および支援インフラの導入後の、この 10 年間(短期)および長期の生産コストの予測値。化石燃料とバイオ燃料の市場価格の範囲も示しているが、ILUCの影響は考慮されていない。(出典:デンマークエネルギー庁)
図8. 4 種類の PtX 燃料それぞれについて、生産の拡大、技術開発、枠組み条件の改善、および支援インフラの導入後の、この 10 年間(短期)および長期の生産コストの予測値。化石燃料とバイオ燃料の市場価格の範囲も示しているが、ILUCの影響は考慮されていない。(出典:デンマークエネルギー庁)

技術開発と規模拡大が低コストのPower-to-Xプラントにつながる

デンマーク企業は、グリーン燃料(PtX)の世界的な市場の産業拡大において、市場で確固たる地位を獲得するための準備が出来ています。OECDによると、デンマーク企業は大規模で効率的なPtX生産プラントの設立に必要な主要技術を開発・保有しており、デンマークはPtXの分野で技術的にリードしています(図9参照、水素技術内の相対的技術リードを2004-2008年と2014-2018年で比較)。

図9. 水素技術における相対的な技術優位性 (特許出願数の相対的数値)
注)グリーン水素の技術分野において、特許協力条約(PCT)に基づき提出された特許出願のデータです。特許件数は、特許提出日と国名に基づき、端数で表示している。集計対象は、2014~2018年の期間に水素技術特許を20件以上提出した国のみ。OECDのワーキングペーパー「Innovation and Industrial Policies for Green Hydrogen」より作成。(出典:OECD, STI Microdata Data System:OECD、STI Micro-data Lab:Intellectual Property Database, http://oe.cd/ipstats, Juni 2021.)

デンマーク企業が主要な生産技術の大部分をデンマークで開発するためには、企業の技術開発への投資のための枠組み条件が必要です。そうした枠組み条件が、PtX生産に関する、革新的でグリーンな主要技術のサプライチェーン全体の工業化の拡大を支えることとなります。複数の関係者が、生産設備の大規模化と工業化が、技術をさらに発展させ、PtXをより低コストで生産するための次のステップであると述べています。水素製造のコストの大部分を占める電解プラントは、多くの小さな要素(電解セル)が連結されたモジュール式のユニットです。太陽光パネルや蓄電池と同様に大量生産が可能であり、生産規模の拡大には、コスト低減の観点で大きな可能性が期待されます。そのため、PtXプラントは、規模が大きくなればなるほど建設コストが下がるだけでなく、数を増やせば増やすほど建設コストが下がることになります。

これに伴い、政府はすでに、電解などの主要技術の生産コスト削減に貢献できる研究、開発、技術革新、大規模な実証・規模拡大プロジェクトを支援しており、これらは、ひいては大規模PtXプラントの競争力強化に貢献します。この戦略には、必要なグリーン主要技術の規模拡大に焦点を当てた新たな投資支援スキームへの追加資金提供が含まれます。

水素製造に占める最大のコストは電力消費

デンマークエネルギー庁の予測によると、デンマークにおけるグリーン水素の製造コストは、電解プラント自体のコストに加え、電力購入や送電網への料金支払いにかかるコストが約2/3を占めています。これらのコストを削減することができれば、水素やその他のPtX製品の価格を引き下げることができる可能性があります。

電力の市場価格(いわゆるスポット価格)は、安価な再生可能エネルギーの供給と価格帯内の電力需要などに応じて、時間ごとに変動しています。電解プラントが十分に柔軟で、水素の購入者が生産量の変動を許容できるのであれば、電解プラントは1年のうちで最も電力が安い時間帯に水素生産を選択すればよいといえます。しかし、水素の購入者は、多くの場合、安定的な水素の供給を望むでしょう。この課題は、水素貯蔵施設を含む水素インフラの整備によって対応できると考えられます。また、パイプによる水素の輸送は、消費と生産を結びつける有効な方法です。パイプ輸送と大規模な水素貯蔵を基盤とした水素インフラシステムは、デンマークでのPtXの生産に有効であると考えられます。

Power-to-Xの拡大と再生可能エネルギーは両立する

一般的に、グリーン転換が進むにつれて将来のグリーン電力需要は拡大すると考えられており、PtXもまたそこに含まれています。デンマークではすでにPtXに大きな関心が集まっており、民間企業により発表されたプロジェクトは、2030年までの合計で最大7GWの電解能力を持つに至っています。実際に実現する生産能力には不確実性がありますが、この数字はデンマークエネルギー庁の現在の予測に基づく生産能力拡大のレベルを超えています。したがって、今回発表されたプロジェクトやPtXをさらに推進する取り組みは、今後のグリーン電力の需要拡大に貢献することが期待されます。

確固たる透明性の高い制度の必要性

水素やその他のPtX燃料の製造、輸送、貯蔵、使用には、安全、環境、計画、市場規制などに関する多くの分野で、確固たる透明性の高い制度が必要です。将来の水素市場が国境を越えて機能するためには、水素と他のPtX燃料の両方についてグリーン価値(気候ニュートラル性)が文書化できることが不可欠です。この文書化は、信頼性が高く、EU全域で調和されたものでなければなりません。最後に、水素のパイプ輸送は、実務上独占になるため、水素インフラを確立するには、システムへの公平なアクセスとPtX製品消費者への低価格を確保するという観点から、効果的かつ適切な市場規制が必要です。

枠組み条件、規制、技術開発、インフラは、Power-to-Xの市場競争を支える

2019年以降、政府はEUDPとデンマークエネルギー庁の蓄エネルギー資金プールを通じて約4億DKKを投資しました。2021年には、政府は国民会議の他の政党とともに、グリーン水素に関する汎欧州プロジェクト(IPCEI)を通じて、未来のグリーン燃料の開発にも8億5000万DKKを割り当てました。また、政府はPtXの入札を通じて12億5000万DKKを投資する予定で、2021年と2022年の研究予算の配分に関する合意においては、政府と国民議会の各党は、輸送と産業のためのグリーン燃料(PtXなど)に関するミッションを含むグリーン技術の研究開発への貢献を目的とした4つのグリーンミッションに10億DKK弱を優先的に配分しました。これらのミッションは、関連する研究機関、企業、公的機関、民間関係者が数年にわたり共同で研究およびイノベーションに取り組み、ミッション主導型のパートナーシップによって実施されます。イノベーションファンドデンマーク(Innovation Fund Denmark)が、これらのパートナーシップを確立する役割を担っています。これらは、デンマークにおける水素とPtXの技術的成熟と産業化を支援する重要な措置であり、PtXの生産コスト低減にもつながると期待されます。

PtXの競争力を高めるのに役立つ措置は他にもあります。例としては、明確な枠組みを確立し、PtXのグリーン価値を支えるデンマークと EU の一貫した法律、生産と消費を結びつけ、貯蔵を促進するデンマークの水素インフラの確立、最後に、実際のコストをよりよく反映した電気料金が挙げられます。PtX製品のコスト低減に向けた政府のアプローチを図10に示します。

図10. グリーン水素の製造コストにおける3大要素は、政府の提案する枠組み条件の変更によって削減することが可能(出典:デンマークエネルギー庁)
図10. グリーン水素の製造コストにおける3大要素は、政府の提案する枠組み条件の変更によって削減することが可能(出典:デンマークエネルギー庁)

Power-to-Xの拡大をサポートする強固な制度枠組み

近年、水素とPtX技術が著しい成熟を遂げています。このため、現在の法律では、水素製造の分野で起きている急速な進展に対応することができないのが現状です。

認可手続きや安全認可が複雑で、PtX製造プラントや、水素や他のPtX製品の輸送・貯蔵施設の設立が難しくなる可能性があります。法律が複雑であるというのは、PtXへの投資家と管轄当局の双方が、その枠組みについて理解が不明瞭になる可能性も意味します。これは、PtXプラントの建設がさらに遅れる要因となり得ます。PtX業界がデンマークでPtXプラントを建設しようとする時、国の制度はそのプロセスを可能な限りシンプルかつ迅速にできるものであるべきです。明確で透明性のある制度は、投資家にとって安全な枠組みを作ります。

