Community Energy

コミュニティエネルギー

再生可能エネルギーの多様なオーナーシップに向けて

IRENA Coalition for Action Community Energy Working Group

IRENA Coaliton for Action は、世界のエネルギー変革を加速するために取り組むべきもっとも緊急性の高いテーマのひとつとして、再生可能エネルギー投資の規模拡大を挙げています。このレポートは、再生可能エネルギーのオーナーシップを拡大することのメリット、課題、機会を明らかにしたもので、コミュニティエネルギーワーキンググループのメンバーが共同で作成しました。

Community Energy

Broadening The Ownership of Renewables

IRENA Coalition for Action

元レポート 2018年

日本語翻訳 2021年

寄稿者

IRENA Coalition for Action Community Energy Working Group

日本語翻訳

古屋将太

IRENA Coalition for Action (2018), Community energy: Broadening the ownership of renewables, International Renewable Energy Agency, Abu Dhabi.

本レポートは “Community energy: Broadening the ownership of renewables” (2018) の非公式な日本語翻訳版です。英語オリジナル版と日本語版で相違がある場合は、英語版の記述が優先されます。

1. コミュニティエネルギーの概念

コミュニティエネルギーとは、再生可能エネルギープロジェクトに市民やコミュニティのメンバーが経済面・運営面で参加・所有することです。コミュニティエネルギーには規模の制限はなく、大規模なものから小規模なものまでさまざまなものがあります。2011年以降、世界風力エネルギー協会(WWEA)は、コミュニティパワーワーキンググループのメンバーが作成した定義を使用しており(WWEA, 2016)、Coalition for Action のコミュニティエネルギーグループもこれを支持しています。

以下の要素のうち、少なくとも2つの要素の組み合わせをもつプロジェクトをコミュニティエネルギーとします。

  • 地域の利害関係者が再生可能エネルギープロジェクトの大半またはすべてを所有している
  • 議決権の行使は、地域に根ざした組織によっておこなわれる
  • 社会的・経済的便益の大半が地域に分配される

しかし、コミュニティエネルギーの定義は、再生可能エネルギーへの投資や所有権をこの方向に誘導しようとする政府の意図に応じて、世界各地でさまざまなものがあります。また、コミュニティエネルギープロジェクトとして認定されるための要件は、エネルギー資産の民主化や分散型エネルギーシステムの構築を目指す各政策の実際の意図に応じて、多かれ少なかれ厳格なものとなります。そのため、世界中のコミュニティエネルギープロジェクトを単一の定義のもとに集積することには困難がともないます。

コミュニティエネルギープロジェクトの規模や範囲はさまざまです。自治体がプロジェクトの一部を所有したり、コミュニティの住民のみがシェアホルダーとなる協同組合が発電資産を所有したり、コミュニティが開発するエネルギー自立のコミュニティセンターや、自治体と市民のパートナーシップなどが含まれます(WWEA, 2016)。

2. コミュニティエネルギーの便益

再生可能エネルギープロジェクトにコミュニティが経済面・運営面で参加することは、プロジェクトの開発に対するコミュニティの受容と支援を構築する上で、重要な要素となります(REN21, 2017; WWEA, 2016)。コミュニティエネルギーのさらなる便益としては、以下のようなものが考えられます。

  • 新しい経済セクターの設立、雇用の創出、地域のアイデンティティの確立による地域の付加価値向上
  • 意思決定を共有し、計画や建設の透明性を高めることで、アクターの多様性を高める
  • 持続可能な経済プロセスへの市民の参加
  • エネルギー価格の低下
  • エネルギーアクセスと一般的な再生可能エネルギー導入率の加速
  • 技術とビジネスモデルの革新

何が問題なのか

未来のエネルギーシステムの構築にコミュニティが参加することは、効果的で包括的なエネルギー変革のために重要です。自治体は、地域の持続可能なエネルギーインフラを構築するための枠組みと支援をコミュニティに提供することで、エネルギー革命を促進する独自の責任を担っています。建築基準法の改善から地域暖房システム、より効率的で低炭素な公共交通機関、歩きやすい地域づくりまで、自治体は地域社会に持続可能で安価なエネルギーを供給する原動力となります。

3. 実践する上での課題

コミュニティエネルギーの開発には、規制・政策面での課題と資金面での課題の2つがあります。さらに、コミュニティエネルギーの定義が明確でないことや、文化的な問題、コミュニティ内の格差に関する問題なども障害となります。