さらに、PtXメーカーが送電網の電力を利用して運輸部門向けの水素を製造する時、どのようにして彼らの製造する水素が再生可能エネルギー由来であることを証明するか、その方法がEUで議論されています。現在、再生可能エネルギー指令RED II(第27条)の改正が進められています。証明においては、グリーン水素の生産が、化石燃料に基づく電力生産の増加につながらないことを保証しなければならないため、将来、デンマークで生産された水素がEUの国境を越えて取引される際の評価にとって極めて重要です。現状では、炭素を含むPtX製品に関しても、生産に使われた炭素の由来に応じてどのようにグリーンと分類するかについて、一切の文書システムもありません。2022年12月には、欧州委員会が持続可能な炭素循環に関するコミュニケーションを発表し、カーボン・ファーミング(炭素農業)の推進とCO₂取り込みの認証制度に関する法的枠組みの整備に関する行動計画が盛り込まれる予定です。これには、貯蔵と利用に関して、炭素の起源を記録できる調和のとれたシステムが必要となります。

最近の研究では、水素は比較的強力な温室効果ガスであることが示唆されており、今後の水素規制はこの点を考慮することが重要です。

政府の今後の取り組み:

  • 特にPtXと水素に焦点を当てた革新的なグリーン主要技術(グリーン生産と実証プロジェクトを含む)のための国家投資ファンディングスキームを確立するために、REACT-EU基金とJust Transition基金の3億4,400万DKKを割り当てることについて欧州委員会と対話する。
  • 水素市場の発展や、デンマークおよび国際的な企業によるPtXの製造・使用を容易にする水素インフラの確立に対する障壁を特定する目的で、水素に関連する法律の全面的な見直しを開始すること。
  • PtX業界と協議の上、水素インフラの透明な市場条件を確保する一方、既存のメタンガス配管を水素輸送に転用する機会を創出するための国内規制を策定する。
  • 再生可能エネルギーと持続可能な炭素から生産されたPtX製品の認証に関する明確で統一されたルールを国内およびEUレベルで作成し、それによってPtXのグリーン価値を確保すると同時に、デンマークやヨーロッパのプロジェクトを遅らせないようにする。

デンマークの水素インフラを、水素の輸送と貯蔵が可能なものに

デンマークには、水素の長距離輸送に特化したパイプライン・インフラがありません。しかし、デンマークの既存のガスシステムの一部は、水素の輸送に転用することができます(グリーンガス戦略を参照)。しかし、ガスパイプラインを新たな目的のために転用するには、広範な計画と戦略的選択が必要です。また、現時点では、短期的に再利用できるパイプラインはわずかしかないようです。

コラム4

水素インフラ

デンマークには現在、水素インフラ、すなわち水素を輸送・貯蔵するためのガスパイプラインとガス貯蔵設備がない。パイプラインのインフラを確立するには、既存のガスシステムの一部を変換して再利用するか、専用の水素インフラを確立する必要がある。

デンマークのガスシステムは、送ガスシステム(Energinet が所有・運営)、配ガスシステム(Evida が所有・運営)、Energinet の二つの地下ガス貯蔵施設であるLille Torup(北ユトランド)および Stenlille(シェラン島)で構成されている。これらの貯蔵施設は、余剰ガスを貯蔵し、ガス消費量の季節変動を平準化するために使用され、それによってガスシステム全体とその関係者に柔軟性をもたらしている。

社会経済的な観点から、電気を水素に変換し、その後、ガスシステムで輸送することは、電気を輸送・貯蔵するよりも輸送・貯蔵が簡単で安価であることから、非常に理にかなっていると言える。パイプやガス貯蔵設備への水素貯蔵は、再生可能エネルギーの生産量が電力消費量を下回る期間における貯蔵確保を可能にする。

Energinet とデンマークエネルギー庁は、デンマークの水素インフラに関心を示したデンマーク国内および海外の合計19の市場関係者と対話を行ってきた。この対話により、市場関係者にとっての水素インフラの価値や、いつ水素インフラを構築するのが適切かといった側面がより明確になった。複数の市場関係者は、初期は水素インフラがなくてもやっていけるが、最終的には完全な商業規模を達成するために水素インフラが必要になってくると考えている。

Energinet は、現在デンマークとドイツのガスシステムをエグトベド(Egtved)とエルンド(Ellund)間でつなぐつなぐ2本のガスパイプラインのうち1本を、純粋な水素の輸出に転用できると判断しました。これによって、デンマークのPtXメーカーをヨーロッパの水素インフラにつなぐことに貢献します。さらに、暖房用のガスボイラーが徐々に廃止されるのに伴い、ガス配送システムの一部を再利用できる可能性もあります。

バイオガス生産の拡大が政治的に決定されたこともあり、ガスシステムの大部分は今後何年も使用可能であり、その可能性が高くなっています。つまり、少なくともあと20年は、ガスシステムがバイオガスの輸送と貯蔵に使われることになります。さらに、今後予定されているバルト海パイプ接続により、少なくとも2038年まではデンマーク経由でポーランドまで大量のガスが輸送されることになります。これに伴い、既存のガスシステムのかなりの部分は、水素など他の用途に転用することは不可能と思われています。これについては図11に示す通りです。

図11. デンマークのガスシステム概要と転換の可能性を時系列で示したもの。赤色:転換の可能性なし、黄:転換の可能性あり。緑色:転換の可能性が高い。南ユトランド州のパイプラインは、中期的に水素輸出に転換できる可能性があることに注目。(出典:デンマークエネルギー庁)
図11. デンマークのガスシステム概要と転換の可能性を時系列で示したもの。赤色:転換の可能性なし、黄:転換の可能性あり。緑色:転換の可能性が高い。南ユトランド州のパイプラインは、中期的に水素輸出に転換できる可能性があることに注目。(出典:デンマークエネルギー庁)

デンマークの水素インフラの長期的な確立を支援するため、政府は主要な障壁を取り除き、インフラの確立や安全性などに関する明確なルールを確保するよう努力するとしています。

2021年12月のガス・水素パッケージの立ち上げに関連して、EUは水素の競争規制を欧州レベルでどのように設計すべきかの案を提示しています。つまり、水素に関する汎欧州的な制度がデンマークの法律で実施されるのは早くとも2025年末ということになります。しかし、デンマークは今日すでに、水素パイプライン輸送に関連する公正な競争条件を確保するための競争規制を必要としているのです。

政府の今後の取り組み:

  • EnerginetとEvidaが水素インフラを所有・運営できるようにするため、法律と目的規定に必要な枠組みを設ける。これにより、既にガスインフラの運営能力を有するEnerginetとEvidaが、EU内の他の関連市場アクターと同等に、市場ニーズ分析や予備調査などの水素インフラプロジェクトの開発に資金を充てることができるようにする。
  • 2022年、デンマークの水素市場の組織と、水素市場の所有と運営に関連して、関連するアクターを確実に参加させる方法について対応する。
  • デンマークの港湾は、デンマークの海運の持続可能性への移行において重要な役割を担う。そのため、2035年インフラ計画に基づいて、デンマークの港湾における新燃料の利用可能性に関する分析を実施する。例えば、港湾は、PtXの生産を希望する民間企業に空き地を貸し出すことができる。これは、生産には港湾に近い場所が必要であること、もしくは港湾関連の活動にはそのエリアを貸し出しが難しい場合等を想定している。また、政府は、電力へのアクセスとデンマークの港湾における燃料補給のためのインフラは、船舶部門が化石燃料からグリーン燃料への移行を可能にするための前提条件となると考えている。

実質コストをより反映した料金体系により、Power-to-Xのコスト削減が可能になる

現在の送電料金では、料金の支払いは水素製造コストの約1/3に相当します。立地に応じて変動する消費料金など、実質コストをよりよく反映した料金は、送電網の容量から見て適切な場所にPtXプラントが設置されることを促し、水素製造コストを削減することを可能にします。実質コストを反映した料金体系は、送電網のより効率的な利用を確保し、送電網への投資の必要性を減らす可能性があり、同時にPtXの競争力を高め、それによって市場においてより良いパフォーマンスの発揮ができるようにすることを目的としています。送電料金に関する政府の具体的な提案は、目標3の下でより詳細に説明されています。

ほとんどの大型電解プラントは、デンマーク国内の電気を輸送する大規模な高圧線として知られる、いわゆる送電網に接続されると予想されます。この送電網の部分はEnerginetによって所有・運営されており、支払いにはネットワーク料金とシステム料金が含まれます。

Energinetは、送電網の電力輸送とシステム運用の実質コストをよりよく反映するための新しい料金メニューについて、2つの提案を行いました。1つ目の提案は、約半分を占めるシステム料金の改定です。

提案されている改定は、消費量ベースの料金体系から、固定料金と従量システム料金の組み合わせへの変更を伴うものです。これはデンマークの大口電力消費者に利益をもたらす可能性があります。もう一つの提案は、電解プラントなどの柔軟性のある大口電力消費者に対する系統料金の引き下げです。この場合、送電網の容量が不足する時間帯に電力供給の一部停止に対応できることが、支払い額を下げる条件となります。全体として、これらの料金案は、デンマークエネルギー庁の予測では水素製造コストを最大で約25%削減することができるとされています。料金メニューの変更はすべて、デンマークのユーティリティ事業規制当局の承認を得なければなりません。これは、目標3の下で説明されている政府のさらなる提案による効果に関する追加要素と言えます。

南ユトランドはグリーンエネルギーとセクター連携における先行的商業プロジェクトに

2021年5月、政府の地域成長チームは、デンマーク全土の将来の発展と雇用を促進する観点から、デンマーク周辺の地域の強みと可能性に政府が最適な投資を行う方法についての提案を発表しました。地域成長チームは、今後数年間にわたってデンマークの強みを生かす、8つのローカルな先行的商業プロジェクトの設立を提言しました。

南ユトランドは、PtXソリューションの急速な移行と発展のための特別なポテンシャルを秘めています。この地域は、送電網の地理的位置をはじめ、西から東そしてドイツに向かう大きなガスパイプラインのある良好なインフラ条件、そして数多くの大手グリーンビジネスの存在により、特に有利な条件を備えています。そこで地域成長チームは、南ユトランドにグリーンエネルギーとセクター連携のナショナルセンターを設立し、将来のグリーン雇用の波に対応する労働者の確保と育成を推進することを提言しました。

また、CCSやCCUソリューションの開発に意欲的な北ユトランドや、同じくPtXプロジェクトを推進するボーンホルム(Bornholm)の先行的商業プロジェクトにとっても、PtXは重要な存在になると考えられます。

政府は、地域成長チームからの提言に基づき行動するために、いわゆるREACT-EUイニシアチブから5億DKKを割り当てました。デンマーク全土で、地域と国の関係者が地域コンソーシアムとして結集し、地域の先行的商業プロジェクトを開発するための資金を共同で申請しています。「デンマークはもっとできる I」改革案の一環として、政府はEUの構造基金(Structual Funds)だけでなく、公平な移行のための基金(Just Transition Fund)からさらに5億DKKを割り当て、今後数年間で合計10億DKKを地域の先行的商業プロジェクトの開発に割り当てることにしています。政府はまた、地域コンソーシアムや自治体間のビジネスインキュベータおよびデンマークビジネス推進委員会(Denmarks’s Business Promotion Board)と、これらの地域のポテンシャルを支援し、さらに発展させることを目的としてパートナーシップを結ぶ予定です。

政府の今後の取り組み:

  • デンマークはもっとできる I」改革案で述べられている通り、地域成長チームからの提言の実行のためにすでに割り当てられているREACT-EU資金からの5億DKKに加えて、8つのローカルな先行的商業プロジェクトを開発するためにEU資金から追加で5億DKKを割り当てる。
  • 南ユトランドを含むデンマークの8つの先行的商業プロジェクトについて、地方コンソーシアムとのパートナーシップを締結し、今後数年間の地域先行的商業プロジェクトの発展に寄与する。これらのパートナーシップは、PtXが市場条件でどのように機能するかについて、南ユトランド地方の関係者と政府が行う対話のフレームワークを形成するものである。

Power-to-Xの市場導入への政府支援

  • 2021年の研究予備費等の配分に関する合意により、運輸・産業向けグリーン燃料のミッションを含む4つのグリーン研究ミッションに約7億DKKが配分された。イノベーション基金デンマーク(Innovation Fund Denmark)は、2021年末に資金配分の詳細を決定する。PtXミッションには約1億9,500万DKKが割り当てられている。
  • 2022年の研究予備費等の配分に関する合意により、グリーン研究戦略(Green Research Strategy)からPtXミッションを含む4つのミッションに2億9500万DKKが追加で割り当てられた。
  • 水素に関する「欧州共同体の重要な利益となるプロジェクト」(IPCEI)へのデンマークの参加に関する合意により、政府は、EU全体に利益をもたらす国境を越えた大規模な開発プロジェクトの支援を目的とする「欧州共同体の重要な利益となるプロジェクト」へのデンマークの参加に8億5000万DKKを投じた。
  • PtX企業は、グリーンソリューションのテストスキームの資格を得る最初の企業となった。2021年5月、デンマークエネルギー庁は、Greenlab SkiveとBrande Brintに規制テスト地域としての地位を与え、エネルギー分野における多くの規則や規制を免除することを認めた。グリーン水素の製造・開発に注力する両社は、それぞれこの分野の法整備に役立つ可能性のある実践的な経験を積むことができる。
  • EUDP補助金とエネルギー貯蔵資金プール:政府は、PtXソリューションの研究、開発、実証に合計約4億DKKを投資している。このうち約3億DKKはEUDP一般補助金とPtX特別資金プール、また128DKKは蓄エネルギー資金プールで、HySynergyとGreenLab Skiveと呼ばれるプロジェクトがこれらの補助金を獲得している。

目標3:Power-to-Xとデンマークのエネルギーシステムの統合を進展させること

小括:PtXは、統合エネルギーシステムにおいて、電力、熱供給、ガスシステムとともに機能することができ、特に電力システムとの統合が重要になります。電解プラントは、風が吹いていて電気料金が安いときには大量のグリーン電力を消費し、風が吹いていなくて電気料金が高いときには停止するというように、電力システムにおいて重要な役割を果たすことができます。そのためには、発電所を柔軟に稼働できることが必要です。柔軟な運転ができれば、電解プラントが稼働している時間帯や、再生可能エネルギーの生産量が多く、一般的に電力価格が安い時間帯は、再生可能エネルギー設備の約定価格が高くなります。特殊な条件下では、柔軟かつ適切な位置に設置された電解プラントは、送電網の強化や投資の必要性を低減または延期し、生産過剰の時間帯に再生可能エネルギー施設の約定価格をサポートすることができます。

政府は、PtXが電力・ガス・暖房部門と調和するようにシステムに統合された、統合的で柔軟なエネルギーシステムに貢献できるような枠組み作りに取り組みます。そのため、政府は、PtXプラントのデンマーク周辺に置ける設置場所が、柔軟性を提供し、系統の拡張や補強の必要性を低減することで電力システムに価値を創出できる場所になるよう、基本条件を強化します。