規制上の課題

再生可能エネルギーへのすべての投資に影響を与えるものは別として、主な規制上の課題は、エネルギー市場へのアクセス不足と中小投資家に対する差別です。入札制への世界的な流れは、コミュニティベースの投資家やその他の中小規模の投資家にとって深刻な障害となっています。入札制は、大規模なプロジェクトポートフォリオと強力なバランスシートをもつ投資家のみが取り組める水準まで計画リスクを高めてしまうため、原則として大規模な投資家を優遇する傾向があります(REN21, 2017; WWEA, 2016; IRENA and CEM, 2015)。これは特に財務リスクに関して当てはまります。大企業や公益企業は通常、より多様なプロジェクトポートフォリオを持っているため、1つまたは複数のプロジェクトが成功しなくても、すぐに破産することなく受け入れられます。また、そのような事業主体は、計画や入札プロセスの複雑化に対応するための専門知識も豊富です。さまざまな例から、コミュニティ投資家に対する特別なインセンティブや詳細な定義があっても、必ずしもコミュニティや小規模な投資の強化にはつながらないことが示されています(WWEA, 2018)。

また、一般的にコミュニティエネルギープロジェクトは、あるプロジェクトの損失を別のプロジェクトの利益で補うことができないため、賦課金構造の変更などの規制の変化に苦しむことが多く、規制上のリスクに対してより脆弱です(REN21, 2017; WWEA, 2016)。

財務上の課題

財務上の課題とは、コミュニティが資本を調達する能力や、第三者の資金を利用できないことに関連しています。この問題は、発展途上国では特に重要です。コミュニティは、エネルギープロジェクトの収益から定期的にローンを支払うことはできても、プロジェクトの所有権や支配権を得るための資本を提供することは大きな障害となります。これまでのところ、期待される定期的な支払いや経済的厚生の向上、さらには土地の権利などをエクイティに変換できるようなビジネスモデルは確立されていません。

法的定義の不明確さと認知度の低さ

コミュニティエネルギーの明確で広く合意された法的定義がないことと、認知度が低いことは、このアプローチを広く採用するための第3の課題を構成しています。あまりにも流動的な定義により、実質的には上記のコミュニティエネルギーの定義に該当しないような投資でも、ビジネス上のメリットが生じることがあります(WWEA, 2018)。そのようなプロジェクトは、コミュニティエネルギーのコンセプトの力を弱め、そのポジティブなメッセージを弱め、評判を落とすリスクがあります。

文化の壁

文化的な側面も、コミュニティエネルギーの開発を妨げる要因となります。民主的な意思決定やオーナーシップの共有が一般的な国もあれば、歴史的な経緯や社会的な特徴から、これらが困難な国もあります。

さらに、最善の目的を持ったコミュニティエネルギープロジェクトであっても、利益が受け入れ側のコミュニティ内で平等に分配されることが自動的に保証されるわけではありません。そのため、コミュニティ内に緊張感が生まれ、コミュニティエネルギープロジェクトがもつポジティブなインパクトや、広く受け入れられる可能性が低くなります(WWEA, 2017)。