目標3

政府の今後の取り組み

  • 立地に応じて異なる消費料金のオプションを提供し、Energinet と配電会社に、大口電力消費者の消費料金を地理的位置に基づいて変動させるオプションを与え、それによって、料金に実際の電力コストがより多く反映されるようにする。これにより、PtXプラントを送電網の適切な場所に設置する金銭的なインセンティブを与え、送電網のより効率的な利用に貢献することができる。
  • 社会経済的に有益と判断される場合、主要な電力消費者と電力生産者の間、例えばPtXプラントと風力発電所/太陽光発電所の間を直接リンクさせるような、申請ベースのスキームを作成すること。
  • 南ユトランド成長チームからの提言に基づき、PtXと地域熱供給の連携を含む、グリーンエネルギーとセクター連携のための先行的商業プロジェクトを確立するために行動する。

統合された柔軟なエネルギーシステムに貢献するPower-to-Xへ

PtXプラントは、運輸・産業用のグリーンガスや液体燃料を生産するために大量の電力を消費します。このプロセスで、大量の余剰熱が発生します。PtXプラントは、図12に示すように、より統合的で柔軟なエネルギーシステムに貢献することができます。

図12. PtXは、電力供給と送電網の価値を創造し、地域熱供給のための熱を提供し、輸送と産業のためのグリーン燃料を生産することができる。(出典:デンマークエネルギー庁)
図12. PtXは、電力供給と送電網の価値を創造し、地域熱供給のための熱を提供し、輸送と産業のためのグリーン燃料を生産することができる。(出典:デンマークエネルギー庁)

Power-to-Xと電力系統との相互作用

デンマークの電力供給は、風力発電を中心とした再生可能エネルギーによるものが多くなっています。このため、送電網だけでなく、その他の電力システムにも様々な改善が求められています。

PtXの中核である電解プラントは、柔軟な運転が可能であるため、PtXプラントは必要に応じて水素の生産量を上げたり、下げたり、止めたり、稼働したりすることができます。このため、電解プラントは、電力料金に応じて電力消費量を増減させることができます。電力料金は、再生可能エネルギーによる電力供給量に大きく左右されます。風が吹く秋の日には、基本的に電解プラントが稼働し、グリーン水素を生産するようになります。通常、電力価格が高くなる無風の日には、電解プラントは水素の生産量を減らしたり、完全に停止したりすることができます。図13は、電力価格が変動する1カ月間の電解プラントの稼働状況を示したものです。送電網が容量に近い、あるいはオーバーしている期間には、PtXの生産を減らしたり、完全に停止したりして、電力消費量を下げることもできます。電解プラントが適切な場所に設置されていれば、電力系統の有効活用に貢献し、系統増強の必要性を低減または先送りできる可能性があります。

図13. 変動する電力価格のもとでの1ヶ月間の電解プラントの運転状況を示す図(青い曲線)。電気分解プラントは、電力価格が灰色の線より下にあるときに稼働し、青いフィールドはプラントが稼働してグリーン水素を生産している期間を示している。グレーの線は、水素の生産コストを最適化する電力価格を表している。(出典:デンマークエネルギー庁)

Power-to-Xによる再生可能エネルギーの効率的な利用

再生可能エネルギーの拡大は、年を追うごとに増加の一途をたどっています。これは、再生可能エネルギーの生産量が多い時期には、電気料金の低下につながります。このような時期は、非常に低い電力価格での輸出の増加や、定期的な生産停止を余儀なくされることにもつながります。低価格での電力輸出は、デンマーク市場単体には利益をもたらしませんが、他国の電化やグリーン移行に利益をもたらすかもしれません。しかし、再生可能エネルギーの強制的な生産一時停止は、電力市場にもグリーン転換にも利益をもたらしません。

柔軟な運用が可能な大型電解プラントは、大規模な再生可能エネルギー生産にとって優れたパートナーです。電気をこれらのプラントに転用することで、送電網に多くの電力がある期間にその価値と約定価格を高めることができます。これにより、デンマークでは再生可能エネルギーの容量拡大の中でも資金を増やすことなく、PtXが再生可能エネルギーの継続的な拡大を支えることができるようになります。

余剰熱の活用

PtXプラントから発生する余剰熱は、地域の状況に応じて、地域の地域熱供給網で使用されるか、バリューチェーンや産業界でプロセス熱として使用できる可能性があります。余剰熱の価値は、温度と熱の利用可能頻度によって大きく異なります。

温度が十分に高ければ、熱を直接利用することができます。そうでない場合は、温度を上げるためにヒートポンプが必要になり、熱供給コストがかさみます。余剰熱の温度は、電気分解技術の種類によって大きく異なりますが、現在の技術では、熱を直接利用できるほどの温度にはならないのが一般的です。また、水素をさらに変換するかどうかにもよりますが、その場合はより高い温度が必要となります。温度が十分に高く、年間を通じて多くの時間に熱を利用できるのであれば、地域熱供給網にとって価値あるものになる可能性があります。一方、1年のうち限られた期間しか利用できない場合、地域熱供給会社は他の生産プラントを設置する必要があります。PtXプラントは、電力価格に応じて柔軟に稼働することが期待されているため、このようなケースは往々にして生じると考えられます。

したがって、余剰熱の利用価値は、地域的な要因に大きく依存します。余剰熱利用の社会経済的価値は、送電網に照らし合わせた適切な地理的位置の社会経済的価値より低くなることが想定されます。従って、それを反映した枠組み条件を設定することが最も賢明な方法と言えます。

ご存じでしたか?

好条件下での電気分解による余剰熱は、電気分解技術の種類にもよりますが、水素製造の総コストを5~10%削減できます。コペンハーゲン・インフラストラクチャ・パートナーズ(CIP)社は、1GWの電解に基づくグリーンアンモニアと船舶燃料の生産から得られる余剰熱で、エスビャウ(Esbjerg)市とヴァルデ(Varde)市の一般家庭15,000軒にグリーンな熱供給を行うことができると想定しています。

電解プラントの適切な配置は、送電網の効率的な活用とエネルギーシステム全体との相互作用にとって極めて重要

立地に応じて変動する消費料金が、主要な電力消費者への重要なシグナルとなる

デンマークエネルギー庁の分析によると、電気分解プラントが送電網と調和して機能するための重要な前提条件は、プラントが地理的に適切な場所に建設されることです。電解プラントは、既存の送電網が新規の大規模な電力消費を統合できる場所に設置されることが重要です。これは一般的には、大量の電力生産が行われている地域であり、すでに大規模な電力消費が行われている地域は外れます。そのような地域を図14に示します。

図14. デンマークの送電網の容量マップ。PtXプラントがデンマークの送電網に価値を生み出すためには、通常、生産が盛んな地域に大規模な施設を設置する必要がある。(出典:Energinet)
図14. デンマークの送電網の容量マップ。PtXプラントがデンマークの送電網に価値を生み出すためには、通常、生産が盛んな地域に大規模な施設を設置する必要がある。(出典:Energinet)

図14は、2030年に予想されるデンマークの送電網の姿です。シェラン島などの消費地では、新規の大型再生可能エネルギー設備が接続され、消費地的属性から生産地的属性に転換していく可能性を踏まえ、その地域にPtXプラントを配置することも適切な選択肢になっていくと考えられます。

現在、デンマークの電力供給法では、消費料金の地理的な差別化を行うことができません。そのため、立地に応じた実際の送電網コストを反映した料金設定ができません。立地によって変動する消費料金の運用は、新しい大口電力消費者が送電網に対して適切に拠点を配置することを促し、それによって送電網の容量がより効率的に使用されるようになるため、社会経済的価値を創出することができ、送電網への投資を抑えることができます。

政府は、電解プラントなどの大口電力消費者に対して、立地によって変動する消費料金の選択肢を提供したいと考えています。この措置により、送電網の利用可能な容量と照らし合わせて適切な地域に設立するよう、大口電力消費者のインセンティブを高めることができるような、新しい料金体系が開発されることが期待されます。これにより、電力消費者と生産者のコロケーションが促進され、公共送電網に利益をもたらすと同時に、PtXとエネルギーシステムとの統合が強化されます

立地に応じて変動する消費料金は、PtXが市場の中で競争できるようにしなければならないという政府の目標にも寄与するものです。地理的な位置によって決まる、実際のコストをよりよく反映した料金は、電解による水素製造をより安くすることができるからです。

ご存知でしたか?

公共の送電網の使用料は、電気料金請求書を通じて、いわゆる消費料金の形で請求されています。Energinetと配電会社は、デンマークの電力供給法に定められた枠組みの中で料金を徴収しています。料金設定は、事前にデンマークのユーティリティ事業規制当局に承認されなければなりません。現在のところ、電力消費の立地に基づいて料金に差をつけることは許可されていません。このような差別化が認められれば、Energinetと配電会社は、十分な系統容量を持つエリアに位置した大口需要家からは低い料金で、一方、系統容量がより逼迫したエリアの需要家からは高い料金で請求ができるようになります。

再生可能エネルギー施設とPower-to-Xプラントの直接接続

直接接続とは、電力生産者と電力消費者の間の電力接続のことです。例えば、風力発電所と大口電力消費者(PtXプラントなど)が、公共の送電網を使わずに直接接続されることが考えられます。直接接続を確立するための具体的な最終ルールの策定次第では、電力消費者は、公共送電網に負荷をかけずに生産者から消費者への直接接続を行うことで、供給される電気への料金支払いを節約することができるようになります。料金支払いの低減は、電力の生産者と消費者のコロケーションのインセンティブを高め、送電網の拡張についても必要性を減らせます。また、PtXプラントは、確立された基準に従って直接接続の構築を申請し許可を得れば、直接接続により生産コストを引き下げることができます。直接接続線の構築に関わる費用は、事業者が負担します。

政府が今後行うPtXプラントなどの主要な電力消費者への支援

  • Energinetと送電会社に立地に応じて変動する消費料金を使用する選択肢を与える。
  • 申請ベースの電力生産者と消費者の直接接続の確立の機会
    • 例:社会経済的に適切とみなされたウィンドファームとPtXプラントの直接接続

立地に応じて変動する消費料金や直接接続の許可を与える可能性については、別の分析でより詳細に検討されています。具体的な料金モデルは、配電会社とEnerginetによって開発され、その後、デンマークのユーティリティ事業規制当局による承認のための審査を受けることになります。

余剰熱の利用は、社会経済的な利益をもたらす

地域熱供給網の近くにPtXプラントを設置することは、プラントから発生する余剰熱を利用するための前提条件です。デンマークエネルギー庁の分析では、この点に関して、電力系統に照らし合わせたPtXプラントの適切な配置の社会経済的価値は、プラントからの余剰熱の活用の社会経済的価値よりも優れていることが多いだろうと指摘しています。これは、地域熱供給網に近い場所はエネルギー消費が大きいエリアであることが多く、PtXプラントを設置するには必ずしも良い場所とは言えないからです。

しかし、例えば、エスビャウ(Esbjerg)のように、PtXプラントの設置によって経済的に合理的な方法で余剰熱を利用することができる場合、その余剰熱の利用を行うことが熱需要者、PtX生産者およびグリーン転換にとっての便益になります。2021年9月に政府と国民議会の幅広い多数派が締結した地域熱供給における余剰熱の利用を促進する政治合意は、PtXプラントからの余剰熱を地域熱供給セクターで利用するための良い枠組みとなりました。

政府が行ってきた柔軟性とセクター間連携への支援

  • 余剰熱の活用と電力による熱利用の料金引き下げに関する合意:2021年9月、政府と国民議会の幅広い政治的多数派は、地域熱供給部門における余剰熱の利用促進に関する新しい合意に達し、2022年に発効予定。電力による熱利用の賦課金の緩和と電力による余剰熱利用の賦課金の廃止とともに、新協定はPtXプラントからの余剰熱を地域熱供給部門で利用する好ましい機会を創出する。
  • 公正な移行基金(Just Transition Fund):デンマークは、EUの「公正な移行基金」から2021年から2027年の間に6億6300万DKKを受け取ることになっている。「デンマークはもっとできる I」改革提案の一部には、事業開発提案で構想された地域の先行的商業プロジェクト開発の一環として、政府の地域成長チームからの提言に取り組むために、公正な移行基金から少なくとも1億DKKを優先的に拠出することが含まれている。
  • 景気刺激策とグリーン・リカバリーに関する合意:デンマーク各地に8つのローカルな先行的商業プロジェクトを設立するという提言に基づき、7つの地域成長チームを設立し、いわゆるREACT-EUイニシアチブから5億DKKを割り当てることが決定された。さらに、2021年6月23日以降のEU構造基金(Structural Funds)の配分に関しても、推奨された地域の先行的商業プロジェクトの開発に4億DKKを優先的に充当することが決定された。PtXは、南ユトランドの先行的商業プロジェクトの中心的な役割を担うこととなる。また、CCSとCCUの開発に意欲的な北ユトランドや、同様にPtXプロジェクトを推進しているボーンホルム(Bornholm)の先進的商業プロジェクトにとっても、PtXは重要な存在になると考えられる。

目標4:デンマークがPower-to-X製品・技術を輸出できるようになること

小括:デンマークで製造されたPower-to-X製品および技術の輸出は、成長と雇用を創出し、デンマークとその企業に利益をもたらすと同時に、デンマーク国外でのCO2削減に貢献することができます。

政府は、デンマークが2030年と2050年のEUの削減目標およびパリ協定の目標の実現に貢献することを保証すると同時に、バリューチェーン全体にわたってデンマークのPtX産業の規模拡大と発展を可能にすることにより、デンマーク企業にとっての商業および輸出の可能性を活用するための取り組みを進めていきます。この点では海外投資家も大きく貢献することができ、投資の促進はこの目標達成にさらに役立ちます。同時に、技術革新に注力することは、将来のデンマークの輸出を促進し、海外からの投資を呼び込むことに貢献します。

そのため、政府は、PtX技術の規模拡大と開発に貢献する投資支援スキーム(目標2参照)に加えて、1)PtXプラントなどの大規模実証プロジェクトへの資金アクセスを創出し、2)デンマーク企業が認証されたグリーン水素およびグリーンPtX燃料を輸出できるようにし、3)最終的に他の欧州諸国への水素輸出に利用できる水素インフラをデンマークに構築するための枠組みを強化していきます。

目標4

政府の今後の取り組み

  • デンマークは2030年までに4〜6GW以上の電解能力の建設が必要という提言をまとめる
  • 最終的には欧州共通の水素インフラにつながる水素インフラの枠組みを作ることで、水素とPtX製品の輸出を支援する
  • デンマーク国内外におけるPtX技術・製品の商業開発を支援するため、デンマーク企業の輸出ファイナンスへのアクセスを含め、ベンチャーキャピタルへのアクセスを改善する。
  • デンマーク企業による水素とPtX技術の輸出を支援し、デンマークのPtXプロジェクトに海外からの投資を呼び込むよう働きかける
  • グリーン水素と生物起源サステイナブルCO2の欧州認証に関連する、明確で統一されたルールの作成に取り組む。

Power-to-Xはデンマークの新たな輸出市場になり得る

グリーン水素やその他のPtX製品(PtXを製造する技術やプラントを含む)は、今後、世界の運輸および産業のグリーン転換において重要な役割を果たすと期待されています。したがって、世界的な水素消費量の大幅な増加が予想され、ほぼ化石由来の水素に頼っている現在の消費分も、低排出量またはゼロエミッションで製造された水素に転換されることが期待されています。