4. コミュニティエネルギーを促進するためのアクション

  • コミュニティエネルギー政策は、小規模な、特にコミュニティベースの投資家に対する差別を避けることを求め、すべての市場参加者に平等な市場アクセスを実現することが理想的です。この観点からすると、入札制はコミュニティエネルギーの展開を刺激するための望ましい手段ではありません(Fell, 2017)。政府はむしろ、分散型で統合されたコミュニティベースの再生可能エネルギーシステムと自家消費を奨励し、そのようなアプローチに対するあらゆる種類の障壁を取り除くべきです。固定価格買取制度は、小規模な投資家やコミュニティの所有権といった特定のニーズに合わせて調整可能であることが証明されています。また、この種の投資家に対する不合理なリスクもはるかに小さくなります(WWEA, 2016)。
  • 政府が入札手続きにコミュニティプロジェクトを含めることを希望する場合、これまで入札にもとづいて開発された再生可能エネルギープロジェクトでは、コミュニティエネルギー投資家が実質的な役割を果たしていないことを認識すべきです。より高いレベルでのコミュニティ参加を実現するためには、コミュニティプロジェクトのために合理的に高い容量を確保するなど、コミュニティプロジェクトに対する具体的な目標や規制を設定することが考えられます。しかし、この方法では、ほとんどのコミュニティが入札参加にともなう一般的な計画リスクを吸収できないという、基本的な問題を解決することはできません。
  • 再生可能エネルギーの支援制度を設ける際には、政府はキロワット時あたりの価格だけでなく、上記のようなマクロ経済的なコストと社会経済的な便益を総合的に考慮しましょう。このような全体的な分析は、長期的なエネルギーおよび開発計画の一部として行います。
  • 政府がコミュニティエネルギーへの投資に特別なインセンティブを設ける場合は、適切なグループを対象とするようにしなければなりません。つまり、コミュニティエネルギーの定義は、上記で説明したものと同様の一連の原則に従うことが必要です。議決権のような単一の指標だけでは不十分です(WWEA, 2018)。
  • コミュニティエネルギープロジェクトの支援を唯一の目的としたコミュニティエネルギー部局が設立されれば、アドバイザリーサービスや資金提供の機会を提供したり、ステークホルダーの関与を促進したり、一般の人々の認識を高めたりすることで、コミュニティプロジェクトの開発を大幅に加速できます。このような部局は、さまざまなレベル(地域、地方、国、国際など)で設立することが可能であり、既存の機関に統合することも可能です(REN21, 2017)。一部の国や地域では、コミュニティエネルギー投資の支援に重点を置いた組織がすでに設立されており、多くの場合、部分的に公的資金が投入されています。例えば、英国の Community Energy Scotland やオーストラリアの Community Power Agency などです(Community Energy Scotland, 2018; Community Power Agency, 2018)。
  • 世界レベルでは、国際機関がそのワークプログラムにコミュニティエネルギーを優先的に組み込むことができます。
  • エクイティギャップを克服するために、特に開発途上国においては、政府は金融機関が融資を行うことを促すための代替的なビジネスモデルの開発に貢献することができます。この分野では、特に多国間金融機関が行う公的保証が重要な役割を果たします。
  • 適切な国際金融機関であれば、開発途上国のコミュニティエネルギープロジェクトに特化した融資制度を設けることができます。そのような制度は、融資保証を提供するだけでなく、エクイティギャップの克服にも役立つでしょう。
  • 先駆者や新規参入者の間での学びは、コミュニティエネルギーのさらなる発展のカギのひとつです。ある国の優れた事例が他の国でも再現されることはよくあります。したがって、オープンイノベーションを促進するためには、知識、経験、アイデアを交換するためのネットワーキングのための定期的なスペースや会合の場を設けることが推奨されます。国内のコミュニティエネルギー組織やイベントの数が増えているなど、強化できる既存のネットワークは数多くあります。国際的なレベルでは、IRENA Coalition for Action のコミュニティエネルギーワーキンググループに加えて、世界風力エネルギー協会のコミュニティパワーワーキンググループや世界コミュニティパワー会議などのネットワークも、こうした取り組みに貢献できるでしょう。

参考文献

Community Energy Scotland (2018), website homepage, http://www.communityenergyscotland.org.uk/, (accessed 9 January 2018)

Community Power Agency (2018), website homepage, http://cpagency.org.au/, (accessed 9 January 2018)

Danish Energy Regulatory Authority (2017), heat price statistics,
http://energitilsynet.dk/varme/statistik/prisstatistik/

Fell, H.J. (2017), The shift from feed-in tariffs to tenders is hindering the transformation of the global energy supply to renewable energies, http://energywatchgroup.org/wp-content/uploads/2017/09/FIT-Tender_Fell_PolicyPaper_EN_final.pdf

IRENA and CEM (2015), Renewable Energy Auctions – A Guide to Design, http://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2015/Jun/IRENA_Renewable_Energy_Auctions_A_Guide_to_Design_2015.pdf

REN21 (2017), Renewable Energy Tenders and Community (Em)Power(Ment), http://www.ren21.net/renewable-energy-tenders-community-empowermentlatin-america-caribbean-report-launch/

WWEA (2016), Headwind and Tailwind for Community Power, http://www.wwindea.org/study-community-wind-threatened-by-discriminating-policies/

WWEA (2017), “Community Wind Experts Request Appropriate Legal Definition for Community Energy” (press release), 2nd International Community Wind Symposium 2017, http://www.wwindea.org/community-wind-experts-request-appropriate-legal-definition-for-community-energy/

WWEA (2018) (forthcoming), Community Wind in North Rhine-Westphalia. Perspectives from State, Federal and Global Level.