2020年7月、欧州委員会はEUの水素戦略を発表しました。この戦略では、水素の生産とインフラの拡大について、3つの段階を設定しています。

  1. 2020年から2024年にかけて、EUの電解能力は少なくとも6GWに拡大
  2. 2025年から2030年にかけて、EUの電解能力は少なくとも40GWに拡大
  3. 2030年から2050年にかけては、グリーン水素の製造技術を成熟させ、普及させることが目標。これに加えて、第三国からのグリーン水素の輸入も並行して行い、2030年までに40GWを目指すこととする。

EUの水素戦略の立ち上げと並行して、多くの欧州諸国は、電解能力の確立に関する国家目標を設定した国家水素戦略を発表しています。図15に示すように、EU加盟国は合わせて2030年までに約28GWの電解能力目標を発表しており、EUの2030年の目標40GWには12GW不足しています。

EUの戦略、およびほとんどの国の戦略では、グリーン水素を最終的な目標としていますが、一部の国の戦略では、ブルー水素を過渡的な技術として位置づけています。ブルー水素は、天然ガスをベースとし、排出されるCO2の大半を回収して地中に封じ込める技術です。

図15. EU の水素戦略では、2030 年までに EU 加盟国間で 40GW の水素製造の目標を掲げている。多くの国が水素製造の目標を発表しており、EUの目標に対しての未達分は12GWである。また、イギリスとスコットランドは、最大10GWの水素製造の目標を発表している。
図15. EU の水素戦略では、2030 年までに EU 加盟国間で 40GW の水素製造の目標を掲げている。多くの国が水素製造の目標を発表しており、EUの目標に対しての未達分は12GWである。また、イギリスとスコットランドは、最大10GWの水素製造の目標を発表している。

つまり、海外ではPtX、特にグリーン水素への関心が高く、ドイツ、オランダ、ベルギーなど欧州のいくつかの国では、水素やPtX製品・技術の輸入を目指しています。ドイツ、オランダ、ベルギーでは、すでに産業分野で化石由来の水素を大量に消費しており、これをグリーン水素に置き換えることで、国内の産業から排出されるCO2を削減することができます。デンマークのPtX製品や技術の輸出は、デンマークにとって価値あるものであると同時に、世界のグリーン転換に貢献するものでもあると示すことができます。

政府は、デンマークが2030年までに4~6GWの電解能力を構築することを目指すべきであると提案しています。この拡大は、PtX分野におけるデンマークの輸出と商業的可能性の実現を支援しつつ、可能な限り市場に組み込む形で行われるべきです。この目標は、デンマークのグローバル気候フットプリントを低減し、国内および国際的な気候変動目標の達成に貢献することができます。デンマークの電解設備容量が4〜6GWの場合、いくつかの前提条件を考慮すると、2030年までに250〜400万トンのCO2削減が可能となり、そのうち最大200万トンは70%目標にカウントされます。

ご存知でしたか?

ドイツの水素戦略では、水素やその他のPtX製品を輸入するためのエネルギー・パートナーシップの確立に150億DKKを割り当てています。ドイツの水素戦略では、ドイツ市場向けのグリーン水素の潜在的な生産国として、北海の国々が挙げられています。ドイツのエネルギーコンサルタントであるアゴラ・エネルギーウェンデは、水素は主に近隣諸国との間で取引されるだろうと予想しています。

デンマークのPower-to-X製品は、海外のPower-to-X製品との競争力を有する

デンマークは、大規模な再生可能エネルギー資源、高い供給安定性、近隣諸国との接続が良好な電力系統を有しています。さらに、デンマークの企業は、PtXのバリューチェーンのすべての部分において専門性を有しています。こうした点から、デンマークは競争力のある価格でグリーン水素とPtX製品の輸出国になる上で、潜在的に良い立ち位置にいると言えます。

ご存知でしたか?

デンマークは、近隣諸国にグリーンエネルギーを輸出する上で非常に適した条件を満たしています。2020年、デンマークのドイツへの純輸出は3 TWhに達しました。デンマークは将来、海外で価格が高いときにも電気を輸出する予定です。電気を輸出することで、他の国の発電所の必要性を減らすことができ、気候変動対策としても貢献できます。しかし、ヨーロッパで電力をさらに南に電力を送るには大きな課題があります。この点で、水素の輸出により、デンマークはより多くのグリーンエネルギーの輸出に活路を開くことができますこの点で。水素の輸出により、デンマークはより多くのグリーンエネルギーの輸出に活路を開くことができます。

デンマークエネルギー庁の分析によると、デンマークにおけるグリーン水素の短期的な製造コストは、モロッコにおけるグリーン水素の製造コストと同等です。モロッコは、太陽光や風力発電の潜在力が高いため、北ヨーロッパ市場への大規模な水素供給のベンチマークとしてよく使われる国です。水素の輸送コストを考慮すると、デンマークはドイツやオランダなどの市場に地理的に近いという利点があり、短期的なコストはモロッコの水素と競争できるレベルです。

この開発に関して図16に示します。この図は、デンマークで製造されたグリーン水素を北西ヨーロッパの市場に輸送するコストと、それに対応するモロッコ産のグリーン水素のコストを比較したものです。デンマークでの水素製造と北西ヨーロッパ諸国への輸送コストは、規模拡大、工業化、枠組み条件の調整などの結果、モロッコで製造された水素の製造・輸送コスト以下のレベルになる可能性があります(目標2参照)。

図16. デンマークとモロッコにおけるグリーン水素の製造コストと、北西ヨーロッパへの輸送コストの予測。デンマークのコストは、技術の大幅な拡大と大量生産、水素インフラの確立、市場規制などを想定し、近未来と長期的なコストを示したものである。また、デンマークの電力は送電網から、モロッコの電力は専用の再生可能エネルギーから供給されると仮定している。モロッコでは、太陽エネルギーによる年間生産時間が少ないため、電解プラントの相対コストはデンマークより高くなる。(出典:デンマークエネルギー庁)
図16. デンマークとモロッコにおけるグリーン水素の製造コストと、北西ヨーロッパへの輸送コストの予測。デンマークのコストは、技術の大幅な拡大と大量生産、水素インフラの確立、市場規制などを想定し、近未来と長期的なコストを示したものである。また、デンマークの電力は送電網から、モロッコの電力は専用の再生可能エネルギーから供給されると仮定している。モロッコでは、太陽エネルギーによる年間生産時間が少ないため、電解プラントの相対コストはデンマークより高くなる。(出典:デンマークエネルギー庁)

Power-to-X技術の大きな市場は、デンマーク企業に利益をもたらす

輸出できるのはPtX製品だけではありません。デンマーク企業は、PtXとCCUSの専門知識を有しており、約70社の大手および中小企業がこれらの技術に取り組んでいます(図17参照)。

PtX技術には、電解ユニット、さらなる変換プラント、水素パイプライン、船舶用アンモニアエンジン、水素トラックなどの物理的要素や、セクター間の連携、インフラなどのコンサルティングサービスの輸出が含まれます。デンマークの企業は、PtXの技術を輸出するだけでなく、海外のPtX関係者にコンサルティングサービスを提供することができます。

Rambøll社が発表したレポートによると、デンマークのPtX技術の輸出は2035年までに1,000億〜4,100億DKKに拡大される可能性があることが示されています。この予測は、デンマーク市場が予想される世界市場の3%を占めるというRambøll社の仮定に基づいています。さらに、デンマークのCCUS技術の輸出は、デンマーク市場が予想される世界市場の1%を占めると仮定すると、2035年までに900億~1,900億DKKに拡大される可能性があります。デンマークのPtXおよびCCUS技術の輸出は、デンマーク企業およびデンマークビジネス全般にとって重要な輸出分野となり、デンマークに価値を創出することができます。

図17. デンマークにおけるPtXのバリューチェーン。このリストは網羅的なものではありません。
図17. デンマークにおけるPtXのバリューチェーン。このリストは網羅的なものではありません。

ご存知でしたか?

デンマークのPtXプロジェクトは、EUのイノベーションファンドを通じて資金調達に応募できます。2019年、欧州委員会は、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、産業プロセス、CO2の回収・貯蔵・利用の分野における新しい画期的なエネルギー技術の大規模な実証プロジェクトを支援するため、イノベーションファンドを設立しました。欧州委員会は、2020年から2030年までの間に、この基金が約250億ユーロを自由に使えるようになると見積もっています1 。最終的な金額は、近年大幅に上昇している割当価格によって決まります。2021年から2030年にかけて、同ファンドは、EUの排出権取引制度から約4億5000万個の排出枠をオークションにかけて得られる収益と、NER300プログラムから得られる余剰資金によって賄われます。

政府は、他の技術も含め、Power-to-X の中で商業用大規模実証プラントへの共同融資の機会を改善する。政府の「デンマークはもっとできる I」改革案には、デンマーク成長基金、デンマーク輸出信用機関、デンマーク・グリーン投資基金を1つに統合して、デンマーク投資基金(DIF)を設立することが含まれている。

さらに、政府はこの基金に17億DKKを出資することを提案しており、この資金はPtXなどの分野で商業的な大規模プロジェクトに取り組む企業への資金提供に利用されます。「デンマークはもっとできる I」改革案で、政府は、デンマークのPtX技術とプラントをスケールアップし、そのコストを下げ、世界の輸出品に変えていくことを目指す。

Power-to-X輸出の枠組み条件の確立が必要

デンマークの水素輸出には、水素インフラが必須条件

デンマークエネルギー庁の分析によれば、デンマークの水素をドイツのような国々に競争的に輸出できるようにするためには、デンマークの水素インフラが、計画的かつ将来のヨーロッパの水素インフラに接続されていることが重要な前提条件となります(図18参照)。南ユトランドの既存のガス輸送インフラの一部は、デンマークの輸出用パイプラインとして利用できる可能性があります。これにより、デンマークで生産された水素を、ドイツや北西ヨーロッパの他の輸入国で販売することが可能になります。

図18. 欧州の水素パイプラインに接続されたデンマークの水素パイプラインが、ドイツをはじめとする北欧諸国への水素輸出の道を切り開く。(出典:デンマークエネルギー庁)
図18. 欧州の水素パイプラインに接続されたデンマークの水素パイプラインが、ドイツをはじめとする北欧諸国への水素輸出の道を切り開く。(出典:デンマークエネルギー庁)

環欧州エネルギーネットワーク(TEN-E)規則は、天然ガスパイプラインをグリーン水素輸送に転換する国境を越えたプロジェクトに対し、コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)を通じたEU資金による融資の可能性を開くものです。2021年から2027年の間に、欧州のエネルギーインフラの開発を支援するために約440億DKKが割り当てられています。

政府は、水素インフラが水素の輸出において重要な役割を果たすことができるよう、枠組み条件を整備する。目標2において、政府は、新しいガス管の敷設または既存のガス管の再利用によって確立される、デンマークの強力な水素インフラの展望を打ち出している。それだけでなく、政府は、デンマークがドイツ、スウェーデン、オランダ、ベルギーといった国々との接続を通じてグリーン水素を近隣諸国に輸出できるよう、欧州共通の水素インフラの確立にも取り組んでいく。

水素と炭素の認証

短中期的には、グリーン水素は、炭素回収の有無にかかわらず、化石由来の水素と共存していくことが予想さます(いわゆるグリーン水素とブルー水素)。ブルー水素とグリーン水素は、低炭素水素として同じカテゴリーに入れられることもありますが、ブルー水素の製造は、より高いCO2排出量を伴います。したがって、デンマークで製造されたグリーン水素のグリーンな付加価値は、認証によって保護されるべきです。グリーン水素の認証は、グリーン水素を使用することによる気候変動の便益を反映したものであるべきです。デンマークエネルギー庁とEnerginetの市場対話では、水素が再生可能エネルギーに基づくという認証によって付加価値が得られることを示されました。

ご存知でしたか?

Energinetが、グリーン電力の消費量をより正確に記録するためのプロトタイプシステム「ElOprindelse」を発表しました。ElOprindelseは、グリーン電力の消費を記録する新しいプレミアム・スタンダードで、電力消費データが洋上/陸上風力/太陽光発電とリンクしており、それによって消費者は、1時間単位でグリーン電力の消費量を表示することができます。これにより、現在の発電源証明の課題である、電力消費量の計算が年単位でしか行われないという課題を解決することができます。

PtXプロセスは、純粋に持続可能でCO2ニュートラルであるとみなされるために、グリーン電力を使用していることを証明できることが重要です。このように、ElOprindelseは、グリーンエネルギー消費、セクター連携、PtXに潜在的な利点を提供します。

Energinetは、2020年に50以上の関係者とともにプロトタイプの市場テストを行い、需要と支払い意欲があることを示しました。さらに、ElOprindelseには、EnergyTagの下で国際標準の基礎を形成することと、EU委員会との対話の両方に関して、かなりの国際的関心が集まっています。

メタノールや航空機用燃料などの炭素質PtX燃料は、炭素を必要とします。しかし、このような燃料の全体的なCO2フットプリントは、炭素源に依存します。したがって、炭素の認証も透明性を確保するために重要です。

デンマークエネルギー庁の市場対話によると、グリーン燃料の生産者と購入者の両方にとって、炭素の認証はますます重要な競争ファクターになるとされています。グリーン水素と炭素の認証は、目標2の下で議論されています。

デンマーク政府は、グリーン水素と炭素の認証について、国境を越えた明確で統一された規則の制定を推進する。再生可能エネルギー指令RED II第27条に関連して、政府は、グリーン水素およびPtX燃料に関する公正な汎欧州的規則を推進する。これにより、デンマークで再生可能エネルギーから生産されたグリーン水素およびPtX燃料が欧州の国境を越えて取引される際に、高い評価を受け、デンマークとデンマーク企業に利益をもたらすことになる。

しかし、EUの共通規則やグリーン水素の認証だけでは不十分である。今後、航空機や船舶向けの炭素質PtX製品の生産が拡大するにつれ、使用される炭素が生物起源であり、持続可能であることを保証することが必要になってくる。欧州委員会は、CO₂排出量の認証制度に関する立法案を作成中であり、2022年末に提示される予定である。政府は、炭素の起源を記録できる欧州の調和されたシステムの開発を確保するために働きかけtいく。

再生可能エネルギーに基づくグリーン水素と持続可能な炭素は、デンマーク企業の利益のために政府が支援する重要な競争要因である。

グローバルな気候目標と国境を越えた協力

PtXが特に高いポテンシャルを持つセクターの中には、特に海運や航空など、国際的な競争の対象となるものがあります。つまり、デンマークだけでなく、世界の他の地域でも、これらのセクターの脱炭素化を促進できるような、野心的でグローバルな気候目標とルールが必要なのです。

デンマーク政府は、遅くとも2050年までに気候ニュートラルな海運部門を推進する。COP26では、デンマーク政府、マーシャル諸島、米国、英国、その他多くの国が、遅くとも2050年までに気候ニュートラルな海運を目指す共同宣言を発表した。デンマークの海運業界はすでに2050年までに気候ニュートラルな海運を目指す目標を掲げており、政府は他の主要な海運国と協力し、この目標を国連の国際海事機関(IMO)を通じて世界目標にするよう働きかけ、この目標を支援していく。そうすることで、政府はパリ協定の目標達成に貢献するだけでなく、環境に配慮した商業投資のための最適な枠組みを、現在もそして将来も、確保していく。

PtXがデンマークにとって重要な輸出市場となり、欧州や世界の気候変動対策に貢献するためには、他国との良好な協力関係が前提条件です。デンマークはこの分野で多くのパートナーシップを結んでおり、米国やノルウェーも参加する国際的な官民合同の「ゼロエミッション海運ミッション」や、デンマークに拠点を置く「Mærsk Mc- Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping」などがあります。

デンマークエネルギー庁は、ドイツ、英国、オランダ、米国、日本、中国、韓国、オーストラリアなど、水素やPtX元素の分野で活躍する多くの国の当局と協力関係にあります。これらの協力関係の焦点の1つは、洋上風力、地域熱供給、エネルギー効率など、より確立された技術へのグリーン投資の枠組み条件を改善し、グリーン移行とデンマークの輸出を促進することです。また、PtXやCCUSなどの新技術の規制に関して、各国当局間の共同開発や相互の情報交換の需要も高まっており、これはいくつかの二国間協力協定でも重点分野として取り上げられています。

政府によるPower-to-Xの国際的な普及への支援

  • ミッション・イノベーション:デンマークは、気候ニュートラルな海運を目指す「海運ミッション」の準備を推進しており、新ミッション「Mission Innovation 2.0」のミッションの1つに選定された。海運ミッションと並行して、電力ミッションと水素ミッションも立ち上げられる予定である。2021年6月には、政府はデンマーク、米国、ノルウェー、そして2つの主要な民間セクターであるグローバル海事フォーラムとMærsk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shippingが協力するゼロエミッション海運ミッションを立ち上げている。
  • デンマーク外務省商務部、イノベーション・センター、インベスト・イン・デンマーク: 政府は商務部を通じて、デンマークのPtX企業の新規市場参入支援に重点を置いている。また、インベスト・イン・デンマークは、海外のPtX企業のデンマークへの誘致に取り組んでいる。デンマークのイノベーション・センターは、新しい知識を得るためにPower-to-Xに関する協力に優先的に取り組み、それによって長期的にはPtXプロジェクトのための資金調達やPtX技術のさらなる開発および商業化に貢献する。
  • グリーン水素コンパクトカタログ:Green Hydrogen Compact Catalogueは、2021年9月の国連エネルギーサミットに関連して発足したデンマークのイニシアチブ。この中で、各国政府、国際的な組織、民間企業、その他のステークホルダーのグリーン水素の開発における国際的かつ分野横断的な協力を支援することを目指している。
  • デンマークエネルギー庁の二国間協力:エネルギー分野における他国当局との協力の一環として、各国のPtXに関する二国間協力を行っている。PtXは複数の正式な協力協定にも含まれている。
  • 世界首脳会議―躍進するアジェンダに関する声明:COP26に関連して、デンマークは、2030年までに水素を世界的に安価で入手可能にすることを目指し、水素を含むグリーン技術の開発に関する世界的な協力のためのイニシアチブに参加した。この連携は、クリーンエネルギー大臣会合のほか、ミッション・イノベーション、リードIT、ミッション・ポッシブルの後援を受け、IEAとIRENAが発表するステータス点レポートに基づいて行われる予定である。
  • LeadITサミット声明:デンマークは、官民すべての関係者が関与する国家行動計画に焦点を当てた産業転換に関する宣言を承認した。ここには、2050年のネットゼロ目標を持つグリーン水素の市場、ファイナンス、インフラなどが含まれる。

政府が掲げる「Power-to-X」のビジョン

現在、デンマークでは風力発電や太陽光発電によるグリーン電力が大量に生産され、ケーブルを通じて国中に送電されています。それでも依然として、デンマークは今後さらに多くのグリーン電力を生産できるポテンシャルを秘めています。この電気は、家庭や企業、交通部門で直接利用されるだけでなく、電化が不可能な重い交通機関や産業部門で化石燃料を代替する、水素やその他のPtX製品に変換される予定です。

この戦略は、デンマークでPtXを展開するための多くの目標を設定すると同時に、政府がPtXにさらに取り組むための重要な枠組み条件を整理しています。

デンマークのPower-to-Xに関する政府のビジョン

デンマークにはPtXの大きなポテンシャルがあり、政府はこの戦略の中で、水素やその他のPtX製品の開発、拡大、採用を促進するための4つの目標を示しています。

政府の「Power-to-X」戦略は、確実なものにすることを目的とした方向性を示しています。

  • Power-to-Xが、デンマーク気候法の目標達成に貢献することができること:この中には、2030年の70%目標、遅くとも2050年までの長期的な気候ニュートラル目標、デンマークがEU内およびパリ協定を通じて達成を約束している国際気候目標などが含まれます。そのため政府は、Fit-for-55パッケージ(航空・船舶分野を含む)において野心的な要件を推進し、グリーン転換のための生物資源の分析を開始し、水素およびその他のPtX製品生産の支援を目的としたPtX入札を通じて12億5000万DKKを投資する予定です。
  • デンマークの強みを生かし、長期的にPower-to-Xが市場競争できるような制度枠組みやインフラが整備すること:そのため、政府は水素に関連する規制の全面的な見直しを開始し、国内水素市場のための規制を作り、EnerginetとEvidaに水素インフラの所有と運営の選択肢を与えることとしています。政府はまた、グリーン輸送ハブとしてのデンマークの港の役割に関する機会とニーズの分析を実施するとともに、南ユトランド発展チームの提言に基づき、グリーンエネルギーとセクター連携のための先行的商業プロジェクトの設立に取り組みます。
  • Power-to-Xとデンマークのエネルギーシステムの統合を進展させること:政府は、大口電力消費者(PtX工場など)に対して、立地により変動する消費料金の設定を可能にします。これにより、送電網の負荷に基づき、地理的に適切な場所を探すようインセンティブを与えます。また、政府は、社会経済的に適切な場合、大口電力消費者と再生可能エネルギー生産者といった関係者の間に直接の接続を確立するための申請ベースの選択肢を提供し、それによって、公共送電網への料金支払いの低減、または完全な回避ができるようにします。
  • デンマークがPower-to-X製品・技術を輸出できること:したがって、政府は、国際的な気候目標の達成に貢献できる水素およびPtX製品・技術の輸出を支援しつつ、水素インフラの枠組み条件を確立し、デンマーク企業の輸出ファイナンスへのアクセスを含むベンチャーキャピタルへのアクセスを高めることにより、デンマーク企業のビジネス機会を促進します。また、政府は、デンマークが2030年までに4~6GWの電解能力の建設を目指すことを提案します。さらに、政府はデンマークの経済界と協力して、2017年からエネルギー輸出戦略を改訂し、PtX製品や技術の輸出を支援するためのパートナーシップベースのアプローチを構築することを視野に入れています。

2025年に向けて、政府は「グリーン・デンマーク・ロードマップ」にあるように、2030年までにデンマークの温室効果ガス排出量を70%削減するというデンマーク気候法の目標に向けた道筋を詳細に示すいくつかの戦略や提案を提示する予定である。

2022年には政府は下記の発表を行う。

  • エネルギーとユーティリティの提案
  • グリーン産業分野の提案
  • 重車両輸送の推進インフラ展開の戦略
  • 航空交通のグリーン化、グリーン産業、グリーンエネルギー・ユーティリティ部門への提案

2023年には政府は下記の発表を行う。

  • 道路輸送と船舶のための持続可能な燃料に関する提案

2024年には政府は下記の発表を行う。

グリーン・ソリューションの開発を加速するために、今後のミッションに沿った研究努力や横断的な取り組みを検討し、また、デンマークの気候法の目標をサポートする上での、優先順位の最適化を検討する。

2025年には政府は下記の発表を行う。

  • 気候変動対策への提案
  • 1
    Global afrapportering, Danish Energy Agency, 2021